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理事会

 五月も半ばを過ぎた。

 風薫るこの時期は好きな季節だ。木陰で昼寝なんて最高に気持ちがいい!

 今年は昼寝している暇がないのが残念だ。



「腰が入ってない!」

「力が入り過ぎだ!」

「違う!抜くのは肩の力じゃない!膝だ!」


 E組はフィンケ先生は便宜上の担任を続けてもらう。あくまでもお飾りで、授業の殆どは俺が師範代として教えている。

 基礎から優しく教えるのは中々難しいが、教える事は自分も基本を再確認出来るので、自分自身の為にもなるので満更悪くない。


「皆、もうすぐお昼だ!今日から給食が始まるぞ!」

「ケヴィン、本当に養成所でお昼ご飯を出してくれるのか?」

「ああ、楽しみにしていてくれ!」


 ヘトヘトになったオリバーに自信満々で答える。


 給食を実現するのに、骨が折れた。あれは半月前、五月の頭だった。


「昼食を養成所で用意しろ?」

「はい、理事長。要望書を提出します」


 理事長室の大きな机越しに理事長は俺がフィンケ先生の内容の無い授業中に書いた要望書に目を通す。

 

「これは理事会に掛けないとだな。お前、自分で提案してみろ」

「俺が?」

「お前には資格が有るからやってみろ!」

「でもおじさん、なるべく早く実現したいんだ。金が無くて昼食を削っている奴もいるんだ!」

「その思いを理事会でぶつけろ!定例ではなく、臨時の理事会を開催する」

「今やれば全会一致なのに」

「ふざけるな!あとケヴィン、すぐやれ。理事会の承認を待たずに事を進めろ!」

「良いの?」

「急ぐのだろう?」

「ああ、一日でも早く」

「なら、自分で動け。規模、内容、業者の選定、忙しくなるぞ」

「はい!」


 その四日後に臨時の理事会が開催された。


「ケヴィンじゃないか!立派になったなぁ!」

「ケヴィン今度、我が領内の魔物退治頼むよ」


 理事の殆どは理事長同様、両親の友人なので緊張感の無い理事会の開催となる。今日の出席者は俺と理事長を含めて七人。


「なるほど、学生はまだ成長期だから栄養面でサポートする必要が有ると言うのだな?」


「はい、体が資本ですから」


「昼食代を節約するという行為が理解出来ないのだけれど、そんな生徒がいるのか?」


「養成所に通う生徒には平民もいます。平民の中にはそうせざるを得ない者もいる事をご理解下さい」


「平民もいるって、貴族はお前だけだろう!」


 この一言で理事一同が笑いに包まれた。


「趣旨は良いが、予算だな」

「どの程度の規模だ?」


 理事たちの質問も予想通りだ。


「養成所内に厨房を新設する事は現実的ではありません。時間もお金も掛かりまし、場所もありません。ですから、仕出屋から弁当を納入させる方向で考えています。お配りする資料をご覧下さい」


 俺は自分で理事一人一人に資料を配って歩く。他に誰も配る人間がいないからだ。


「既に四社から見積書を取得しています。ですが安ければ良い訳ではありません。蓋を開けたら揚げ物ばかりでは話になりません。見積もり金額とクオリティーを精査し、業者を絞り、競わせる方向です」


 食べる事に苦労したことがない人達だが、理事たちの反応は悪くない。

 議長である理事長が決を採る。


「フリッツ・ワーグナー理事の全権代理人、ケヴィン・ワーグナーの提案に賛同する者は挙手を」


 全会一致だ!

 

 「本案は可決された。ケヴィン・ワーグナーは早急に取り掛かるように」


 理事長も他の理事たちも口元が緩んでいる。親戚の子供扱いだな、全く。

 他の議題としては、フィンケ先生に代わるE組の担任となる新しい講師を採用する事も話し合われた。こっちは自分が提案者ではないから採決に加われる。当然、


 全会一致で可決された!

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