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戦い終わって

 光魔法で形成された剣をクララの心臓に刺したまま、浄化の光魔法を発動させる。

 心臓から浄化させる事で、身体の隅々まで浄化の光魔法が行き届く事を期待して。

 それに、首尾良く浄化されて光魔法を受け入れられる様になれば、そのまま治癒魔法に切り替えれば身体の傷も治る筈だ。


「アァアァ!」


 クララが、正確にはクララに入り込んだ闇の力が悲鳴を上げる。

 もう少しでクララを取り戻せる。

 と思い安心したのも束の間、状況が一変してしまう。急に虚脱感に襲われる。魔力が尽きそうになっている。

 剣に魔法を纏わせる事と、魔法で剣その物を形成するのとでは魔力の消費量が予想以上に違った。

 その上、この闇の力の予想を遙かに上回るしぶとさ、完全な誤算だ。


「エリーゼ、魔力譲渡出来るか?」


「無理よ。魔力無いの?」


 自分の魔力を他人に分け与える魔力譲渡。エリーゼでもやっぱり無理か。でもここで諦めたくはない!


「剣を形成するのに、予想以上に使ったみたいだ。もうすぐ無くなる。折角ここまで来たのに…」


「ねぇ、この養成所の講師なら誰か出来るんじゃない?」


「かもしれないけど」


「私、呼んで来るわ!何とか持ち堪えて!」


 エリーゼは勢い良く廊下に飛び出す。彼女の足音が次第に小さくなっていった。


 それから、どれくらい経ったのだろう?大して時間が経っていないのかもしれない。

 今度は大勢の足音が近付いて来るのが分かる。


「ケヴィン、大丈夫か?」

「理事長はクララのパーティーメンバーの捜索に行っているが、今いる教職員は全員来たぞ!」


 見ると、各科目の先生方、E組の面々も何故かいる。よく見ればフィンケ先生も混ざっている。

 

「クララ…」 


 集まった者は皆、クララに釘付けになる。

 勇者が勇者狩りをして、現在はこんな様なのだから。


「先生方、魔力譲渡出来ますか?」


 講師は皆、顔を見合わせる。誰も出来ないのか?

 ここまでか。

 絶望感に襲われるって初めてかもしれない。その初めて…今じゃなくて良いのに。


「あ、あの」


「何ですかフィンケ先生?」


 フィンケ先生が恐る恐る手を上げる。


「すみません。あの僕、出来ますけど」


「はっ?」


「ですから、僕は魔力譲渡出来ますけど」


 意外な人が出来た!


「本当ですか?」


「はい、裏方は大抵の人間が出来ますよ!」 


 なるほど、パーティーの縁の下の力持ちは伊達じゃない。

 勇者、剣士、魔術師が派手に活躍出来るのも、サポートをしてくれる裏方が居たからなんだな。


「先生、お願いします」


「分かりました。でも僕の魔力は大して有りませんよ」


「少しで良いんです」


「分かりました!」


 来た!魔力が来た!


「フィンケ先生、全部ください!」


「ケヴィン君、今ので全部です」


 これだけか!申し訳ないですけど、焼け石に水ですよ先生!


「先生、私達の魔力をケヴィンに渡せませんか?」


 マリーがフィンケ先生に聞いた。


「それは可能です。パーティーでは…」


「先生、その先はまた後日に。みんな、こっちに来て!」


 長くなりそうなフィンケ先生の話をカットするレオニーの好プレーで、すぐに魔力が貰えそうだ。


「フィンケ先生、我々の魔力も」


 養成所の講師達も寄って来る。これだけ貰えれば何とかなるだろう。



「こんな、バカな!」


 効果は確実に現れているが、まだ足りない!

 一体どれ程、闇が深いんだ?


「ケヴィン、もうダメよ」

「もっと魔力を上げておけば良かった」

「ごめん、もう立つ力も無い」

「こんなに疲れるなんて」

「申し訳ありません」

「もっと役に立ちたかったけど、残念だ」

「さっきよりかは、マシだけど」


 E組のクラスメイト達、アンナ、エマ、ルイーザ、レオニー、マリー、フィリップ、オリバー、その他にも講師達、エリーゼも魔力を使い果たしている。

 もうダメか?諦めるしか無いのか?


「ケヴィンがオリバーに魔力をあげたのが勿体ないね」

「そう、オリバーが魔剣に不用意に触るから」


「知らなかったんだよ!魔剣が魔力を吸うなんて」


 アンナとエマにオリバーが反論している。

 魔剣は魔力を吸収して、魔剣となる。俺のダルシャーンも俺の魔力をたっぷりと吸わせている。

 

「あの魔剣の魔力をケヴィンに渡せないの?」


 言ったのはレオニー。良い事を思い付く!


