俺の出番は?
「えーと、次は背の高い君だったな。前に出て来て自己紹介してくれ」
そう言われて一際大きい男子が立ち上がった。
兎に角大きい。このクラスで一番大きい事は間違いない。その次はフィリップか俺だと思う。その次に女子のマリーではないだろうか。
「名前はトーマス・アミリです。どちらかと言うと、身長が大きな方だと思います」
見れば分かるよ!
と言うツッコミを待っているのか?
「郊外の農家の三男ですが、三男だと農家は継げないから好きな事やっていいと親父が言うので、冒険者に成りたいと思ってこの養成所に来ました。よろしくお願いします」
「実家の農家は何を作っているんだ?」
「王都に近いから野菜を作っています。新鮮なままで王都の市場に出せるから、みんなも実家の作った野菜を食べるかもしれないですよ」
「農家と言えば、アンナの家は何を作っているんだ?」
「えっ?あ、はい」
フィンケ先生に急に話を振られて驚いたアンナはしどろもどろに返事をする。
「私の家は山の斜面を利用して果物を作っています。」
「はい、トーマスありがとう!次は君だ!」
心なしかフィンケ先生、男子はあぅさりしてる気がする。
次にフィンケ先生に指名された男子は小柄で目立たない感じの黒髪の男子だ。
女子全員への質問で、自分を色に例えば何色?って質問をした彼だ。
「オリバー・ジューレです。父は5年前に亡くなりました。母はパン屋で働きながら僕を育ててくれました。ここは学費が掛からないし、卒業後も良い仕事に就けるから入りました。よろしくお願いします」
「何が得意とか、何に成りたいとかは無い?」
フィンケ先生、いささか拍子抜けって感じで大人しく聞いた。
でもこの質問、聞いた方も聞かれた方も少し困っている様にも見える。
「お言葉ですけど先生、僕はみんなとは違うんです。皆が皆、高尚な目標が有る訳ではありません。僕みたいな奴だっているんです。
まぁ強いて言うなら公務員でしょうか。ここを卒業すれば警官や兵士など安定した仕事に就職できますからね。得意は特にありません」
オリバーはかったるそうに何の感情も込めずに淡々と言った。
それに対してフィンケ先生、まるで腫れ物に触るが如くの対応を見せる。予想外の出来事に対処出来ない様子だ。
「分かったオリバー。分かったから大丈夫だ。はい、ありがとう。これからの1年間よろしく!」
フィンケ先生、何とか乗り切ったって感じ。
パチパチと他に比べるとボリュームを抑えた拍手が起こる。
微妙な空気となってしまったけど、さぁ気を取り直して大トリは俺だな。
「これで全員だな」
フィンケ先生は教室を見渡して、言い聞かせる様に呟く。
「あの先生、まだ俺が」
仕方なく指名される前に自分から立ち上がった。
お蔭様で必要以上に注目集まってますが。
「あっ、君はいいです。言いたくない事もあるだろうから、大丈夫です」
大丈夫じゃないんですけど。更に注目集まってますけど。
「え、でも」
ここで謎を抱えるキャラにでもなったら、それこそ悲劇。
「君の気持ちは分かるよ!」
絶対に分かってないでしょ!
「教師として君を好奇の目から守りたいです」
先生、あなたが好奇の目を誘っているのですけど。みんなの注目が半端なく、視線が痛いんですけど!
「留年が何だって言うんだ!」
その瞬間、全員の視線を独り占めさせていただきました。
「留年?」
「留年なんて初めて見た」
「そんな制度あるんだ」
「よく留年したな」
皆さん言いたい放題です。