ー 横田広域警察へようこそ!1 ー
手早く朝食の準備を済ませ、「並行世界の案内人」として女神から知識を得た愛猫もっちょんからこの世界のレクチャーをモグモグしながら受ける。
「なにしろ、この世界では大陸の力が強いな。南部戦区指揮官の暴走という名目でS角列島紛争が勃発、我が国が遅れを取ったところから極東の軍事バランス崩壊が顕在化したようだ。感染症流行に偽装したウィルス兵器による全世界パンデミックで西側諸国の経済力を擦り減らしたのも、見事としか言いようがない。少し荒んだ世界に見えるのは気のせいではないようだぞ、主人殿」
カリカリをついばみながらシリアスな話題を喋る黒猫、シュールだ。
「数年前からだが、アメリカ大統領…この世界ではロナルドという男らしいな、その対外強硬政策の影響によって世界各地で反米運動が活発化し、日本でも在日米軍へのテロ攻撃や過激派の反米活動、日米同盟撤廃を口実にした暴動が頻発するようになったようだ。
日本は『在日米軍に対する司法警察権の行使範囲拡大』という建前のもと、国内のテロ等の脅威を排除する公安部隊を新たに創設した。
厭戦気分の蔓延で規律を破り全国各地で犯罪に走る米兵を取り締まるという名目で、実際には政府や在日米軍などを標的とするテロ行為を取り締まるようになった。
主人殿が配属されるのがその法執行機関、『横田広域警察』だ。
私が女神に聞かされている話は大まかにはこんなところだな」
チャーちゃんが物凄くつまらなそうに聞いている。大事な話なんだから真面目に聞こうや。
「もっちょん、ありがとう。よくわかったよ。とりあえず今日はその転属命令をもらうのが目標かな」
思ったよりやばいかもしれないぞ、この世界。
いつものように着替えて、出勤!チャーちゃんは自分で登校するから放っといていいらしい。
チャリンコで10分の勤め先は今日もアメリカンな雰囲気でテンションが上がる。
着替えてCPに顔を出して上司に挨拶して…
「加藤、君は明日付で横田広域警察に転属となった。めでたく志願が受け入れられたよ。おめでとう」
「はい!ありがとうございます」ほう、転属を志願してたことになってるのか。
「最後の確認だ。転属命令を受領するか」
「はい。加藤眞、拝命します」
上司がいかつい顔を歪めて笑う。
「YPDは大変な所だが、加藤なら生き残って任務を全うできると信じている。頑張れよ」
周囲の仲間達も「命を大事にな」「無理すんなよ」と温かい声を掛けてくれた。
今日は身辺整理ということで、仕事は無しになった。元の世界では訓練の時と、最期の自爆テロ犯対処の時しかホルスターから抜かなかったM9ともお別れ。けっこう使い込まれた拳銃だったけど、初めての相棒で気に入っていた。
返納物品を全て返し、昼過ぎには全ての作業が終わった。
夕方、後ろ髪を引かれる思いで職場を後にする。
見送りに来てくれた人達は、口々に「死ぬなよ」「御武運を」などと物騒な餞の言葉をかけてくれる。さあ、新しい仕事へレッツゴー!
…なんか、予想より相当ハードモードなんじゃない?