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横田広域警察24時  作者: 魚河岸ボブ
第1章 転生したらバイオレンスな法強制執行者になりました
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- YPD隊員のある一日の出来事 -

今回は、YPD隊員が普段どんな作戦に従事しているのかを紹介します。

 清々しい朝を迎え、春の陽気の中をV-22(オスプレイ)で帰還する気分は悪くなかった。ティルトローターはたしかに本能的に不安を覚えるが、整備不良で飛ぶ旅客機より余程安心できる。アメリカンサイズの大きめのトルーパーシートに体を預け、つい先程までの作戦を反芻していた。



『郊外の一角にあるテロリストの拠点を制圧する』…逮捕できなくても完全排除(・・・・)すればいいという、少々乱暴な作戦だった。ドラッグの密造と使用、銃器の密輸入に爆弾の製造と明らかにヤバい連中だから、まあ無傷で逮捕は難しいだろう。いつものように手早く準備をして集合する。弾倉と手榴弾でパンパンになったベストを見て、我ながら掃討する(殺る)気満々だなと苦笑した。

 

 ブリーフィングによると、重武装の2個分隊程度の人員がパーティーの準備をしているらしい。化学兵器の保有は無し、ガスマスクを付ける必要がないのは有り難い。


 明け方、目立たないよう陸路で移動し徒歩で潜入…それなりに気をつけていたつもりだが、相手をナメ過ぎていた。

 ドローンとかUAVとか言うと大層なものに聞こえるが、ラジコンヘリなんてその辺の模型屋で簡単に手に入る。奴等の使っている「監視用ドローン」ことカメラ付きラジコンヘリは、どこで入手したのか知らないが高性能なIRセンサーを積んでいた。我々は見事に見つかり、あと少しで敵のアジトになっている廃工場に到着、というところで激しい銃撃戦になった。やはりラジコンは早く見つけてさっさと叩き落とすに限る。今回はもう仕方ないので作戦を強襲に切り替え、悪態をつきながらジリジリと前進する。


 迷彩服を着た敵が不意に現れ、反射的に小銃(M14)で射撃、何発か脇腹に叩き込んだ。が、一向に倒れる気配がない。こいつらは不死身か…⁈恐怖よりも怒りと不快感が襲ってきた。廃屋の壁越しに1弾倉分の7.62ミリ弾を浴びせて沈黙させる。「クリア」とコールしながら前進。クスリでラリっているのかドーピングしているのか、いずれにしてもロクな奴等ではない。お守り代わりにマグナムリボルバーを持ってきて正解だったかもしれない。


 陸自から体験入隊(・・・・)に来た2人組が後ろからついて来る。YPDと協同作戦をやれば簡単に実戦経験が積めるので、この手のお客さんは定番になりつつある。正直面倒臭い。自分の組の他のメンバーは既に前進しているので、キルゾーンになっているらしい通路の突破は彼等と頑張ることになる。通路というより、回廊だなこれは。さっさと突破するに限る。


 気合いを入れて回廊に突入したが、薬莢が何個か転がっているだけで他には何もなかった。既に施設の最深部に進入している仲間が一度掃討している。敵が再登場する前にさっさと通過して仲間に合流したい。早く来いと後ろの連中を手招きし、前進。回廊を抜ける。

 奥から激しい銃声が聞こえてくる。ああ、うちの連中だなと思った次の瞬間、真横から敵が飛び出してきた。後続が仕留めてくれるだろうと思ったら、あろうことか連中は未だ回廊の向こう側で回廊の中(・・・・)を警戒しているではないか。…アホか、敵はとうの昔に後退して、俺の目の前で引き金を引こうとしているぞ!

 咄嗟に身をよじり、射撃しようとしたが時既に遅し。バシバシと胸に凄まじい衝撃を受けた。肺の空気が口から飛び出す感覚の直後、ゴーグルが爆ぜた。朝霞のPXで取り寄せたバリスティックヘルメットに傷がつくのは嫌だなと思うのと同時に、頭部をバットで殴られたような衝撃が走った。「ヘルメット、高かったのに」と思いながらその場に崩れ落ち、意識が途切れた。


 気がついた時には作戦が終了し、仲間が気の毒そうな表情で顔を覗き込んでいた。目立つ外傷はなかったが、アーマープレートとヘルメットは再使用不能になり、ストラップの切れたゴーグルもレンズが傷だらけになっていた。

「これ、高かったんだろ?」

と仲間の1人がヘルメットを差し出す。深い溜め息をつきながら受け取った。

「マッコイの革ジャンを我慢して買ったんだぜ、畜生」

 刑事課の連中が見ていなかったら、投降したテロリスト共を手榴弾(Mk3)で吹き飛ばすところだった。


 後続のはずだった無能共に説教してやろうと思ったが、陸自出身の同僚と班長が袋叩きにしていた。貴様らは陸自の恥だ、教育隊からやり直してこい腰抜け共…と真っ当な非難を受けている。初の銃撃戦でチキンになる気持ちはわからんでもないが、俺のヘルメットを返せと言いたい。勝手な判断で動いていいなんて誰も言ってないだろ?いや、動かなかったんだから余計タチが悪いな。よし、腕立て伏せ100回だ。




 横田基地に降り立ち、「少し寄り道してくる」と告げてエプロン地区の「HINODEベーカリー」に滑り込んだ。

 運良く残っていたクロワッサンサンドとバタークッキーを買って車に乗り込む。午前中限定のこの店は案外知られていない。他のメンバーも物珍しそうに眺めている。


 今日は出動待機だし、被弾後のメディカルチェックと報告書作成で少し遅くなりそうだ。帰りにスーパーのジャンバラヤ弁当を買って帰ろう。半額セールでメシが手に入るのだから残業も悪くない。そういえば新着任隊員の研修もあったな。こんなに忙しいのに残業手当も出ないのだから、少しぐらい隊員を労ってくれてもいいものだが。


 煤けたパッチをバリバリと剥がしながら、つくづく俺も社畜精神が身についてきたな、と思った。


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