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理事長室の昼食

 弁当の思い出は置いといて、ランチの話題に戻ろう。


「あとの三人は?」


「誘ったけど、それぞれで食べたいみたい」

「見ていると、マリーは弁当を食べたら読書しているし、オリバーは持って来たパンを食べたら寝ちゃう」


 俺の問いにエマとアンナが答えてくれた。


「ルイーザは?」


「教室にいないわ。いつも大体は昼休みが始まると同時に出て行って終わる頃に戻って来るけど」


 そう答えたアンナの言葉に違和感を感じる。

 ルイーザは孤児院を出て、現在は寮住まいだ。金なんか無いはずなのに外食?


 俺はランチを求めて養成所の外に繰り出そうとするが、理事長が待ち構えていた。


「ケヴィン、メシ食ったか?」


「これから外で」


「なら、理事長室に来い。メシでも食べよう」


 言われるがまま理事長室へ。

 そこには二人分の昼食が用意されていた。


「二人分って、最初から俺を誘うつもりだったのですか?」


「まあな。話しておきたい事も有るしな」


「話しておきたい事?」


「それは食べながらだ、ケヴィン」


 ここは大人しく席に着く。

 こんな所の昼食なのに給仕係までいるのは、さすがは理事長、クリンスマン伯爵。


「E組はどうだ?ケヴィン」


「まだ午前中だけですが、芳しくありません。E組は一度も戦闘訓練をしてなくて、座学ばかりらしいです。それも、草の食べ方」


「やはりそうか」


「理事長?」


 眉間にしわ寄せ、険しい表情になる理事長。とてもじゃないが、これから美味しい物を食べる人には見えない。


「職員の間でも話題になっているらしい。俺の耳にも入るのだから余程だな」


 専門分野はその道のスペシャリストが講師となって教える事になっているが、一年生の一学期は基礎を担任が教える事になっている。

 つまり戦闘に関するスキルの基礎も教えていないという事は、フィンケ先生には戦闘に関するスキルは基礎レベルも無いと推測される。


 コンコンとドアをノックする音が聞こえる。


「失礼致します。理事長」


 大きなドアを開けて入って来た事務員の男は持っていた書類を正面に構える。


「申し上げます!闘技場にて決闘許可申請がされていますが、如何なされますか?」


「闘技場で決闘?誰だ?」


 理事長は怪訝な表情で聞き返す。


「C組とE組です。クラス対抗で決闘をするとの事です」


「C組とE組?ケヴィン、どういう事だ?」


「聞いていません。何が何だか」


 さすがに困惑する。それは理事長も同じ様だ。


「兎に角、両方の担任を呼べ!あっ、いや私が職員室に行く」


 此処に呼べと言いかけた理事長だったが、テーブルに広げられた料理を見て、呼ぶのを止めた。


「ケヴィン、お前は食べていろ。全部食べても構わんがデザートは残しておけよ」


 理事長はそう言って笑みを浮かべると、事務員と去って行った。

 と思いきや、理事長室のドアを開けて顔だけ出して言う


「野菜も食べろ!」



 それから二十分程度経ったか、理事長が戻って来る。


「おっ、もうほぼほぼ食べたなぁ。若い者はこうでなければな!デザートは食べてないな。感心感心」


「一人の食事なんて食べる他は無いですからね。それより理事長、どうなったんですか?」


「七戦して多く勝ったクラスの勝ちだ。それよりも問題なのは負けたクラスは担任を含めて全員が養成所を去る事になった」


「全員が退所?」


「ああ、そうだ。そしてお前は出られない」


「え?」


「C組の担任、エンゲルスがお前の参加を拒否したんだ。フィンケはそれを理由に決闘その物をキャンセル出来たのに…。バカな奴だ!」


 理事長が珍しく苛立っている。雇い入れた責任者ですけどね。


「もっとも、お前を入れて一勝しても焼け石に水だ。ならいっそのこと」


「理事長?」


「はっきり言うと迷っている。E組に王太子殿下がいらっしゃる様子が無い!ケヴィン、違うか?」


「それは…」


「今E組が無くなればお前なら特例措置で二年生に上げられる!理事会に掛けても間違いなく全会一致だ!」


「それじゃ、皆は?」


「ケヴィン、四月ももう終わろうと言うのに草の食べ方しか身に付かないE組の生徒は、この先この養成所で残れると思うか?」


「それは…」


 今、楽をしたしっぺ返しは必ず来る。あの調子では耐えられないであろう。


「兎に角、お前は決闘に不参加だ。その先の事を考えておけよ」


 デザートのイチゴのケーキを食べる気は失せた。

次回から平日のみの掲載とさせて頂きます。

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