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迎撃

「敵襲?何でしょうか?」


 右往左往しているフィンケ先生を尻目に俺は稽古場を出る支度をした。


「もしかしたら勇者狩りかもしれません。先生は自分の身は自分で守って下さい!」


「ケヴィン君は?」


「迎撃します!」


 俺は稽古で使っていた剣を携えて侵入者を探す。この剣、実は真剣である。

 警戒しつつ、いつでも剣を抜ける体制を取りながら廊下を突き進む。すると人影が目に入った。攻撃魔法を専門で教えている中年の男性講師だ。

 

「ケヴィン、いてくれたのか!」


「ええ、最近は自分の稽古が出来てなかったので居残りです」


 攻撃魔法の講師も迎撃するつもりなのだろう。彼も侵入者を探しているようだ。


「そういえば近日は職員室で事務員に混じってデスクワークしていたな。意外と様になっていたぞ!」


「勘弁して下さいよ。現場主義なんでペンよりも剣の方が性に合ってます!そんな事より、先生は今回の事情をご存知ですか?」


「詳しい情報は知らないが、既に四人が斬られているらしい。この養成所でこんな事が起こるなんて信じられないよ」


 四人も斬られているという事は、治癒魔法の使い手は其方に回っているという事。犠牲者が増えると危ない。


「ぎゃーっ!」


 悲鳴が廊下に響きわたる。俺達は即座に悲鳴がした方へ走る。


「しっかりしろ!」


 廊下を曲がった先にはやはり迎え撃とうとしたのだろう、二年生男子が倒れている。

 元同期生だから分かるが、彼は剣士志望だった筈だ。


「先生、治癒魔法は?」


「それなりに」


「お願い出来ますか?」


「やってみよう」


 彼が話せるくらいに回復すれば、何かの情報を聞けるかもしれない。兎に角、情報が欲しい。


「ケヴィン、これ変だ!治癒魔法が効かない!」


 養成所の講師になるのだから攻撃魔法が専門とはいえ、治癒魔法もそれなりのレベルの筈だ。

 その講師が慌てふためいて悲痛な叫びを上げる。


「貸して下さい!」


 俺は講師を押し退け、治癒魔法を使う。確かに効かない。


「しっかりしろ!」


 直接言葉で呼び掛けた。それと同時に治癒魔法を上位の治癒魔法に切り替える。僅かだが効果が見える。


「戻ってこい!夢が有るんだろ!」


 彼自身の生きる気力に呼び掛ける。

 こういう時は、傷は浅いぞ!ってよく言うが、刺し傷というものは深い。故に確実に仕留める時は斬るのではなく、刺す!

 そんな剣士の常識を実践されてしまっている。後遺症や心の傷も気になる。もう彼は剣士として生きる事は難しいかもしれない。でもせめて普通に暮らせるように、何とか生きて親御さんの所に戻れるようにしてやりたい!


「う、うっ」


 何とか戻って来たようだ。まだ安心は出来ないが、最悪の状況は脱したようだ。しかし、話はまだ無理だろう。


「先生、後をお願い出来ますか?」


「ここまで来ればもう大丈夫だろう。それにしてもあの傷は何なんだ?」


 ここまで治れば上位でなくとも治癒魔法は効く。講師は手を休める事は無かったが、自分の治癒魔法が効かなかった原因には興味があるようだ。


「あれは魔傷痍。魔剣で斬られた傷です。上位の治癒魔法でなければ効かない」


 相手が魔剣を持っているのは厄介だ。腕に覚えが有っても生徒は避難するべきだろう。

 もし斬られてしまえば彼の二の舞いとなる事は必定である。

 それに、相手が魔剣となると俺でも分が悪い。剣と魔剣を合わせたら、どう頑張っても二回目で此方の剣は使い物にならなくなるだろう。

 魔剣に普通の剣で挑むという事は、真剣に大根で立ち向かう様なものだ。


「先生、後を頼みます。俺は次の被害者が出る前に何とかします!」


「ケヴィン…」


 どうやら意識が戻ったようだ。これで一安心だ。


「ケヴィン、一突きで決められた。相手ほ仮面の女だ」


 必死に情報を伝えようとしてくれている。情報は欲しいが、息が激しいから無理はしないで欲しい。


「無理はするな!苦しかったら止めろ!」


「大丈夫だ、ハァハァ。遊ばれた。その気ならとっくに死んでいる」


 確かに、魔傷痍は刃1枚分急所から外れている。それはかなりの実力差が有る事を裏付けている。

 魔剣を使っておきながら、命を取るつもりは無いとでも言うつもりか?


 本当に勇者が狙いなら本命はクララの筈だ。

 だが彼を物差しにした場合、クララの勝ち目は薄い。 

 クララも間違いなく迎撃しようとしている筈だ。

 不味いな。


「間に合え!」

 俺は全力で走り出していた。

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