1年E組 フィンケ先生
上級生代表の祝辞も終わった所で、今度は新入生代表が誓いの言葉を述べる。
新入生代表はA組から出る事になっている筈。
と言うのも例年クラス分けは入学試験の結果により、完全成績順となっている。
A組が一番優秀で、B組、C組、D組の順となる。
去年まではD組までしかなかったのに、事情により特別にE組が作られた。
俺はその事情に伴って留年と言うことでE組にさせられたが、新しいクラスメイトのレベルに不安しかない!
「新入生代表、フィリップ・ニールセン」
「はい!」
気持ち良いくらいにハッキリした返事と共にE組の男子生徒が一人立ち上がった。
あり得ない!
もしかしてA組ではなくて、E組が優秀なのか?それなら期待出来るかも!
新入生代表はさらりとした金髪で貴公子を思わせる顔立ちで周囲の目を引きながら登壇する。
「本日はお足下の悪い中、お集まり頂き誠にありがとうございます」
……俺の期待は後の壁よりも豪快に打ち砕かれた。
バカだ!こいつ!
今日は雲一つ無い快晴だぞ!
大方、誰かの挨拶文を丸写ししたのだろう。雨の日の挨拶だって気付けよ!
「以上を持ちまして、新入生の誓いとします。ご静聴ありがとうございました。新入生代表のフィリップでしたー!どーもありがとう!イエーイ!」
呆れて途中は聞いてなかったけど、やっぱりE組は不安だ。
「以上を持ちまして、第二十四回入所式を終了します。新入生はそれぞれのクラスで担任を待って下さい」
入所式が何とか終わった。
新入生が百人で五クラスだが、二十人ずつではなくクラスで人数が変わる。
エリート候補のA組は十人、B組は二十人、CとD組が三十人で、E組は留年の俺を含めて十一人となった。
因みに去年は、A組は十人、B組は二十人、C組は三十人でD組は四十人と組のレベルが低くなるごとに人数が増えた。
十人のクラスメートの内、少なくとも一人はバカであることが判明した。
「ねぇ君、さっきの勇者先輩の一撃をよくかわせたね。俺は何が起こったのか分からなかったよ」
「そうか、彼女にあれを教えたのは俺だから」
「え?またまた!」
話し掛けて来たのは短い銀髪の男子生徒。彼は冗談だと思ったのか、俺の肩をバチバチ叩いている。
本当、どうした物か。思案しながら教室に向かう。
取って付けた様な存在のE組は教室も間に合わせかと思いきや、意外と立派な教室だ。っていうか、矢鱈と広い!普通の教室の倍くらい広い。
E組は十一人の筈だから、広すぎだろう!
そんな事思っていたら、どうやら全員揃った様だ。
比率としては男子が六名、女子が五名。男子は俺がいる分一人多い。
六人の男子生徒の中には新入生代表だった、フィリップ・ニールセンもいる。
フィリップ・ニールセン、近くで見るとやはり中々の男前だ。何と言うか、ただそこに居るだけで独特の雰囲気を醸し出している。
自然と彼を囲む様に輪が出来上がったのも理解出来る。
「何で君が代表だったの?」
「僕にも分からないけど、ここに入所が決まった日に所長からお願いされたんだ」
輪の中でも一際目立つ金色のセミロング少女の質問にさらりと答えるフィリップ。バカである事を除けば優雅な王子様って感じだな。
次の質問を赤い髪のポニーテールの女子がしようとしていたが、そのタイミングで教室のドアが開いた。
「はーい、みんな席に着け!」
三十台後半くらいに見える男性教師が教室中に響き渡ってお釣りが来る様な声で言う。
見た目は長身で顔立ちも整っているし、間違いなくモテると思うけど、フィリップ同様バカっぽい感じがする。
「よーし!みんな席に着いたな!今日からこのクラスの担任します!先生の名前は、ゲルト・フィンケです!よろしく!」
間髪を入れず矢鱈と大声上げる教師だ。見たことがないから、新任?
「これからみんな仲間だ!おー!」
一人で盛り上がるフィンケ先生、一方で俺達生徒はドン引きするしかなかった。
「みんなに自己紹介してもらうけど、最初は先生がしまーす!」
さっきから無駄に大声で喋っているこのフィンケ先生、面白みが無いコントみたいだ。
「先生は半年前までパーティー組んで冒険者をしていました!運が良い事が自慢でーす」
「どういう運が良いんですか?」
よせばいいのに、さっきフィリップに話し掛け損なった赤い髪のポニーテール女子が聞いてみた。
「よく聞いてくれました!先生が加わったパーティーは全て!」
ここで一呼吸入る。
「凄い魔物を倒した?」
「目も眩むお宝をゲットした?」
教室のあちこちから、期待の声が湧く。
「違います!先生のパーティーは全て、先生を除いて全滅してます!」
「え?」
「つまり先生は、全滅するシチュエーションでも死にませんでした!何回も!これを強運と呼ばずに何と呼ぶ!」
言い換えれば、このフィンケ先生とパーティー組んだら漏れなく全滅するっていう事か?