光魔法
エリーゼに下がれと言ったが正直、闇の力に支配された人間から闇の力を取り除くなんてやった事がない。
光魔法で何とかなるのだろうか?
「ケヴィン様、光魔法を浴びせてクララさんを戻して差し上げましょう!」
誰かと思ったが、当然ながらエリーゼだった。
「エリーゼ、調子狂うから話し方は元通りでいいぞ!」
「そう言うと思ったわ!」
さて、光魔法を浴びせてみるか。
光魔法は治癒魔法の他にはアンデッドにしか使った事がない。
一応、アンデッドに効果的な魔法を無詠唱で使用する。効果が有れば完全詠唱する。
「どうだ!」
クララが僅かばかしだが、苦しんでいる様に見える。本当に僅かだが。
「効いてはいるみたいね」
「エリーゼ、光魔法は?」
「今のくらいなら。でも多分だけど、完全詠唱でも今のクララさんにはどうかしら?」
「やはりそう思うか。俺達二人で完全詠唱しても怪しいな」
「貴方も私もゼネラリスト。もっとも、貴方はそれぞれの分野でスペシャリストをも凌駕する実力が有るけど、このケースは光魔法のスペシャリストが必要よ!スペシャリストの知識や経験が!」
「クララがこれ程の闇の力を持っていたとは。完全に計算外だ」
闇の力が体内に有るのなら全部吐き出させた方が良いに決まっている。ここまでの方法は、間違ってはいない筈だ。
だが、クララが取り込んだ闇の力は予想を遙かに超える量、何とかしなくては!
「クララさん、身体に傷つけるけどごめんなさい!」
エリーゼは俺から三歩下がった所から光魔法を剣に纏わせて、剣圧としてクララに飛ばす。
エリーゼの剣圧は傷つけるなんてもんじゃない!当たった左腕は皮一枚繋がっているだけだ。
エリーゼの実力を考えれば、クララの腕を切らない様にギリギリの所を狙った筈だ。
「うそ!」
クララの腕はまるで何も無かったかの様に、たちまちに治っていった。傷どころか、瘡蓋一つ無い。
「一体、どれだけの闇がクララさんの身体に入っているの?」
「六人も殺したんだ。そして仮面が割れてもそれに支配されていたら…」
「ケヴィン?」
「どうせ死刑になるのなら、せめて俺の手で!」
ダルシャーンを構え、斬り込んで行った。
「!」
魔剣ダルシャーンはクララの身体の寸前で刀身が不気味に光ると、俺の身体を弾き飛ばした!
「どういう事だ?」
疑問を口にしたが、最悪な予想しか出来ない!
「多分だけど…」
エリーゼが構えを崩さずに俺に寄って来る。考えたくなかった最悪の事を言うのか?
「魔剣が斬る事を拒否したという事は、そういう事よ」
魔剣は意思を持つ。ダルシャーンが斬る事を拒否したという事は、ダルシャーン自身がクララを斬れないと判断したのだど思う。
最早、魔剣では斬れない。先日は風魔法を纏わせた剣で効果が有ったが、恐らくそれも無理だろう。
今のクララの闇の力はそれ程までに強大になってしまった。
「クララさん、ごめんなさい!」
エリーゼが再び剣圧を放つ。今度は遠慮無しに左手を切り落とした!光魔法なら効果が有る事は分かった。
光魔法の剣圧で落ちたクララの左手は灰の様に形を崩して消えた。
それに目を奪われていると、気が付いた時には切った筈の左手は元通りになっている。
「クララ!」
情けないが大声で呼びかける事しか出来ない。
「アフゥ」
人間とは思えない唸り声を上げるクララに美少女の面影は無い。
「エリーゼ、俺の剣を持って構えてくれないか?」
「いいけど、どうするの?」
「こうするんだよ!」
俺はエリーゼに構えてもらった剣にダルシャーンを振り下ろす。
すると刀身のほとんどが床に砕け散る。柄に近い部分だけが残ったが、思惑通りだ。
「剣をこんなにして、どうするのよ!」
「刀身に光魔法を纏わせるのではなく、刀身その物を光魔法にするんだ!」
剣に魔法を纏わせる要領で形を整える。調整は難しいが、これが出来なければ勝てない。
「クララ、絶対に元通りにする!人一人救えなくて何が勇者だ!」




