処分
「大丈夫か?」
一人一人に声と治癒魔法を掛けて回る。
「何これ?」
先に治癒魔法を掛けた女子が意識を取り戻して起き上がると、教室を見回して口々に言う。
「一体何が?」
遅れて男子達が意識を取り戻した。
「みんな、巻き込んでごめんなさい」
治癒魔法を手伝ってくれたクララがE組のみんなに言ってくれた。
「勝負はどうなったのですか?」
ドアや窓は全て吹っ飛ばされ、壁には大きく穴が空き、下半分だけになったとは言え氷柱が立ち、天井には剣が刺さっている教室に落ち着かない様子でレオニーが聞いてきた。
だがクララは右手でレオニーを軽く制して言う。
「みんな、私は剣も魔法も劣等生だったの。でも同じクラスだったケヴィンに付き合ってもらって稽古して勇者に成れたわ!」
「えー!」
皆が一斉に驚きの声を上げる。
そりゃそうだろうな。
「だから、みんなもケヴィンを信じて着いて行けば、それなりの成果が得られる筈よ!なんたってこの前のバトルロイヤルでの勝者、ケヴィン以外の私を含めた七人は全員がケヴィンに指導受けたのだから!」
クララのスピーチは有り難いが、注目を集めるのは小っ恥ずかしい!
「あの、それじゃケヴィンさんは何故留年したのかご存知なんですか?」
エマが恐る恐る聞いて来た。疑問に感じるのも無理はない。
「ケヴィンが圧倒的な実力を見せ付けて勇者に成ると誰もが信じて疑わなかったわ。でもねケヴィンったら、私を痛め付けたくないとか言って決勝戦を辞退したの。それが敵前逃亡と見なされて失格。協議の末に留年になったのよ」
「へぇー!」
今度は一同、珍しい物でも見る様な目つきだ。
「それじゃ私はこれで失礼するわ。E組の皆さん、私の元カレをよろしく♪」
さり気なくとんでもない事を言ったと思ったら、爽やかな風の様にクララは去って行った。
それに対してE組の一同はクララの去り際の一言に蜂の巣を突いた様な騒ぎとなる。
「取り敢えず報告してくる」
俺は逃げる様に教室を後にした。
行き先は理事長室。
報告、連絡、相談は上の人間に責任を押し付ける為の常套手段だ。
フィンケ先生を通すよりも、俺が理事長に直接言った方が話が早い。
結果としてE組は空き教室に移動し、無断で私闘をした罪で俺は半月間の停学処分となった。
クララは勇者に対する特別待遇によりお咎め無しであったが、それで良かったと思う。
俺は停学期間も、社会貢献という名目で魔物退治に駆り出されたけど、気晴らしになってかえって良かった!
特に最近は魔物発生のペースが上がっているのは明らかで、歩兵小隊では手に負えないドラゴンを停学期間中に何匹か退治した。
この国、大丈夫なのか?
そんなこんなで復帰の日が来た。
どの面下げて行こうか悩ましい。
恐る恐る教室を覗いて思案していると、後から声を掛けられる。
「ケヴィンさん、おはようございます!」
エマが甲高い声で俺の存在を皆に知らせてくれた。
E組の皆さん、こちらに注目してますよ!
「ケヴィンさんおはようございます!」
アンナはエマよりは落ち着いた声で挨拶してきた。
「おはようございます!ケヴィンさん、お父さんから聞きました!お父さんを助けて頂いてありがとうございます。ケヴィンさんはお父さんの命の恩人です。」
お父さん?
レオニー・ラーン。なるほど!歩兵部隊のラーン班長の娘だったのか!
「ケヴィンさん、おはようございます!フィリップです!ケヴィンさんとクララ先輩の剣捌きは最高ランクの芸術の様でもありました!僕の憧れです!僕に剣を教えて下さい」
フィリップは爽やかな笑顔で近寄って来た。
俺とクララを見てそう思ったのか?だとしたら脳天気と言うか、前向きと言うか。やる気が有るのなら大歓迎だが。
キツいぞ!
そうこうしていると、ドアが開いてフィンケ先生が入って来た。
「ケヴィン君も来ましたね。はい、全員揃いました!今日の授業を始めます!」
ん?男子が少ない。カール達三人がいない。
「ケヴィン君、入所式の日は僕が間違っていました。改めて自己紹介をしてくれませんか?」
フィンケ先生、今日はまるで人が変わった様な対応だ。
「構いませんよ、先生。でも全員揃いましたって、カール達はどうしたのですか?」
フィンケ先生は若干、顔を歪めて言う。
「彼等三人は退所しました」




