③
前書きって何書けばいいんでしょう?
「歩、おはよう!」
通学途中、急に発せられたその声にビックリしたが、聴き慣れた声とわかると筋肉の硬直もほどけていく。
「おはよう、紗希」
話しかけてきた彼女の名前は長谷川 紗希。
僕と同じ高校に通う同級生だ。
そして僕と紗希は幼馴染でいわゆる恋人の仲である。
彼女は見てくれが良く社交的な性格の彼女は学校でも人気者だ。彼氏がいると分かっていても未だに学年問わず多くの男子に告白されているらしい。
そんな彼女がどうしてこんな僕と付き合おうするのか、はっきり言って理解できない。
こんな自分を彼氏にしたせいで彼女の評判が下がったりしてないかと思うと申し訳ない気持ちになってしまう。
彼女への後ろめたさを感じ俯きながら歩いていると彼女が話しかけてきた。
「今日から2年生だね!」
「そうだね...」
適当に返した返事に彼女は会話を続けた。
「今日クラス分け発表されるじゃん!
今年こそ、歩と同じクラスになりたいなぁ!
歩もそう思うでしょ?」
「...うん。」
本当はそんなことは思ってもいない。
紗希と一緒になれば必然的に彼女は教室で話しかけてくるし、そうしたら彼女との時間を周りに見られてしまう。
目立つことが好きではない僕からすれば最悪だし、周りからの嫉妬や怒りの目に耐えられる自信がない。
「なに、今の間⁉︎ホントに思ってる⁉︎」
「思ってるよ。」
思ってることと反対の答えを言うのに幾ばくか間が空いてしまった。
それを気に食わなかったのか彼女は追求してきた。
「うそだね!そんな低いテンションで言われても説得力ないから。」
「...ごめん。」
「なんで謝るの⁉︎何に対して謝ってるの⁉︎」
「...。」
「そうやってすぐ謝るのやめてって言ってるよね。」
「...ごめん。」
「また謝ってる。」
「...。」
紗希は僕の謝り癖が嫌らしく、何度も注意してくる。今日も彼女の地雷を踏んでしまったらしく不機嫌させてしまった。情けない自分に苛立ちを覚える。
話している感じわかると思うが僕は紗希との会話が苦手だ。
彼女の明るい声のトーンは日陰の人生を歩んできた僕からしたら眩しすぎてつらい。
朝が弱い僕にとって彼女のテンションの高さに少し堪えるものがある。
ましてや今日みたいに不機嫌させてしまった日には、一日中沈んだ気持ちで過ごさなければならない。
「はぁ〜〜。」
紗希との会話の疲れからか無意識にため息をついてしまった。
それを聞いて紗希はこちらを向いて少し睨んできた。
逃げるかのように俯いた僕に彼女はこう言う。
「言いたいことあるならはっきり言ってよ!私たち付き合ってるんでしょ。」
その言葉には怒気を孕んでおり、僕に対しての苛立ちが垣間見える。
「特に何もないよ...」
「...分かった、そう言うことにしとく。でもこれだけは言っとくよ。言ってくれないと分かんないことだってあるんだから、ちゃんと言葉にして伝えてよね!」
「分かったよ。」
怯えながら答えたその返しに彼女は不服な表情をしたままそう言い残し、僕たちは沈黙のまま学校へと歩いていった。
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