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レオニーの戦い

「フィリップ、お疲れ!あの足払いはどうやって身に付けたんだ?」


 ステージから降りて来たフィリップに声を掛けると、フィリップはニコリと微笑む。


「凄いよね!相手の力を逆手に取って倒すなんて!本当に身に付けてよかった!」


 質問の答えにはなっていないが、フィリップが身に付けている事は分かった。

 一息入れて、改めて聞く。


「誰にあの技を教わったんだ?フィリップ」


「変わった殺陣を取り入れたくてね。指導してくれた格闘家から教わったんだよ!彼は東の国から来た人に教わったらしいけど、どういう経緯かまでは分からないな」


 ステージ上では二年生による治癒魔法実習を兼ねたC組生徒への治癒が行われている。脳振盪だと思うけど、万一という事もある得る。治療は大事だからな。


 さて次だが、こちらはもう女子しかいない。

 そして、間違い無くあちらは残った中から一番強い生徒を出してくるだろう。

 そうだとしたら剣は素人のルイーザでやり過ごして、その次のレオニーとマリーで勝負するしかない。


「次は…」


 俺が言うよりも早く、ブロンドのセミロングが前に出る。


「私が行くわ!」


 レオニーが毅然と言い放つ。


「レオニーはその次に…」


「だってE組はまともな剣の勝負をしていないじゃない!」


 ごもっとも。


「次は私が剣で勝つわ!」


 もうすっかりその気になっている。こういう時は下手に止めない方が良いだろう。


「レオニー、行ってこい!」


「ケヴィン、私の戦い見ててね!」


 レオニーの相手はこれまた筋骨隆々な男子だ。


「俺の相手はお前か」


「何なの?その残念そうな態度」


 残念そうと言うより、見るからに性格が悪そうな顔をニターッとさせている。


「いやな、E組でも他の女子は…」


「無駄口を叩くな!始めるぞ!」


 C組の生徒が言い掛けたが、オジウ先生が強い口調でそれを断つ。

 その言葉に両者が剣を構える。


「第五試合、始め!」


 試合が始まり、両者間合いを取る。


「本当にがっかりだよ。俺の相手がお前だなんて」


「さっきから煩いわね!何で私じゃ駄目なのよ?」


「お前、自覚無いのか?」


「何の話よ」


「第二試合や第三試合の女の子がよかった。でなければ、まだ試合に出ていない二人が」


「もう、何なのよ!」


 睨み合いで二人が剣を構えながら話している。

 レオニーはかなりイライラしているのが、取って分かる。


「レオニー、安い挑発だ!無視しろ!」


 俺はレオニーに声を掛けるが、レオニーは百も承知といった具合だ。


「E組でもお前だけだろう?まともに剣を振れるのは」


「まぁ、そうだけど」


「だと思ったよ!」


 レオニーは不思議顔だが、C組の生徒は構わずに続ける。


「他の女の子は剣の邪魔になりそうだからな!」


「えっ、まさか…」


 咄嗟にレオニーの顔が引き攣る。


「お前以外の女の子は剣を振るうのに邪魔だろ、他の女の子はみんな大きいからな、胸が!」


「!」


 レオニーは不意に構えを崩して胸を隠す。

 構えが崩れた今がチャンスなのにC組も攻めて来ない。何なんだ、この緊迫感の無い試合!


「無い物隠したって仕方ないだろ!第三試合みたいになると思ってたのに、俺の期待をどうしてくれるんだよ!」


「そんなの、私が知る訳ないでしょ!変態!」


 不敵なC組の生徒に対して、レオニーは金切り声で反論する。


「黙れ、がっかりおっぱい!」


 ブチ!


 何かが切れる音がしたような気がする。

 極力触れないようにしてたのに。女の子のコンプレックスに触れたらどうなるか、身を持って味わえ!


「レオニー、喉笛を斬ろうが、眼球をえぐろうが、後で治せるから思いっきりやっていいぞ」


 俺はセコンドとしてのアドバイスはこれが精一杯だった。恐らくは何を言っても耳に入らないだろう。

 これからステージ上で繰り広げられるのは、試合ではなく公開処刑。

 レオニーとは獅子が由来の女性の名前だ。

 遙か昔、闘技場では公開処刑として獅子と戦わせたそうな。

 今、その再現が行われる。


 レオニーは後の先。まず打ち込んで来た相手に対し素早く剣を振り抜く。狙いは指だ。指が使えなければ剣が握れない。

 更に言えば末端は神経が集中している為、痛みが増す。なぶり殺しにするには効果的だ。

 レオニーの剣は的確に指を狙い、使い物にならなくした。こうなるともう、相手は為す術は無い。

 ただ、足元に転がる自分の剣と、レオニーを交互に見つめる事しか出来ない。


 二分後


「勝負あり、それまで!」


「フォー、フォー」


 レオニーは興奮冷めやらず、激しい呼吸音を聞かせていた。

 その足下には血塗れで意識を失っているC組の生徒が転がっている。骨は何本折れているのやら。

 死体と言っても誰も疑わないだろう。

 自業自得だけどね。


「このセクハラ野郎、治さなくていいんじゃない?」


 治癒師専攻の二年生女子は彼への治癒魔法を拒否している。

 結果、意識を取り戻すギリギリまで治され、後は意識が有るまましばらくは苦痛を味わい続ける事になった。


 ご愁傷様。

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