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入所式

 入所式に臨む新入生は初々しい。

 俺は留年なので新鮮さはありませんけど。

 今日から同期となる彼等は嬉しそうな奴、尖っている奴、緊張している奴等、様々。

 二回目の入所式となる俺、ケヴィン・ワーグナーも違う意味で緊張している。

 便宜上出席するようにとの通達があったけど、少し後悔している。

 そりゃあ何と言っても養成所始まって以来、初の留年ですから居心地が悪いったらありゃしない!


 勇者養成所は読んで字の如く、勇者を育成する所。

 正確には勇者だけではなくて、冒険者と呼ばれる人間を育成している。

 

 入所は試験を突破した百人。

 入所試験は剣術、格闘技、魔法、その他の得意分野で審査される。

 入所の時点で魔法を使える人間は殆どいない。だから魔法は素質重視となる。

 他が全然駄目でも魔法の素質が有れば合格する事もあるくらい魔法の素質は重要視されている。

 魔物退治には魔法は有効なのでね。


 試験に合格した百人にまずは徹底的に基礎を叩き込む。

 剣は勿論、様々な武器の取り扱い。格闘技、攻撃魔法に防御魔法、治癒魔法に支援魔法。

 洞察力や作戦指揮能力、更には魔物の知識、野営の仕方、その他諸々をだ。

 これらが一通り終了するまでには半分程度が退所している。

 結構、厳しいからな。

 その後、一年間の終わりには選別が行われる。

 残っている人数を八組に分け、バトルロイヤルを行う。バトルロイヤルは自分以外の全員が敵である。そんな闘いを生き残った最後の一人が勝者となる戦いだ。

 更に、バトルロイヤルの勝者八人に、バトルロイヤルでは負けはしたものの、日頃の成績等から養成所が認めた八人を加えた十六人によるトーナメント戦を行う。

 そのトーナメント戦の優勝した者が勇者となる。


 二年生になると勇者は勇者として、それ以外の者もそれぞれの得意分野のエキスパートとなるべく教育を受ける。

 勇者とは成れなくても、剣術が得意な者は剣士の、治癒魔法に適正が有れば治癒師、攻撃魔法なら魔術師として専門的に鍛え上げられる。


 この養成所は国立で社会的地位が高くて、卒業生はそれなりに世の中の役に立っていると聞いている。

 卒業後は冒険者として魔物を退治したり、犯罪者を退治したり、或いは警官、軍属、用心棒になったりする。

 警官や軍属に成った先輩はそれなりに出世もしていると聞いている。

 用心棒にしても真面目にコツコツ働くよりも命を張る分、割が良い。


 そんな事を思い返していると入所式はつつがなく進行され、次は祝辞を述べに二年生代表として勇者が登壇した。

 勇者となるその二年生を目の当たりにした新入生達が俄にざわつく。

 無理も無い。勇者は格好こそ剣を腰に差して勇者らしく見せているが、実際には肩甲骨を覆う程に栗色の髪を伸ばした少女だからだ。


「静粛に願います」


 見た目通りの可憐な声は火に油を注ぐだけだ。

 遠目だが、壇上の彼女がかなり苛立っているのが分かる。 

 人前に出る事は得意ではなく不本意ながら登壇したのに、こんな思いをする事になったのだから当然だ。


「あんな女が勇者なのか?」

「この養成所、大丈夫なのか?」

「二年生弱すぎでしょう」


 新入生が口々に否定的な事を言い出したその時だ。

 彼女は腰の剣を抜くと、響めきが起こる。


「!」


 壇上で腰の剣を抜いた彼女は、怒りに任せて振るった。

 放たれた剣圧の狙いは分かりきっている。

 俺だ!

 列の最後列に座っていた俺は後ろを気にする事なく避ける。流石にこの状況では避けるしかない。


 ドッガーンドーン!

 実際にはもっと凄い、形容し難い爆音だった。

 講堂にいた全員が息を飲んで見つめている。壁に出来た穴を!


「以上を持って祝辞とします」


 それただけ述べて彼女は壇上から去った。

 恐らくスピーチ原稿を完璧に暗記し、何度となく練習した事だろう。

 だが見た目で侮られる。彼女の悔しさが伺える一太刀である事は、俺の後の壁が物語っている。。


 一月前のトーナメント戦決勝で優勝した女勇者、クララ・マリッチ。

 そして俺は彼女とのトーナメント戦の決勝戦を棄権して、もう一度一年生をやるように強要された結果、養成所初の留年者が生まれた。


 留年した結果がこれから先、どうなるのかは分からない。

 唯一分かっている事は、クララは俺をこの壁の様にしてやりたかったと言うこと。

 クララを望まぬ勇者にしてしまったのは俺なのだから。

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