マリーとルイーザ
「ではこれで失礼します」
理事長にそれだけを言い残し、足早に皆の元へと向かう。
昼でも薄暗い回廊でいろんな事が頭を過る。
もしも理事長の言う通りに二年生になればどうなる?
勇者の立場はどうなる?
クララはどうなるのか?
でも、E組の彼奴らはどうなる?
治癒師になって無医村の地元の役に立ちたいアンナ。
船を襲う魔物を退治する魔術師になりたいエマ。
ひたすらに剣を振るうレオニー。
フィリップは置いといて、母子家庭で就職の為のスキルを身に付けに来たオリバー。
ようやく自分に素直になれたルイーザと、それを温かく包み込むマリー。
やっぱり俺は、一年E組なんだな。
薄暗い回廊を抜けると、視界に飛び込んできたのは、一人で二人を相手にするマリーと、マリーの後方で剣を構えてはいるものの何も出来ないルイーザであった。
双子の男子の二人掛かりの攻撃を一人で凌ぐマリー。ルイーザが後方にいるのはマリーの指示だろう。
下手に動き回られるよりもその方が良いのだが、マリーはきっとルイーザを守りたい一心で指示をしたのだろう。
「お前、やるな!」
「いつまでそうしていられる?」
「攻めて来いよ!」
双子がひたすら防御に回るマリーに軽い挑発を仕掛けた。
だがマリーには答える余裕など無い。
「マリーはね、あんたらごときとは話したくないんだよ!」
マリーの後ろからルイーザが代わりに答える。
「お前に用はないんだよ!」
「お前も戦ってもいいんだぞ!戦えればな!」
「ふん、どっちかが私の相手をしたら、もう片方はマリーに瞬殺されるけど」
「何だと!」
「ふざけるな!」
「ご自慢の、双子のコンビネーションとやらを持ってしてもマリーに勝ててないし!第一あんたら双子ってだけで、単体はそんなに強くないだろ!」
「うるせー!」
「雑魚は黙ってろ!」
ルイーザの一言でスイッチが入ったのか、双子は攻撃のテンポを変化させてきた。
片方が上段なら、もう片方は下段の剣で来る。
二人同時であったり、時間差攻撃だったりしてタイミングを狂わされるマリーは更に防戦一方となる。
ジリジリと追い詰められる。マリーの後ろにいるルイーザの後ろ側はもう場外という所まで追い詰められた。
「マリー、頼んだよ」
ルイーザはそれだけ言うと剣をその場に置き、脱兎の如く走り出した。ステージは二十メートル四方だから逃げるスペースは十分に有る。
「お前、逃げるのか!」
「あんなのどうでもいい!まずコイツを仕留めるぞ!」
もうすぐ後が無くなるマリーの足元にルイーザの置いた剣が触れると、はジリジリと方向転換し結果的に直角に曲がる様な形になった。
合わせて双子も二人揃って直角に曲がる。
つまり、マリーも双子もステージの端にいる。お互いすぐ横の場外に落ちれば即失格となる所で攻防を繰り広げている。
「薄情な味方を持つと苦労するな!」
「正確には弱くて薄情だな!」
「ルイーザは弱くなんかありません!今に分かります!」
その瞬間だった。
「いっ?」
「なっ!」
側面から双子にまとめてルイーザがタックルを決めた!
ルイーザが重い剣を置いたのも、走って逃げ出したのも、全てはこの為だった。
全速力の助走から繰り出されたタックルは見事に決まり、勢いそのままに双子をまとめて場外に落とす事に成功した!
勢い余ってルイーザまで一緒に落ちた。
ステージ上にはマリーだけが立っている!
この試合の勝者は二勝分の価値があるから、五勝二敗で俺達の勝利となった!
俺の出番は無くなったけど、みんなで勝利を掴めた事は嬉しくてしょうがない!




