勇者狩り
「もう一つ、頭に入れておいて欲しい事がある」
理事会もそろそろ終わりって頃に理事長が切り出してきた。
「重要な事だから心して聞いてもらいたい」
こういう時にギャグとか言う人ではないので気になる。
「養成所出身の勇者が死んだ」
「なに!」
初めて聞いたのか、理事のほとんどは絶句している。
「理事長、前にも聞きました。それでフィンケ先生が来たって」
「ケヴィン、その時とは違う勇者だ。しかも今度は一気に二人だ!」
「えっ!」
「知らせを受けたのは昨日だ。」
俺も絶句した。発して良い言葉が見つからない。
「詳しい情報を教えてくれ」
理事の一人がようやく言葉を発した。
「一歳違いの勇者二人で組んで活動していたそうだが、三日前に王都郊外の森で二人共に遺体で見付かった」
「殺され方は?」
「急所を一突きされている。逆に言うとそれ以外の傷は一つも無かったそうだが、俺も遺体を見ていないから聞いた情報の分しか分からん」
その二人の具体的な強さは分からないが、勇者二人を相手に一撃必殺で仕留めた。その事実を聞けばかなりの凄腕である事がうかがい知れる。
「今まで一人も死んでいないのに、今年に入ってから三人死んでます。勇者が狙われているのでしょうか?」
「それは分からない。あくまでも個人的な考えだが、それはあり得ると思っている」
「何故そう思う?」
理事長に対し理事達から疑問がぶつけられる。
「今回、剣で急所を突いている。魔物ではない。それに、最初のケースも人である事は生き残ったフィンケが証言している」
「フィンケが何て?」
「敵は一人で、勇者だけを狙っていたと。他のパーティーメンバーは勇者に加勢しようとして殺された。とな」
なるほど、加勢をしたくても出来なかったフィンケ先生は見逃されたという訳か。殺す価値もなさそうだし。
「つまり腕の立つ誰かが、さながら勇者狩りを行っているという事なのかもしれない」
「理事長、これは理事会でついでに言う事じゃないぞ!」
理事達は一様に表情を曇らせている。
俺も動揺している。そして心配している。初代勇者、二代目勇者の両親の事よりも、現在進行形で勇者として育成中のクララの事が気掛かりでならない。
「提案があります!」
思うより早く俺は挙手をしていた。今更ながらクララを守ってやりたかった。
「ケヴィン、提案は一人一回と決まっている」
俺が言いたい事が分かっているのか、理事長はジッと俺を見て発言を許可してくれない。
「先ほどは父、エリック・ワーグナーの全権代理人でした。今度は我が母、シュテフィ・ワーグナー理事の全権代理人としての提案です!」
「いくらお前でもそんな無理が通ると思っているのか!」
理事長、何時になく強い口調で俺を制する。その時、俺を見つめる理事たちと目が合う。
「ケヴィンの様な奴は前例が無い。二つ目の提案を認めるかどうか、採決じゃないか?」
「そうだな、それが良い」
「理事長!」
理事達が口々に言ってもらえる。親戚の子供扱いも役に立つ事があるもんだ。
「決を採るまでも無い。ケヴィン・ワーグナー、提案を許可する!」
「ありがとうございます!」
俺は理事長に、そして後押ししてくれた理事達に感謝した。
「シュテフィ・ワーグナー理事の全権代理人として提案させて頂きます!」
理事達は、息を呑んで発言に注目している。理事長は分かりきった表情で平静を保とうとしている。
「当代勇者、クララ・マリッチの勇者称号の剥奪を提案します」




