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理事長室

「どっちにしても今日は終わりです。留年した君の事は明日考えましょう」


 留年留年言わないでもらえると有り難いんですけど。


「それでは今日は解散です!また明日も元気いっぱいで来て下さいねー!」


 男子の自己紹介の後半から下がったフィンケ先生のテンションが再上昇した。


「あと留年の君!」


 名前くらい覚えておいて欲しいんですけど。


「終わったら理事長室に来るよう言われているんだ。理事長が何の用だろうねぇ?留年の君に!」


 ちょうど良い。こちらも理事長には言いたい事がある。

 解散となっても俺に話し掛けるクラスメートはいる筈も無い。

 だが、それはかえって好都合だ。俺は逃げる様に早足で廊下を歩き理事長室まで来た。

 大きなドアをノックをすると、


「どうぞ」


 ドアの向こう側から低い声が聞こえた。

 ドアを引いて開けると、机の上の書類に目を通す理事長がいる。


「よく来たな、ケヴィン」

「何なんですか、あの教師は?」


 涼しい表情で俺を迎えた理事長とは反対に、こちらは自然と声が荒くなる。

 って言うか、怒り心頭だ。


「そう怒るな。彼しか都合が着かなかった」

「あんな教師が担任になるなんて聞いていません!一体どういう都合なんですか?」

「OBの勇者をE組の担任にするつもりだったんだがな、予定していた勇者が先日ミッション遂行中に死亡した」


「えっ!」


 衝撃の事実に声が出ない。何らかのミッション遂行中に死亡?勇者が?


「最後にパーティーを組んでいたのが、フィンケ先生なんだよ」


 そんな予感はした。やっぱりあの先生は全滅が着いて回るんだ。


「フィンケ先生は何者なんです?」

「彼は勇者でも何でもない。剣も魔法もお前の方が強い事は間違いない!だがな、紛いなりにも冒険者を続けて生き延びているという実績がある」


「パーティーは本人以外は全滅していますけど」


 淡々と話す理事長に皮肉を一つぶつけてみた。

 あんな担任になるとは、事前の打ち合わせでは聞いてない。


「まぁそうなんだが、自分以外のメンバーが全滅している状況から、生還している事が重要なんだよ、ケヴィン。冒険者に必要なのは戦闘だけではないと思っている」


 確かに一理ある。全滅する程の強い敵、又は厳しい状況から脱出しなくてはならないのだから。行ったきりで戻って来られなければ意味がないからな。


「戦闘に必要なスキルはお前がE組のクラスメートに教えてやってくれ。お前の方が適任だろう」


 それ、理事長として無責任発言ですから。


「それは難しいですね。留年した人間の言う事なんか聞きませんよ。多分」


 思い出したら、また憤慨する。


「理事長、あのフィンケ先生に全ての事情を話す訳にはいかないのかもしれませんが、もう少し気を使って頂けないと」


「確かに彼には言えないな。王太子殿下が世を忍ぶ仮の姿で入所されたとかな。そして殿下をお守りする為に、お前に留年してもらったとかな」


「不安しかありませんけど」


 正確には不満しかない。


「お前しかいないんだよ!養成所始まって以来の天才のお前しか!」


「はぁ、煽てても何も出ませんよ、おじさん!」


「理事長だろ、ケヴィン。それに俺がお前にお世辞なんか言うか!贔屓目無しに、史上最強の天才だと思っているさ。持って生まれた天賦の才、最強のコーチ陣に最高の環境!最強でない訳が無い!」


 この理事長、ウーベ・クリンスマンは父の親友で、小さい時から入所するまで「おじさん」としか呼んだ事がなかった。

 だからかクリンスマン理事長、俺の留年については我が家まで来て両親に直談判していた。


 俺の両親は共にこの養成所の卒業生で、父と理事長は一期生、母が二期生だ。

 母が二期生の勇者で、現在までに在学中のクララを含めて四人しかいない女勇者の初代でもある。

 俺が勇者としての英才教育を小さい頃から受けていたのも自然な流れだった訳だ。


「なぁケヴィン、この養成所は元来、王家の要望で出来たんだ。お前もある意味関係者なんだから」


「それは聞きました。母のワガママが由来だと。父もおじさんもとばっちりを受けての入所だったとか」


「確かにそうだが、それもまた良かったと思っている。お前も留年して良かった、とは言えなくても、悪くはなかったと言えるようになると思っている」


 理事長は諭すように語る。

 このおじさん、こういう時に見せる表情は優しいんだよね。何でいい歳して独身なんだろう?


「ところで、王太子殿下が誰か分かったのか?」


「いえ、全然。遠目には見た事が有っても、実際に会った事はもう十年くらいありませんし」


「そうか、従兄弟なのにな」


 俺の母は先代の国王の第十四王女だった。

 冒険者に興味を持った母のワガママで養成所の設立が決まり、養成所運営のテストとして貴族の三男以下が一期生として入所させられた。

 この中には、父と理事長が含まれる。

 創設二年目の養成所に母が、第十四王女、特待生として入所。

 一年先輩の父に惚れて、父と特訓して二代目勇者となり、卒業後結婚した。



 中々男子に恵まれなかった先代の国王、つまり俺の祖父には十五人の子供がいる。

 俺の母が十四番目で、最後にして唯一の男子が現国王となる。

 つまり、母は国王陛下の腹違いの姉であり、国王陛下は俺にとっては叔父、王太子殿下は従兄弟となる。

 

 とは言え、暫く会った事はない。

 おまけに、判明すれば不自然な態度を取り、王太子殿下である事が周囲に漏れ、危険を呼ぶ恐れがあるとの事で、誰が王太子殿下なのかは知らされていない。


 入所試験からクラス編成まで王宮が取り仕切っていた為、養成所側も誰が王太子殿下なのかは分かっていない。


 ただ、理事長が提案した俺に守らせる案は採用されたので、E組にいる事は間違いない筈だ。


 留年までさせられたのに、秘密主義も大概にしろ!

 誰だか分からないと守りようが無い!

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