魔剣
仮面の女の襲撃から三日経った。
今の所、更なる被害は認められない。
「ケヴィン、すごい剣だね」
オリバーが舐める様に剣を見ている。
「これは魔剣だ!下手に触るなよ!触ったら精根尽きるからな!絶対に触るなよ!」
あれ以来、俺は自分の魔剣を養成所に持参している。
物騒なので、昨日までは理事長室に預けていたが、今日は理事長が不在なので教室に持って来た。
魔剣は握った者の魔力を吸う。俺にとっては微々たる量だが、魔力が無い者が握ると精根尽きる。
それに魔剣は剣自体が意思を持っている。魔剣が所有者と認めた者以外が抜こうものなら、酷い目に合う。
「ちょっと見せてくれよ!」
「ダメだ!止めろ!」
オリバーが興味本位でけ柄を掴むと、悲劇は起こった。
「あー!」
オリバーの髪の毛は白くなって逆立ち、白目を剥いて倒れてしまった。
「オリバー、しっかりして!」
アンナが呼びかけてもピクリとも動かない。
「ケヴィン、オリバーはどうしたの?」
「オリバーには魔力が無いから、代わりに生体エネルギーを魔剣に吸われたんだ」
レオニーの問いに、しょうが無いという思いを込めて答える。
絶対に触るなよと言ったのに!
「ちょっと見せてくれ!」
俺はオリバーに手をかざして魔力その物を放ち、注入してやる。取り敢えず髪の毛は元に戻り、意識も戻った。
「これに懲りたら忠告には従ってくれよ!」
さすがに懲りた様なので、これ以上は言わない。同じ失敗を繰り返すのなら、その時は自己責任だ。
オリバーは念の為に保健室に行かせた。
E組では間違っても魔剣に触らないように、皆が俺から距離を置いている。
「よし、いい機会だから魔剣について教えよう!それから魔力を高める練習だ。午後は剣術だ!」
「ケヴィン、魔力を高める練習は午後にしない?あれは精神的に疲れるんだけど」
異を唱えるのはアンナだ。気持ちは分かる。
魔力向上は襲撃の翌日から授業に取り込んだ。あの襲撃の時に皆がいなくて本当に良かったと思っている。
皆には自分の身は自分で守れるようになって欲しいが、現実問題として剣であの仮面の女とやり合う事は、どう逆立ちしても無理だ。
あの女と会ったら足止め、目眩まし、その他何でもいいから時間を稼いで逃げるしか無い。
それにはまず、魔法を使う下地を作らなければならない。
「ケヴィン君、大至急職員室に来て下さい!」
教室にフィンケ先生が飛び込んで来た。何かあったりようだ。
「分かりました。フィンケ先生、皆に、強い敵を前にした時の逃げ延び方をご教授願えますか?」
「喜んで!」
フィンケ先生は満面の笑みで快諾してくれた。今となっては、生き延びる事が最優先だ。
俺は魔剣、ダルシャーンを携えて職員室に向かう。
何が有ったというのだろうか?
「失礼します。ケヴィン・ワーグナー入ります!」
「よく来てくれた」
そうは言われたものの職員室面々は皆、顔をしかめている。
「何か有りましたか?」
「クララのパーティーが消息を断った」
「!」
「治癒師が一人だけ帰って来たが、仮面の女に襲われたそうだ。そして他のメンバーがどうなったのか、分からないと言っている」
「そうですか…」
悲しいとも、悔しいとも言い切れない、何とも言えない感情が心の奥底から湧いてくる。
その時だった!
「侵入者だ!」
門番が懸命に鳴らした鐘の音が、侵入者の存在を知らせていた。
俺はすぐに職員室を出て、迎撃に向かう。
あの侵入者がどこに向かうかは分かる。
一年E組だ。




