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戦い終わって

 ルイーザが自分もろとも双子を場外に落とすという予想外の勝ち方に、闘技場は異様な雰囲気に包まれていた。

 破顔一笑、喜びに溢れるE組の面々。事実を受け止められないC組の生徒たち。顔面蒼白になっている生徒もいる。


「そんな、バカな」


 C組担任のエンゲルスは憔悴しながら声を絞り出した。

 E組担任のフィンケ先生はと言うと、此方も何故か目を大きく見開き、信じられないといった表情だ。


「ふざけるな!」

「お前なんかに!」


 場外に落とされた双子はルイーザを睨み付けるが、その双子をステージ上からマリーが睨みを効かせる。


「ルイーザに何か御用でしたらまず、私をお通し下さい」


 マリーはゆっくり丁寧な口調だが、その目で、『逆恨みでもしてルイーザをどうこうしようものなら、私が容赦しない』と脅していた。

 双子は共にどうする事も出来ない悔しさを滲ませながらも立ち上がり、


「俺達の負けだ」


 ボソリと呟き、去って行った。

 それを見届けて、マリーが声のトーンをガラリと明るくして、はしゃぐ様にルイーザを労う。


「ルイーザ、やりましたね!」

「いや、マリーが頑張ってくれたからだよ」


 ルイーザは照れくさそうに答えるが、きっと嬉しいに違いない。

 そんなルイーザの元へE組のクラスメイト達が集まった。


「ルイーザすごい!」

「マリーも頑張ったね!強かったよ!」


 マリーは褒め称えられているのに、余程恥ずかしいのか赤くなって俯いてしまった。

 この切り替えは、ある意味見事だ。


 「はぁ、腹減った」 

 安心したのか、皆に囲まれているルイーザが思わず漏らす。


 皆が集まったこの場を借りて、言っておこう。


「実は皆に謝らなきゃいけない事がある」

「ケヴィンが?何?」

「すまない!俺はみんなの勝利を最後で信じきれなくてセーフティーネットを張った」

「セーフティーネットって?」


 主にレオニーが不思議顔で応対してくれている。それ以外の皆もキョトンとした表情を浮かべる。


「理事長に、E組が負けた場合、俺対C組全員を戦わせるように頼んだ」

「えっ、ちょっと、ケヴィンと理事長ってどんな関係?」

「そういえば、よく呼び出されているよね!」


 驚くレオニー、記憶を辿るエマ。


「理事長は両親の友人で、小さい頃からよく知っているんだ。親戚のおじさん感覚で接している」


 その理事長が闘技場中に響き渡る声でE組の勝利を宣言しにステージまで来ていた。


「以上この勝負、E組の勝利とする!」 


「異議有り!」


 声を上げたのはC組担任のエンゲルスだ。


「E組の勝利は一つを除いて、およそ正々堂々とした剣の勝負とは言えません。これでE組の勝利とは」

「お言葉ですがエンゲルス先生、我々は一つも卑劣な手段ほ取っていません。もし知恵を使った事が卑怯と仰るのであれば、その程度の戦術しか組めなかった責任を先生は放棄なされるのでしょうか?」


 エンゲルスほ苦虫を噛み潰した様な顔で聞いている。


「ハッキリ言いましょう!C組の敗因はエンゲルス先生、貴方です!」

「う…ぬ…う」


 敗北を受け入れ難いエンゲルスのうなり声が鈍く響く。


「己の無能に生徒を付き合わせるな!」


 敢えて怒鳴った。これはフィンケにも言いたかった事だ。


「初心に返って、やり直しましょう、先生!」

「ま、参りました」


 穏やかに促すと項垂れたエンゲルスは力無く、負けを認めた。プライドだけは三人前に高そうな彼には屈辱以外の何物でもないだろう。


 決闘が終わればさぁ、祝勝会だ!


「皆、祝勝会やるぞ!一度帰って、私服に着替えて来いよ!制服で行く訳にはいかないからな!店は押さえておくから」

「私服…」


 ルイーザの表情が曇った事を見逃す俺ではない。恐らくは自由に使える金が少なくて服に困っているのだろう。

 さっき、思わず空腹を口にしたのも昼食代を浮かそうとしているに違いない。


「今日は皆頑張ってくれた!戦って無いのは俺だけだ!だから、祝勝会に着て行く服をプレゼントさせてくれ!」


 皆は戸惑っている。そりゃそうだろう。自分でも言ってて変だと思う。誰か拾ってくれ!


「まぁ、それではケヴィンにおねだりしましょう!」

 

 拾ってくれたのはマリーだ。マリーもルイーザを気にしてくれたようだ。

  



「こんな高そうなお店でいいの?」

「逆にここじゃないと顔で買えない」


 貴族御用達の店の前で心配そうに聞いてきたのはエマだが、俺は彼女を見ないで言った。


 案の定、入店した途端に店員が訝しげに来た。

「失礼ですがお客様…」

「俺を知らないとは新入りか?支払いは俺がするから心配は必要無い」

「ですがお客様」

「店主を呼んでくれ」

「警察を呼びますよ!」

「呼ぶべきは警察じゃない、店主だ!ケヴィン・ワーグナー男爵が来たと伝えろ!」


 こういう店は客を見る。だから必要以上に偉ぶった方が良い。

 俺の声が聞こえたのか、すぐに店主が早足でやって来た。


「これは男爵閣下、手前どもの教育が至りませんでした。どうかお許しを」


 高位貴族は爵位を幾つか持っているが、空いている爵位は息子に使わせる事が多い。

 ワーグナー家の場合、父は伯爵だが、空いている子爵は嫡男である兄が、そして男爵は俺が使っている。

 もっとも俺は、これまでの魔物退治の実績や母が王族出身なので、勇者称号を得られたら自前で男爵を拝命する事になっている。


 振り向くと、E組の皆は店の入口でポカンと突っ立て動かない。

 やはり事前に説明すべきだったか。

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