「先生、出来ますか?」


「出来ます!」


「先生の魔力が吸われる事は?」


「僕は荷物持ちや道具の整備も為ていました。道具の扱いなら任せて下さい」


 先生、必要な人材だったのですね!


「先生、お願いします!」


「はい、ケヴィン君!」


 凄い!凄い量の魔力が俺に雪崩れ込んで来た!

 それに元々は自分の魔力だからか、親和性というか、自分の身体がすんなりと受け入れる感覚がある。


「クララ!」


 光魔法の刀身が、より一層眩く輝いた。





 あれから二月経った。


 クララに同行していたパーティーメンバーは理事長に保護された。全員が重傷だったが、治癒魔法で何とかなったそうだ。

 一連の勇者狩りの被害は、死者六名、重軽傷者多数という事になった。


 もう八月も近いが、今日はクララの裁判の日。俺も証人として出廷する為、暑いのに正装で臨まなければければならない。


「エリーゼ、まだか?」


「女を急かせるもんじゃないわ!」


 まだ支度に追われているエリーゼを待つ。

 あれ以来エリーゼは王都にあるバーンスタイン家の屋敷とワーグナー家の屋敷を行ったり来たりしている。


「さぁ、行きましょう!」


 待たせておいて、何事も無かったかの如く振る舞うエリーゼと馬車に乗り込む。


「養成所はどう?」


「事が事だから一学期の間は閉鎖だったが、二学期からは再開出来そうだ」


「よかった。でも勉強が遅れちゃうね」


「他のクラスは知らないけど、E組に関しては大丈夫そうだ」


「どうして?」


「俺が与えた宿題を皆でやっているそうだ。魔法はマリーとフィリップが、剣はレオニーが教えているそうだ」


「二学期、どれだけ伸びたか楽しみね!」


「ああ。あとエリーゼ、E組と言えばあの一件の日なんだけど」


「何か?」


「お前、E組の連中に最敬礼してたよな?」


「当然でしょ。王太子殿下がいらっしゃるのよ」


「殿下?」


「夜会で何度かお目に掛かったのだけど、間違いなく殿下よ!」


「本当か?誰だ?」


「変装されていたから、隠したいのよ。だから秘密よ!」

 

 うふふと茶目っ気たっぷりに笑うエリーゼにその先を聞こうとするが、ちょうど馬車は裁判所に到着した。

 裁判にはエリーゼが最強の弁護団を作ったが、それに加えて母の人脈を使わせてもらった。

 その結果、今日の裁判長の師匠が弁護団に加わる事になった。


 裁判は恙無く進行され、判決の時が来る。


「犯行時の責任能力は無い物と推測されるが、原因となった仮面は自分の意思で被った事、また結果の重大さを鑑みて判決を言い渡す。被告人、クララ・マリッチに終身刑を申し渡す。尚、然るべき貴族の監督下にある場合は、その領内に限り執行を停止する」


 裁判長は続けてクララを諭す。


「貴女は魔物退治が出来ますね。今のワーグナー伯爵領内は特に魔物が多いと聞きます。一人でも多くの人を守る事が今後の貴女の贖罪になると思いませんか?」


「…はい」


 クララはそれ以上は何も言えなかった。ただ、その瞳から溢れる涙を拭っていた。

 裁判はそのまま閉廷となった。


 くじ引きでアンナとオリバーが傍聴席に居たが、閉廷するとすぐさま走って行った。

 裁判所の外で待つ連中に掲げるのだろう。(温情判決)と書いた紙を!


「エリーゼ、ありがとう。弁護団のお陰だ」


「バーンスタイン家は他の貴族と訴訟になっても負けた事が無いの。でも今回はお義母様の御人脈ね」


「今から姑を立てなくてもいいから!」


 退廷するクララが俺達の側を通り過ぎる時、小さくお辞儀するクララにエリーゼが声を掛ける。


「クララさん、ケヴィンは今は伯爵家の次男で領地の無い男爵だけど、勇者の称号を得られれば今までの功績と合わせて、晴れて独立して領地持ちに成れるわ」


「えっ?」


「それに、私は妾の一人や二人許容出来ない女じゃないわ。懐は深いの!」


 エリーゼは強がっている様に見える。


「エリーゼさん」


「もう暫くしたら、いらっしゃい」


 最後にエリーゼに優しく言われ、クララは大粒の涙をこぼす。

 そして俺に、涙を拭わずに微笑んで言う。


「もう留年しないで勇者になってね」


「おう、留年は一度すれば十分だ!」


「あの、正妻も待っているから」


「待ってろ二人とも、史上最強の勇者になって迎えに行くからな!」


拙い文章にお付き合い頂きまして、ありがとうございました。

反省点も多々有りましたが、それは次の糧としたいと思います。

重ね重ね、ありがとうございました。

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