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やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中  作者: 永瀬さらさ
第九部

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15

 まるで水晶の大樹だった。

 大理石の床から根を張り壁を伝って空に伸びた枝が、壊れた天井のかわりのように広がっている。きらきらと日の光をあちこち反射させている水晶の正体は、魔力の結晶だ。こんなことができるのは、ラーヴェかクレイトスか――神しか、いない。

 すべての中心に、ひときわ輝く魔力の核があった。黄金と白銀を混ぜた光の繭――その中で天剣が、白銀の鱗を持つ小さな竜の輪郭が、くるくると鏡像のように、姿を変えている。

 消えていない。

 その目で確かめてほっとしたジルは、だが先に足を止めてしまったハディスの横で、同じく固まってしまった。


「早くしろ! 兵が増えてきてるぞ!」

「かまうな、こっちが先だ!」


 水晶を踏み台によじ登った人間たちが、剣を、斧を、槍を振り下ろしていた。

 天剣とラーヴェが姿を変える球体へ向けて――彼らを守って戦った、かみさまに向かって。


「竜神を殺せ、早く!」


 剣を振り上げているのは、クレイトス兵ではない。どこかで見覚えがある顔だった。ジークが剣で弾き飛ばした相手も、ノインが振り払った相手も、ソテーが蹴り飛ばした相手も――部下たちが手こずっている理由がわかった。相手が素人で、自国の民で、できれば止められないかと手加減をしているからだ。


「なんでわれねえんだよ、こんなにやってんのに……!」


 水晶に槍先を弾かれ、青年が舌打ちする。女性に腰にしがみつかれ、ノインが叫んだ。


「何をしてるのかわかってるんですか、あなたたちは……!」

「くそ、やめろっつってんだろうが!」


 男から剣を奪い、走ろうとしたジークの足を少年がつかむ。


「もういい、どけ熊! アタシがやる!」


 カミラが背後から弓をかまえたが、それも阻もうと少女が両手を広げて立ちふさがる。

 その間にまた斧が振り上げられる。一度、二度――斧から、きらりと欠けた水晶が零れ落ちた。涙のように。


「竜神がいなくなれば、ベイルブルグは燃えない!」

「陛下、見なくていいです!」


 石畳を蹴ったジルとすれ違うように、瓦礫の隙間から現れ出た少年が、突っ立っているだけのハディスに体当たりした。


「ぼ、ぼくらのこと、だましやがって」


 ジルは両目を見開く。ハディスの太股に、小さなナイフが刺さっていた。


「お前らが悪いんだよ、僕らは悪くない!」

「陛下!」


 かまいたちのように白銀の魔力が輪になって飛んだ。ジルの片頬に、ラーヴェに向かって斧を振り上げていた男の血しぶきがかかり、水晶がびちゃびちゃと血と内臓で汚れる。

 悲鳴すらあがらなかった。頭を半分失った者は、首が飛んだ者は、自分が死んだこともわからないままだっただろう。

 一瞬で竜神ラーヴェに仇なした者をすべて屠り、ハディスがナイフが刺さったままの足を動かす。真新しい死体に囲まれたラーヴェを封じた魔力の球体へと両手を伸ばす。


「何してるんだ、ラーヴェ」


 静寂の中で微笑んで、球体に手をつき、額を押し当てる。水晶に飛び散った血が手や顔を汚すのも、死体を踏みつけるのも、血だまりに踏みこむのも、かまわずに。


「女神にやられっぱなしじゃ示しがつかないだろう。さっさと目を覚ませ」

「へ、陛下、怪我……」

「いなくなったりしないよな」


 その声に、胸が引き絞られた。


「心配ないって言って。大丈夫だって。僕は竜帝だからって」


 きらきらと日が差し込む血塗れの水晶の部屋に、迷子のようなか細い声が響く。


「おまえがめをあけてくれたら、だいじょうぶだから、ラーヴェ……」

「大丈夫です、陛下」


 たまらず、ジルは横からハディスに抱きついた。届かないかもしれない、それでも。


「ラーヴェ様は、目をさましてくれます。さましてくれますから、陛下、今は」

「ご報告申し上げます、竜帝陛下! クレイトスから和平の申し入れが――」


 ハディスの答えを待つ時間もなく、兵が飛び込んできた。

 ハディスがゆっくりと顔をあげ、笑う。


「和平? 今になって?」

「それが――」


 続く報告に、ジルはハディスの手を強く握った。金色の目の奥が、曇らないように。


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― 新着の感想 ―
本当にジル頑張ってる。 正史見ると、ハディスとラーヴェが二人だけで長い間、歪な絆を作ってしまうのは理解できる。 本当はラーヴェが親代わりとして、もっとハディスに人との付き合いをさせるべきだったんだろう…
ベイルブルクの住民達の暴走を見るたびに「やり直し前にベイルブルクの街を燃やしたのクレイトスなんだけどなあ。」と思ってしまいますね。それ知ってるのフェイリス(とクレイトス)ぐらいですし尚更腹がたちますね…
竜妃の愛のバーニングナックルが唸るんですね、分かります。
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