⑨
日差しが苦手なため、晴れの日がつらい。
帰り道、僕はひたすら紗希の話を聞いていた。
といってもいつも僕たちの会話はほとんど紗希が話して僕が聞くのがスタンダードなため、何の問題もない。
だけど今日は紗希を怒らせてばかりの為、いつもより紗希の顔色を伺いながら話を聞いている。
会話の中によく美玖さんやら陽菜さんやらまったく知らない名前の子が登場してくるが、恐らく紗希が教室で話していた子の名前だろう。
自分の番に気を取られ他人の自己紹介を聞いてなかった為、クラスのみんなの名前はほとんど分からない。
ここでその子たちのことを聞き直しても、どうせ分からないことは目に見えている為、僕はその話を聞き流した。
紗希も僕に教室での話や部活のことなど質問してくることはあったが、また不機嫌になられても困るので無難な答えでやり過ごした。
たわいもない会話を続けていると紗希の家まで着いた為、紗希とはお別れだ。
「じゃあね!また明日!」
そう言って僕に手を振る彼女は絵になるくらいに綺麗で、思わず見惚れてしまいそうになった。
「また明日。」
と返し、自分の家へと歩みを進める。
1人になると今日あったことを思い出してしまい、憂鬱になった。
紗希には教室でも話しかけてきてと言われたが、学校全体から人気のある紗希に僕の様な奴が話しかけたら目立つこと間違いなしだ。
去年はクラスも違った為、紗希と学校で関わることもなかった。
目立たないようにする為、出来る限り紗希の彼氏とバレないよう紗希を避けている節もあった。
そのこともあってか紗希に彼氏がいることは学校に広まっていたが、僕が紗希の彼氏だということは学校のやつは誰も知らない。
別のクラスの時はそれがありがたかったが、同じクラスになるとマイナスでしかない。
知られていないことで紗希に話しかける事へのハードルが上がってしまったのだ。
話した事で僕が紗希の彼氏だとバレたら、あいつが彼氏かよと思われ、学校中の男子に目をつけられてしまう。
密かに活動している長谷川紗希ファンクラブというのもあるらしく、そうなったら僕はその人たちに殺されてしまうかもしれない。
僕が彼氏なんてみんなが知ったら、紗希の評判やセンスにも傷をつけてしまうだろう。
どれだけ考えても良い結果を生まないであろう教室内での紗希との会話に憂鬱になる。
誰もいない僕の家に着くと、どっと疲れが襲ってきた。
思ったより、今日の出来事は僕に負担をかけていたのだろう。
明日のことを考えると気持ちが沈むばかりなので考えることを強制的にやめ、ベッドに飛び込んだ。
『明日が来なければ良いのに』
そんな独り言を呟き、僕は目を閉じた。
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