決闘開始
「それでは第一試合を始める!」
ステージ上には審判員として二年生に剣術を専門に教える教師、オジウ先生が開始を宣言した。
このオジウ先生、剣術を専門に教えるだけあって、剣に関してはかなりの腕前だ。恐らく養成所での剣の実力は俺と理事長に次ぐ三番手だろう。
C組からは一番強いと思われる男子生徒がステージに上がる。
C組はご丁寧に強い順で出てくる。予想通りだ。
C組担任教師のエンゲルスは第一試合で力の差を見せ付け、E組の戦意喪失を狙っている事は明白。
余りにも予想通りでヘソが痒くなりそうだ。
「こちらの一番手はオリバー、君だ!」
「分かったよ。作戦通りだよね」
「頼んだぞ、オリバー!」
オリバーは、足取り重くステージに向かう。
彼に取っては多分初めての剣を持っての対人戦だろう。
何とか作戦通りに動いてくれ、オリバー!
決闘には真剣の刃を削いだ物が使用される。
刃こそ無いが、重さや材質は真剣と同じだ。骨折もあり得る。
その為、ステージの脇には治癒師としての専門コースを選択した二年生とその講師が控えていて、即死でなければ何とか助かる。
オリバーには死なないように頑張って欲しい!
多少なら何とかなるぞ!
「始め!」
審判員のオジウ先生の掛け声で第一試合が始まった。
C組の生徒が剣を抜き、ジワリジワリとオリバーとの間合いを詰める。
それに対しオリバーは左手で鞘を握り右手は、何時でも剣は抜けるんだぞ!という感じで遊ばせている。
更にオリバーはニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「抜け!」
C組の生徒は苛立ちを隠さなかった。
「フフッ」
オリバーが不敵に笑うと、C組の生徒はバカ正直に切り込んで来た!
勝負はそれで決まった!
結局オリバーは剣を抜く事無く、袈裟斬りにされて勝負あり!
オリバーには悪いが、嚼ませ犬になってもらった。
只でさえ油断しているC組を更に増長させる為に。
「オリバー!しっかりしろ!」
俺はオリバーに治癒魔法を掛けてやる。
バサッとやられたオリバーはどうやら鎖骨を骨折している。
「ケヴィン、あれで良かったのか?」
「ああ、良くやってくれた!どうだ?治ってきたか?」
「なぁケヴィン、治癒魔法って気持ちいいな」
「女の子にやってもらうともっと気持ちいいぞ!アンナに治癒魔法の使い手になってもらわないとな!」
次の試合、E組の代表はそのアンナだ。
「ケヴィン、本当に大丈夫?」
「もちろんだ!オリバーがやってくれたからな。アンナで仕上げだ!」
「信じているからね!」
そう言うと防具を大袈裟に装着したアンナはステージに立つ。
「E組はあんな女か!」
「こりゃ楽勝だな!」
そんな声に押される様に出て来たC組の生徒。かなりの長身だ。
俺の見立てではC組で二番目に強い。
剣ってこんなに重いの?とでも言いたそうな表情を浮かべるアンナとは対照的だ。
「始め!」
試合開始と同時にアンナは剣を構えて突進しようとする!
しかし残念ながら剣に振り回されており、酔っ払いの千鳥足よろしくヨタヨタと歩くのが関の山だ。
これにはC組の生徒も呆れ顔だ。
「重そうだな」
ステージ上のC組の生徒が口を開くと、剣を振り下ろしてアンナの剣を叩き落とした。
「キャッ!」
アンナが思わず甲高い声を上げる。それと同時に落とされた剣を一瞥し、対戦相手を見上げる。
「い、嫌」
勝負の場でそう言われても困るだろう。相手が。
案の定、困惑顔だ。
「来ないで!」
やりずらいだろうな。相手。
でも、本当に動かない!案外律儀者だ!
「変態!」
さすがに相手が気の毒に思う。まさか試合で変態呼ばわりされるとは思ってなかっただろうに。
数秒間、無言で見つめ合う二人。
「参りました!降参します!」
そう言うとアンナは足早にステージ上から姿を消す。
「ちょっと待て!」
ステージ上には呼び止めたC組の生徒が虚しく立っている。
何か、彼に申し訳ない気持ちになってきた。




