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対戦

「侵入者を見たか?」


 剣士二人と重戦士、それに魔術師で見回りをしている二年生の四人組に声を掛ける。

 この四人組、去年はB組で同じクラスだった。

 俺がA組でなかった理由を理事長に聞いた事があった。


「エリートとなるA組の生徒が、お前を見て自信喪失されても困るから」


 そんな理由でB組に入れられたが、良くも悪くも理事長の期待を裏切ってやった。

 クララを含めたクラスメイトを鍛え上げ、クラス対抗戦でA組を圧倒した。結果として、学年末のバトルロイヤル八人の勝者は全員がB組だった。

 目の前にいるのも同級生として鍛えた四人組だ。


「俺達も探しているんだ!」


「相手はかなりの手練のようだ。おまけに魔剣を持っている。四人でも厳しい!狭い廊下なら尚更だぞ!」


「狭い廊下だからこそだよ、ケヴィン!作戦としては、盾で凌いで後方から魔法で攻撃。怯んだ所を剣士二人で切り込むんだ!」


 やけに自信満々だ。二年生に進級してからも順調なのだろう。

 一抹の不安ほ残るが、ここは彼等のプライドを尊重しよう。


「侵入者を見かけたら声を上げろよ!あと、クララを見かけなったか?」


「知らないのか?クララは実習で魔獣退治に行ってて、養成所には居ないよ!」


 取り敢えず安堵した。クララが襲われる事が無いと分かると一安心だ。だが、その直後であった。


「侵入者だ!」


 男子生徒の声が廊下に響いた。耳にすると同時に俺と四人組は走り回る出した。

 俺達が駆け付けると、そこに仮面を付けた栗色の長い髪の女、侵入者がいた。


 オジウ先生と対峙しているが、その足元には胸を刺された男子生徒が横たわっている。


「先生、我等五名、加勢に来ました!」


「うむ、まずはあの生徒を救出しなければ」


「久し振りにケヴィンの剣が見られるぞ!」


 四人組は楽しみにしているが相手は魔剣だし、そんなに余裕は無い。

 俺は剣に風の魔法を纏わせた。魔剣に対しての出来うる限りの抵抗だ。


「我こそははケヴィン・ワーグナー、貴殿の名を聞こう」


 だが彼女は俺の呼び掛けには応えてくれない。

 魔剣を足元の男子生徒に再び刺すと、刺された男子生徒が彼女に代わって語り出す。


「ユウシャ、コロス」


 これ以上は彼が危険だ!

 俺は咄嗟に無詠唱で火球をほうりこむ。兎に角、彼から魔剣を抜きたかった。


 火球を連発してようやく離れてくれた。後は単純に勝負となるが、俺の剣は魔法を纏わせたとは言え魔剣ではない。


 事前情報から相手は突きに特化している事は分かっている。

 その突きはさすがに鋭い。かなりの実力者だ!


 何回か剣を合わせるが、剣を合わせる度に新しく魔法を纏わせる。こうでもしないと剣が持たない!

 剣に纏わせた魔法と、魔剣の魔力が反応したのか、剣を合わせる度に禍々しい輝きが放たれる。

 何回目かの輝きを放つと俺の剣は微かな音を立てて砕け散ってしまった。

 

 丸腰になった俺に遠慮無く斬り込んで来る!

 咄嗟に魔法障壁を張る。詠唱する時間を稼ぐ為に張った魔法障壁だが魔剣で二回斬り込まれて消滅した。


「紅蓮の鎖よ、我に仇なすかの者を捕らえよ!炎鎖!」


 思ったより時間が稼げずに簡易詠唱にもならなかった。しかし炎の鎖により動きは封じられた。

 炎鎖は拘束の魔法。抵抗しなければ熱くはないが、すれば熱くなる。

 

「勇者は剣だけじゃない。俺に勝ちたかったら魔法の対策もしておくべきだったな!魔剣は使いようで魔法を防げるが、お前は魔剣を使い熟せていない!」


「ハァハァ」


 勇者狩りの仮面の女は唸り声とも取れる激しい呼吸音を上げ、炎の鎖に藻掻き苦しんでいる。


「ケヴィン、こいつの仮面を剥がそうぜ!」


 四人組が安心して近寄り、仮面を剥がそうとすると、再び暴れだした。

 彼女を拘束している炎鎖は魔法だ。詠唱は簡易的なので、手にして離さない魔剣を使えば無力化出来るが、あの体制でそれをする事は自殺行為だ。

 

 だが、その自殺行為を彼女は選択した。

 手首の動きだけで自分を締め上げる炎鎖を魔剣で切る。しかしそれは自分の身体にも甚大な被害がある筈だ。


 彼女の唸り声が一層激しくなると、魔剣により遂に炎鎖は砕かれてしまった。

 そこには身体中を火傷し、更に血塗れになった仮面の女が立っている。

 彼女が剣を一閃すると、四人組は血飛沫を上げて倒れた。

 彼女は狂戦士なのか?

 

「ユウシャ、コロス」


 しきりに呟いている。

 同じ事をもう一度やるまでだ!


 俺は魔法障壁を張るが、今度は一度目で砕かれた!

 炎鎖を無詠唱で出すものの、魔剣で炎鎖が切られる!


 ならば、貫け!と念じて無詠唱の氷柱を彼女の真下に作る。

 氷柱で串刺しにしてやるつもりだったが、さすがに都合良くいってくれない。

 それでも氷柱は彼女の足をさらって逆さ吊りにしてくれた。

 

「ケヴィン!使え!」


 オジウ先生が自分の剣を俺に放り投げてくれた!

 鞘から抜いて感心する。さすが剣術指南、良い剣だ。


 彼女は魔剣で氷柱を砕いた為、頭から落ちたがお構いなしに突進してくる。

 俺は魔法を纏わせるべく刀身を見つめるが、あまりにも見事な刀身を見つめていると自分でも意外な程集中し、冷静になれた。


 相手の突きを躱しつつ踏み込み、後の先で手首を狙った。

 手首を切り落とすつもりで斬り込んだが、寸前で躱され剣は右手の指を三本切った。切り落とす事は出来なかったが皮一枚繋がっているだけだ。これで剣は握れないだろう。


 暫く唸っていたが、無事な左手で魔剣を拾い上げると一目散に走り出した。

 当然、火球を放って追撃はするが届く前に姿を消していた。


 あの栗色の髪、あの突き、見覚えがある気がする。


 その後、治癒魔法を使える者は怪我人の治癒をし、全員の回復が終わった頃には夜も更けていた。

 ちょうど良い。行きたい所があった。



 俺はいつかの酒場に足を運ぶ。


「あら、ケヴィン!会いたかったわ!」


「そいつはよかった。会いに来たんだ、エリーゼ」

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