Cold Steel -6-
何かにせかされるように、古い神社に辿り着いた。随分と昔からここに来なければいけなかった。約束の場所だ。
自分の中の誰かが覚えている?それともあの変な夢のせいなのか…
車を停め、参道を歩いていると道端に古い石灯籠があった。あの時見たのと同じ所に小さな凹みがある。
やはり、夢ではなかった。
本堂が見えたあたりで、見覚えのある人影が佇んでいることに気付いた。
「ミーア?」
恥ずかしそうに立っているミーアは、手に黒い物体を持っていた。
「これ、返さないといけなかったから…」
おもむろに突き出されたのは、何百年も前に大事な人に貸したっきりになっていたナイフだった。コーティングはすっかり剥げ、シースは原型を留めておらず、樹脂のハンドルも溶けてしまい握緒が代わりに巻かれていたが、馴染みのあるフォルムは間違いない。
「先に行って待ってろ、って言ったのに」
ミーアはぽつりと呟いた。
「何で敵に囲まれた千代が生き残って、お主が討たれてるんだよ?死ぬ気で頑張ったのに!千代は何のために頑張ったんだよ!」
ぽろぽろと涙をこぼしながら、ポカポカと殴ってくる。
「猫は100万回生きるんだ!何回でも生まれ変わって会いにいってやるって頑張って、ようやく会えたってようやく気付いた…!千代はもう、猫の姿に戻れなくなったけど」
鼻をすすりながらニコリと微笑んだ。千代、こんなに感情豊かだったとは。
「会いたかった!…当主、千代はずっとずっと前からお慕いしております」
ぼんやりとではあるが、自分が鼎源氏の生まれ変わりであることは自覚しているし、大して付き合いのない筈のミーアこと千代のことはまるで幼馴染みのように親しみを感じているので、ミーアの発言に驚くことはなかった。
しかし、滅多にない経験に戸惑った俺は、つい自分でも予想外の言葉を発してしまった。
「お友達から、お願いします…」
感動の再会が台無しだとひとしきり騒がれた後、一旦状況を整理するために場所を移して話をすることにした。
千代は何度も生まれ変わり、その度に俺に会おうと探し回ったものの、この数百年間ずっと再会は叶わなかったらしい。
「国家と結婚した女とか言われた時もあったけど、人1人探し出せないんだから大したことなかった」
とぼやいていた。最近は記憶もかなり薄れてきているが、それでも自分が誰なのかは覚えているらしく、酔うと素が出てしまうこともあるとか。時々「のじゃっ子」になるのはそういうことだったのか、と合点がいく。
ナイフは「いつかここに取りに来る人がいる」と神社の神主に頼み込んで預かってもらったとのことで、よくそんなお願いが聞いてもらえたものだ…と思ったが、どんな頼み方をしたのかは聞かないほうがいいかなという気がしたので気にしないことにした。結局、俺がここに来るキッカケになったのは薬莢のほうだったから、あまり大事に仕舞われているのも考えものだと思う。
千代とは元々家族みたいな関係だったから、程なくして俺とミーアの仲も深まっていった。とはいえ、立場とか世間体とか諸々の懸念があるので、節度を保った健全な交際をさせていただいている。
1番の悩みは、徐々に思い出した剣術や格闘術の腕前がメキメキと上達しているせいで、YPDの外から剣道や柔道の大会に声がかかるようになってきたことだ。上司からは交流の一環で行ってこいと言われるし、困ったものである。
手元に戻ってきたSRKは、綺麗に研ぎ直してコーティングを施し、新しいシースに入れてEDCキットの中に収めている。
大事な物は、どれだけ経っても諦めたり手放したりしてはいけない。




