勝負の時
「皆の強さは知らないが、クララには何一つ勝てないと思ってくれ!自分が得意な分野でもだ!」
俺はE組のクラスメートを集めて打ち合わせを始めた。
「剣を振りながら別方向に魔法を使うから、攻撃対象になっていなくても油断するな!
隙あらば攻撃しようなんて思うな!漏れなくカウンターを喰らうぞ!」
「それじゃ私達は何をすればいいんですか?」
レオニーが不満顔で聞いてきた。
「専守防衛!それしかない!その意味はすぐに分かるよ」
余りにも不服そうなので後半は少し優しく言ってみた。
「魔法障壁を使えるのは?」
皆は周囲を見回しているが誰の手も挙がらない。
「ヨシ!俺が守るから安心しろ!」
自分としては会心の一言だったが、皆の反応は薄い。
「あの、すいませんが留年したワーグナー先輩が勇者と渡り敢えるとは思えないんですが」
恐る恐る言い出したのはエマだ。どうやら皆も同じ意見らしい。
「不安なのは無理も無い。だがな、これからの勝負は昨日は出来なかった俺の自己紹介だと思ってくれ!」
この一言を言い終わるのを待っていたかの様にクララが寄って来た。
「そろそろ始めるわよ!いい、一人でも怪我したらケヴィンの負けよ!分かってる?留年さん!」
俺とクララ勝負が、E組の皆を巻き込みながら始まる。
この為に持ってきたのか、クララが用意した五分の砂時計がひっくり返されて、勝負の五分が始まる。
俺は迷わずに三人まとまっているカール達とクララの間に入り、魔法障壁を展開する。
「何で俺達?」
「お前らが一番狙い易いからだよ!」
予想通り、いきなり無詠唱の火球がカール達に放たれる。
だがクララの放った火球は俺の魔法障壁に、ボシューと音を立てて吸収される。
俺は分かっていた。こういう時はまずは男、しかもまとまっている奴に火球を放つのがクララの戦い方だ。
次は1人で立っているオリバーの元に走る。
間違いなく、クララの次の標的はオリバーだ。
クララは右手をオリバーに向けて何やら呟いている。間違いなく短い詠唱だ。
ゴニョゴニョ動いていた口元が不敵な笑みに変わった瞬間、クララの右手に氷の塊が出現し、オリバーに襲いかかる。
短いとは言え詠唱された魔法に、無詠唱の魔法障壁を今から展開させるのでは心許ない。
「炎撃剣圧」
俺は剣に炎の魔法を纏わせて剣圧として放つ。プシューと音を立てて氷は溶けて砕け散る。
「勝負よ!ケヴィン!」
魔法でクラスメートを攻撃するのを止めたクララは俺に詰め寄る。
遂にクララと直に剣を合わせると思ったその時だ、カール達が背後からクララに斬りかかろうとしている。
「ダメだ!止めろ!」
俺が声を出すより早く、斬りかかろうとしていた3人の腕ごと切り落としそうな迫力のクララに剣が、火球が、氷が向けられていた。
「お前ら!」
レオニーが剣で突っ込み、火球はフィリップ、氷はマリーが放った物だ。
その全てがクララの一閃で吹っ飛ばされたが、お蔭であの三人の腕はまだ切られてはいない。
一方でフィリップとマリーは自分の魔法が剣で弾かれた事に驚愕し、レオニーの弾かれた剣はE組の高い天井に刺さっている。
クララはカール達三人に再び火球を放つも、それより早くカール達は元の位置に戻る。そこにいれば魔法障壁に守られる。
クララの火球はやはり魔法障壁に吸収されるが、今の火球は単なる威嚇に過ぎない事は明らかである。
それと同時にクララはレオニーに向かって剣圧を放った。カール達に放った火球よりも、こっちの方が力が入っている事は間違いない。
レオニーも腕に覚えが有るそうだが、クララの迫力に萎縮してピクリとも動けずずにいる。
離れた位置にいる俺に出来る事は、俺も剣圧を放ち相殺させる事だ。
「!」
角度が悪く、完璧には打ち消せなかったがほとんどは相殺出来た。
クララの放った剣圧の僅かな残りがレオニーの金色の髪を数本だけ切って背後の壁を破壊する。
レオニーは目を大きく見開いたまま、突っ立っている事が精一杯だ。いや、正確には身動き一つ取れないのだ。
「フィリップ、カール達の所に走れ!」
フィリップは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに猛ダッシュしてくれた。
魔法障壁に火球は通じないと判断したのか、クララからの追撃は構えだけで終わった。
五分間の砂時計はまだ半分以上残っている。
自分以外を守る事は予想以上に骨が折れる。




