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笑顔にする魔法

「アンナは治癒師で、エマは魔術師志望だったよな。二人とも魔法はまだ使えないだろうけど、養成所の試験で適正を見込まれた筈だ。これから頑張ろう!」


「うん!」

「ケヴィンが教えてくれるの?」

「ああ、暫くは俺が戦い方を教える。フィンケ先生はその内に担任を解かれるんだ。何時までも草の食べ方を教わっても仕方ない仕方ないからな」

「えっ!そうなの?」


 驚いたアンナが目を丸くして聞いてきた。エマも身を乗り出して聞いてきた。


「なんで分かるの?」

「理事長に聞いた。でもフィンケ先生のサバイバル能力はある程度評価されていてな、専門分野の講師として残るそうだ」


 二人とも驚いている。周りの皆も意外そうな表情を浮かべる。


「でもフィンケ先生は面白かったけど…」

「私には退屈だったわ」


 アンナがフィンケ先生をフォローする様に言うと、レオニーが直ちに打ち消した。


「私は解任でよかったと思うの。だって胸チラ作戦の時に私の胸元を何回もチラ見してたのよ!不謹慎でしょ!」


 エマが訴えるが申し訳ない、そこは強く同調出来ない。あれは男の本能を刺激する作戦ですから。


「エマはまだマシよ!勝ったんだから!私なんて見られただけなのよ!」

 アンナが憤慨している。


「アンナ、今日の勝利のキーパーソンはアンナだ!もちろん皆で掴んだ勝利だけど、あの作戦でエマが勝って勝負の流れを引き寄せたんだから!アンナあっての勝利だ!」

 エマとアンナには恥ずかしい事をさせた。感謝と申し訳なさでいっぱいだ。

「そう?」

 その気になってもらえると有り難い。


 次は予想通りに勝利したフィリップとレオニーだ。


「フィリップの戦い方は見事だった!あんな華麗なステップは俺には無理だ」

「素直に嬉しいな」

「レオニーも予想以上の強さだった!A組にも引けを取らないと思うくらいだ」

「今日の戦い方は不本意だったの!次こそ納得出来る戦い方をするわ!」


 不本意な戦い方で骨を十本以上折られた相手が不憫だ。


「二人ともかなりレベルが高い!鍛えるのが楽しみだ!」

「お手柔らかに頼むよ。役者は傷を作る訳にはいかないからね」

「私はガンガンお願いするわ!」


 対照的な答えだが、フィリップだってやり始めたら燃えるだろう。

 でなければ、あんな技は身に付けられない。


「マリー、ルイーザ、お見事!何時の間にあんな作戦を思い付いたんだ?」

「作戦を考えたのはルイーザです」

「いや、マリーが頑張ってくれたからだよ!」


 ルイーザもマリーもこれを機に打ち解けてくれたようだ。


「そう言えば、ルイーザの将来の目標は何だ?」

「私が養成所を出るのと同時に、妹は孤児院を出なければならない。だから、妹を養える仕事に就かなきゃならない」


 この国では義務教育は十二歳までで、それ以降の進路はは任意となる。孤児院に居られるのも十二歳までで、孤児院を出たルイーザは住み込みで働いていたらしい。

 まだ仕事を熟せない子供の貰う給金なんて小遣い程度でしかない。仕事を教えてもらう立場というスタンスだからだ。

 だからルイーザは貯金なんて殆ど無いだろうし、その延長で働いても妹は養えない。

 出来れば自身の幸せを掴んでもらいたいが。


「それは分かるけど、本当はなりたい仕事とか有るんじゃないのか?」

「有る…けど」

「何だ?」

「笑わないか?」

「もちろん!」


 何かオリバーと同じ展開になってきた気がする。

 ルイーザは少し深めに息を吸った。


「ウェイトレス……」


 ルイーザ、お前もか!


「ウェイトレスってあの、レストランで注文を取ったりする?」

「他にあんの?だから言いたくなかったんだよ」

「確認しただけだ。それで、何故ウェイトレス?」


 妹を養える仕事に就く為に養成所にきたが、本当はウェイトレスに成りたいって事かな。


「私はスラム街で母親と妹と暮らしてた。でも五年前に母親だった女は男と蒸発した」

「五年前って事は、ルイーザは十歳、妹は五歳か?」

「うん、そう。それで、母親が消える前の日に初めて外食に連れて行ってくれたんだ。こんな高級店じゃない、全然安い店だと思うけど」


 一同、黙って聞いている。最早、祝勝会の雰囲気ではない。


「その時に妹がコップを倒しちゃって、殆ど空っぽだったからこぼれたりはしなかったけどテーブルクロスが少し汚れて、母親はヒステリー起こしちゃって。雰囲気が悪い時に魔法使いが現れたんだよ」

「魔法使い?」

「って言ってもケヴィンが使う魔法とは違う。人を笑顔にする魔法だよ」

「どんな魔法です?」


 マリーまでもが、興味津々と聞いてきた。


「ウェイトレスさんがすぐに来て、隣のテーブルに移してくれたんだ」

「それが魔法ですか?」

「いや、私達がテーブルを移るとウェイトレスさんはわざわざ水の入ったコップを元のテーブルに置くと、テーブルクロスをサッと引いたんだよ!テーブルの上には水の入ったコップだけが有って、「替えのお水をどうぞ!」って言って妹に渡してくれたんだ!あれは私には魔法だよ!」

「そのウェイトレスさんがルイーザの目標ですか?」

「ああ、私もあんな人に成りたい」


 頑張ろう、ルイーザ!

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