クララ
「こんな仮面を着けた事情を聞かせてもらおうか、クララ」
クララは自分が何をしていたのか、全く記憶に無いそうだ。
予想通り、あの仮面に支配されていたのか?
クララが落ち着いた様なので、事情を聞く事にした。
「勇者になってから私、勇者に相応しい人間にならなきゃって頑張ってた」
「それは認める」
クララの努力は誰の目にも明らかであった。
去年はよく一緒に稽古をしたから分かる。クララは努力家で素直だ。アドバイスを素直に受け入れ、努力を惜しまない。
勇者になってからは一緒に稽古はしていないが、より一層努力をしていたであろう事は想像に難しくない。
「より実践的な稽古をしようと思ってダンジョンに入ったの」
「ダンジョン?一人でか?」
「ええ」
答えるクララの顔に血の気がない。自分が何をしたのか分かっていない筈だが、ただならぬ雰囲気で自分がとんでもない事をしたのではないかと察した様だ。
「そんなダンジョンに一人なんて危険だろう!」
「すぐ戻るつもりだったの!」
「ダンジョンはどうだった?」
「魔物はあまりいなかったし、いても弱かったわ」
クララは記憶を手繰るように語った。
「そうか」
「それで出ようとしたら隠し部屋を見つけたの」
「隠し部屋?」
「ええ、そこにこの仮面と剣が置いてあって、仮面に誘われている様な気がして、仮面を着けたら記憶が無くなった」
「それはいつだ?」
「勇者になった直後よ」
フィンケ先生のパーティーが全滅した頃か。
「クララ、仮面を被った時の記憶は無いんだな?」
「ええ、外すと覚えの無い所にいたりして。怖くなるけど、暫くしたらまた仮面に誘われる感覚がしたの。そして仮面を被った」
今回の勇者狩りの被害者は、フィンケ先生のパーティーが四人、二人組の勇者、実習でクララと同行した二年生で生死不明者が六人。死亡が少なくて六人、最大で十二人か。
花瓶を割ったのとは違う。犠牲者がいては誤魔化す事も出来ない。
「まだ不可解な点は残るが、出頭しよう」
裁判には情状酌量を訴える証人として出廷するつもりだ。何とか死刑が免れれば良いのだが。
「教えてケヴィン、私は何をしていたの?」
「勇者狩り…」
「えっ?」
「お前が仮面を被った頃から勇者が三人、同行していたパーティーのメンバー三人が死んでいる」
「……」
クララは顔面蒼白だ。
「そして実習でお前に同行していたメンバーの内、六人が生死不明者となっている」
「そんな、私してない」
クララの瞳は涙で潤む。こんなクララは見たくはなかった。
「お前じゃない!仮面がさせた!」
強く言って、クララを抱き寄せる。クララは俺の胸に顔を埋めて泣きじゃくる。
俺はその震える肩を抱き締めるしかなった。
「もう、うざったいたらありゃしない!ケヴィンが証人として出廷して情状酌量を訴えても、良くて終身刑よ!」
突然、教室のドアが開けられエリーゼが姿を見せた。
「エリーゼ、外を任せた筈だが」
「流石に、旦那が他の女を慰めてる所を見たくは無いんですけど」
「旦那?」
クララが泣き止み目を丸くしている。
多分、俺も同じ表情だろう。
「バーンスタイン侯爵家三女、エリーゼ・バーンスタインですわ。ケヴィン様、許嫁の顔をお忘れですか?」
エリーゼはニッコリ微笑むが、一切記憶にございません!
明日も更新します。
来週完結させますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです。




