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必然の勝利

 気を取り直して第四試合だ。

 E組の代表はフィリップに決めてある。

 この流れで次を任せられるのはフィリップしかいないだろう。

 C組は四連勝で決めるつもりだったから、引き締めて来るだろうから、この雰囲気で女子に行かせるのも可哀想だ。

 俺の見立てでは、フィリップの剣の実力は例年通り並んでB組の下位で、レオニーはB組の中位。充分に勝てると見ている。

 C組の連中の剣は力強いが、それだけだ。フィリップの舞うが如くの剣捌きなら勝てる。


「フィリップ、頼んだぞ!」


「ようやく僕の出番が来たんだね!」


「ああ、お前のその剣捌きで魅了させてくれ!」


「任せて欲しいな、そこは」


 フィリップは言いながら涼しげに髪をなびかせる。

 妙に自信有るが、そこがまたフィリップらしい。

 フィリップとレオニーには作戦無しの真っ向勝負で臨む。


「フィリップ、分かっていると思うが舞台の殺陣とは違う。剣も重いし、筋書きも無い」


「分かっているよ。舞台でもとっさのアドリブはよく有るよ。僕はそっちの方がワクワクしてたまらないよ!」


 楽しみが待ちきれないって表情を見せる。

 舞台役者として培われた物なのか、そのステージに上がる姿勢も何処となく優雅で華が有る。

 ステージ上のフィリップは悦に入った表情を浮かべ、周囲を見渡している。


「よく見るとC組にも女子がいるんだね。彼女たちは退所になるけれども、最後に思い出としてこのフィリップを目に焼き付けて欲しいな」


 フィリップに言われて始めて気が付いた。

 確かにC組にも女子がいる。ムサイ男だけだと思っていたからすごく意外だ。ざっと数えると四人いる。

 ムサイ男の群れの中に女子。理由も無く彼女らが可哀想になってきた、

 そんな中、やはりムサイ男子がC組の代表としてステージに上がって来た。またまた大柄な筋肉の塊がC組の代表である。


「君が今日の斬られ役だね。よろしく!」


 フィリップの言葉に相手は憤慨しているが、フィリップ的には挑発している自覚は無い。

 やられ役あってのヒーロー物、舞台の基本に忠実なだけである。舞台とは共演者への礼儀は欠かせないからな。


「お前たちE組は目障りなんだよ!だからいなくなってもらう」


「君たちに不興を買う覚えは無いけど」


「うるせー!兎に角、お前たちは今日でいなくなってもらうからな!」


「一つ忠告させてもらうけれども、あまり興奮しない方がいいと思うよ。見苦しいから」


「一々気に食わない奴だな!骨の四、五本折って吠え面かかせてやるからな!」


「うーん、骨が四本も折れたら、苦痛で吠えてなんかいられないと思うよ」


「だから、うるさいんだよ!」


 ステージ上ではこれから戦う二人が言い合いをしている。

 見た目からして妙に熱いC組の代表に対して、冷静に受け流すフィリップ。冷静というよりも天然なのかも知れないが。


「第四試合、始め!」


 審判員のオジウ先生の声で試合が始まる。

 それと同時にC組の代表が突っ込んで来る!

 だがフィリップはステップを踏んで難無く躱す。

 するとC組の代表はくるりと回って再びフィリップに突っ込むが、フィリップも再び躱す。

 さながら、ダンスでも舞うが如く!

と言うより、まるで猛狂う牛と闘牛士の様にフィリップは戦いをショーに変えてしまった!


「いつまで避けるつもりだ!」


 C組の代表は息を切らせながら声を荒げた。


「そうだね、もう終わりにしようか?」


 対するフィリップは息一つ切らせずに、変わらぬ口調だ。


「そんなに息が荒いと、臭いからね」


 フィリップのその一言にブチ切れた相手は再度突進してきた!

 例によってフィリップはステップを踏みながら躱すと同時に仕掛ける!


 次の瞬間、C組の代表の体は宙を舞い、孤を描いて肩からステージに落ちた!

 そしてそのまま気を失った。


「勝負あり!」


 審判員のオジウ先生がフィリップの勝利を高らかに宣言した!

 これで二勝二敗だ。


「今のはスリップだろう!」


 エンゲルスが激しく因縁付けてきる。本当に分かっていないんだな。


「エンゲルス先生は今の技が分からないのですか?」


 仕方ない、解説してやるか。


「技だと?スリップだろうが、これだから留年は」


「声高にご自身の無知を披露されるのも結構ですが、あまり他人に迷惑は掛けないで下さい」


「何だと、留年が!」


 言われた俺は、無言でエンゲルスにつかつかと近寄る。するとエンゲルスは距離を保とうと後退りする。


「な何だ?」


「エンゲルス先生、こういう事ですよ!」


 後退りするエンゲルスを瞬時に躱す。

 するとエンゲルスの体はステージ上の再現となり宙を舞う。

 一つ違う事は、エンゲルスの頭が着く前に胸ぐらを掴んで頭は打たせなかった事だ。

 その分、腰にダメージはあるだろうが頭を打つより良いだろう。どんなに悪いとは言え。


「遥か東の国の格闘術の技、足払いという技の応用です」


 エンゲルスは目を大きく見開いて、ただ聞いている。


「技の効果は先生、お分かりになられましたね?」


 狼狽しながら二度頷くエンゲルスの胸ぐらから手を離すと、彼の体は力無く崩れ落ちる。


 「もう一つエンゲルス先生にお願いなんですが、受け身くらいは取れる様になって下さい」


 エンゲルスは目も合わさずに歯ぎしりしている。


 それにしてもフィリップ、予想を上回る強さだった!

 あれで息一つ切らせてないのだから、大した奴だ!

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