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プロローグ


 勇者養成所。


 この名前は何とかならなかったのかと思うが、名付けた者は当時の王女であったから仕方ないらしい。

 設立の理由自体が、「冒険者って楽しそう!」というその王女の思い付きなのは、ここだけの話。

 その王女も現在では王室を離れ、五人の母親だ。


 俺はケヴィン・ワーグナー、その五人の子供の中の一人だ。

 ちょうど真ん中の三人目で、次男。

 その思い付きで養成所を作らせた王女は俺の母親だ。


 俺の父親は元は伯爵家の三男だったが、母親の意向で養成所の設立に伴い半強制的に入所させられ、首席で卒業したそうだ。

 長くなるから端折るけど、二人が結婚する際に王女の相手が冒険者ではちょっと具合が悪いと意見があったので、勇者の称号が与えられた。

 それ以降、養成所の首席は勇者となった。


 この国では以前から魔物が出現はしていたが、ここ数年は特に頻発している。

 その魔物を退治する事を生業にしているのが冒険者、更に強大な魔物には騎士団が当たる事も有る。

 だが、騎士団でも手に負えない魔物が出現すると勇者養成所の出番だ。。


 勇者養成所は国立の冒険者育成機関なので、講師もS級冒険者が担っている。その為、強大な魔物が出現すれば騎士団からの応援要請も受ける。

 ついさっきも騎士団からの応援要請の使者が養成所に到着したのだが、明日は入所式の準備で講師陣は忙しい。

 そこで所用で養成所にいた俺の出番だ。


「ケヴィン・ワーグナー、騎士団の応援要請を受け、勇者養成所より参りました!」


「こんな若造が一人?」

「養成所は何を考えているんだ?」


 傷付いた兵士達は言いたい放題だな。気持ちは分かるけど。


「貴殿が養成所からの応援ですか?」


 一人だけまともに対応出来る人間がいる。

 騎士ではない。騎士の下の歩兵らしい。


「はい、いかにも」


「失礼しました!自分は第六歩兵連隊、第三小隊、第三班の班長を務めます、ダグラス・ラーン軍曹であります!」


 班長ははっきりした口調で名乗ると、敬礼をして見せた。


「お疲れ様です」


 慌てて敬礼を返す。敬礼までされたのは初めてだから戸惑うけど、歩兵部隊にこんな人もいたんだな。


「時間がありません。本題に入りましょう」


 ラーン班長は緊迫感を露わにした。


「そうですね。それで敵は?」


「はい、巨大ワイバーンが出現したのが三時間前、騎士団と我々で駆除を試みましたが、その一時間後に騎士団は戦略的撤退。更にその一時間後に駆除を断念しました。現在、死者四名、負傷者十七名であります」


 騎士団はささっと逃げたか。

 早めに養成所に応援要請を出した事は評価出来るけど。


「分かりました。ワイバーンは任せて頂いて、負傷者の保護をして下さい」


「え?ワイバーンとしてはかなりの大きさがありますよ!」


「確かにワイバーンとしては巨大ですが問題ありません。近くに人が居ると二次被害が出ます。皆さんは距離を取って下さい」


 ワイバーン、大きなな翼で大空を舞うドラゴンの一種。それが巨大となれば願ったり叶ったり!

 鬱憤晴らしにちょうど良い!


「ケヴィン、これからか?」


 声を掛けてきたのはたった今到着した勇者養成所の治癒魔法の講師だ。

 負傷者の救護に理事長が寄越したに違いない。


「俺があのワイバーンを片付けるので、先生は負傷者を頼みます」


「それは任せてくれ。それよりも、派手にやり過ぎるな!って理事長からの伝言だ」


 どの口が言ってるのか!あの理事長!

 こっちは鬱憤が溜まってるのに!


「五分後には俺も負傷者の治療に行きますよ!」


 それだけを言って俺はワイバーンに向かう。

 するとワイバーンはタイミング良く、自分に向かって来た俺を目掛けて急降下して来た。

 巨大ワイバーン、結構な迫力だ!

 歩兵の皆さん、やる気は評価しますが歩兵部隊が空飛ぶワイバーンを相手にするのは無理があり過ぎですよ。


 俺はごく簡単な詠唱で作った炎の鎖を放つ。

 すると炎の鎖はワイバーンの横をすり抜けて空に向かって行く。


「やっぱり無理だ!」


 歩兵から悲痛な声が上がったその時だ。


 グワバ!


 ワイバーンは予想外な甲高い声を上げて墜落した。

 俺の放った炎の鎖に両翼を雁字搦めに縛られている。この炎の鎖は攻撃ではなく、魔物を捕縛する為の鎖だ。

 炎の鎖はワイバーンを躱して上がり、背後からワイバーンの翼を縛り上げたのだ。


「ブレスが来る!」


 治癒魔法を順番待ちの負傷兵が叫んだ。

 ワイバーンは起き上がりざまに高温のブレスを吐こうとしている。

 忠告は有り難いけど、ちょっとお節介かな。

 俺は敢えてワイバーンの口元に近付き、左手を差し出すと魔力を集中させ氷の盾を作りワイバーンの口に向ける。


 ワイバーンの炎のブレスと俺の氷の盾の勝負だ!

 ワイバーンも必死な様だが、俺の敵ではない。

 氷の盾はボタボタと水滴を垂らすが、溶けるより早く俺の魔力でどんどん分厚くなっていく。


 余裕が出来た俺の視界に歩兵達の姿が映った。

 どうやら治癒魔法を急がなくてはいけない様だ。


「忙しいんだ。すまんな」


 更に強い魔力でワイバーンの首ごと凍りつかせて剣を抜く。

 俺が一閃すると凍ったワイバーンの首は足元に転げ落ち、首のない体はすぐに崩れ落ちた。

 凍らせて良かった!

 首を凍り付かせて切れば返り血を浴びずに済む。

 勝ち方には拘りたい。


 さぁ、今度は治癒魔法だ!最初に治すべきは、


「ラーン班長、俺の目は節穴ではありませんよ」


「いや、私は…」


 それだけ言うとラーン班長は意識を失った。部下を先に治療させようとして隠していたが、上着で隠した胴体に酷い怪我をしている。

 手遅れになったら死ぬレベルですよ、これ!


「勇者様!班長をお願いします!班長、明日は娘さんの入学式なんです」


 彼の部下が悲痛な声で懇願してくる。入学式シーズンだからね。養成所も明日は入所式だ。


「お任せあれ!」


 あとそれから、面倒くさいから訂正しなかったが俺は勇者ではない!

 留年だ!

 さあ明日から、二度目の一年生が始まる。

よろしくお願い致します。

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