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やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中  作者: 永瀬さらさ
第九部

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13

 ベイルブルグ奪還を目的とした通称天の青(ヒンメルブラウ)作戦の骨子は、わりあい単純だ。

 第一段階では、魔力を焼く竜の炎を一点集中させることで、陸側の南北二カ所、海側から一カ所、合計三カ所の結界に穴をあける。竜の女王が率いる陸側北の部隊が主力なので、そこの結界から先に壊れるのを見込んで、竜妃の騎士団が配置された。なお南には竜帝率いる部隊が、海側はラーヴェ帝国将軍エリンツィア率いるノイトラール竜騎士団が配置されている。

 そして第二段階では、竜妃の騎士たちは空から、そして地上からは帝国軍が第一陣として結界内部に侵入する。竜妃の騎士たちは目標『天の青』を探索、保護を主任務とする。帝国軍たちは結界内部のクレイトス兵の掃討し、竜妃の騎士たちを援護する。その間も竜の王率いる部隊はひたすら外側から結界を打ち破り、結界内へ兵を送りこむ。

 しかし、この作戦では一方通行の狭い道で敵と相対するような配置になる。どの方向から突入するかという主導権はこちらにあっても、結界を破るという手間がある以上、必ず事前に察知されてしまう。待ち構えられては突入と同時に殲滅の可能性もあるという懸念に、作戦立案と指揮をとるロルフは笑った。


「大丈夫じゃ、女神は竜神を優先するし、子狸がそうさせる。竜神を掌中におさめてさえいれば、脅迫でも交渉でもなんでもやりようがあるからな」


 さめたハディスの眼差しにも一切動じず笑っていたロルフが、不意に真顔になった。


「じゃが、ベイルブルグ占拠後、奴らが交渉に出てこなかった理由を含め、動かなかった原因がまだわかっとらん。竜神を封じた影響で魔力がたりず引き上げられないだけなのか、策があるのか……まあろくでもない策じゃろうから、そこは腹をくくって臨機応変じゃ」

「ろくでもないのか」

「ろくでもないに決まっとるだろう。儂ならそうする」

「たとえば?」


 きょとんとしたあとに、ロルフは答えた。


 ――ベイルブルグの住民を使うとか。


 ぴし、と結界に亀裂が入る。と思ったら、他方向から走ったひびとつながり、みるみるうちに結界全体に広がっていった。


「うっきゅー!」


 愛らしいいつものかけ声と一緒に、竜が結界に炎を吐き出しながら飛ぶ。炎に包まれた結界が、弾けるようにして割れた――この、待ち構えていたような流れは。

 懸念を肯定するように、結界が崩れると同時に、弓が一斉にこちらへ向かって放たれた。ベイルブルグを囲う城壁の上からだ。

 レアは翼の風圧だけで跳ね返し、マイネが焼き払うが、地上から突入する部隊にとっては脅威だ。ジークも竜に炎を吐かせながら後退する。


「やっぱお待ちかねかよ!」

「クレイトスからの増援……だけじゃ、ないみたいね」


 目のいいカミラが、含みをもたせて笑う。

 ――ベイルブルグには、ラーヴェによって夢にされたとはいえ、かつての記憶を一度は取り戻した者ばかりが残されている。そこへロレンスはその記憶をおのおのに詳細に語らせ、他人の記憶を聞かせることで、竜神と竜帝への不信を煽った。そしてこう尋ねたそうだ――「夢か本当かはさておき、一度弓引いたあなた方を竜帝は許すでしょうか?」

 先のベイルブルグでの戦いで、兵も住民も混乱しハディスに弓引いた者が大勢いた。たとえ女神の策だったにせよ、すでに後ろ暗い者たちがどれだけ強く竜帝を信じられるか。表立った対立こそなかったが、ヒューゴの見立てではクレイトスに寝返る者が半数だという。

 ヒューゴからベイルブルグ内の状況を聞いたとこから覚悟していたことだ。

 だが、救出を考えている間に、肝心のベイルブルグの民に裏切られるのは――苦い顔をする兵がいる。動きが遅れる兵もいる。

 ハディスは「そんなものだろうね」と一顧だにしないだろう。でも、その両肩に責任を負うのだ。

 ジルは大きく息を吸い、マイネの手綱を操ってまっすぐ突っ込んでいった。ジルちゃん、とカミラが声をあげる。だがマイネの赤い鱗は貧弱な弓など刺さりはしない。


「ベイルブルグの住民よ! わたしは竜妃である! 竜帝の御名のもと、貴殿らを、竜神ラーヴェを救出にきた!」


 かまえていた弓を引く手を止めた兵が、クレイトス兵の後ろで弓を補充していた者が、幾人か顔をあげた。


「竜神は間違いを糺す神だ! 間違いを、弱さを否定しない。あなた方は、女神に惑わされているだけだ。今すぐこの場を離れろ!」


 剣先を天に掲げて、ジルは宣言する。


「この先は容赦しない。――突入! ひるむな、空は我らラーヴェのものである!」


 地上から歓声があがった。カミラとジークが口笛を吹いて追いついてくる。


「ほんとこういうのはうまいわよね、ジルちゃん」

「すぐ寝返るやつなんざ、アテにならんけどな。また寝返る」

「クレイトスを内側から少しでも荒らせればいい」


 誰かひとりが裏切れば、クレイトス兵がクレイトスに寝返った者たちを自動的に処分してくれる。命のやり取りをしているときに、背後から刺すかもしれない者をそのままにするわけがないのだ。

 ただ寝返った者の内側に入れる危険性をロレンスはわかってるはずなので、大した効果は期待はできない。


「レアは上空から地上兵の支援を頼む! ラーヴェ様はわたしにまかせろ!」

『了解した!』

「いやいかせねーだろ」


 気配がなかったのに、かろうじて身をかわせたのは、声をかけられたからだ。切り払われた短剣の切っ先で翼膜を切られ、マイネが姿勢を崩す。素早くジルは鞍を蹴って飛び上がった。


「いいのかよ、お前の竜だろ」


 出てくるのは覚悟していた。空はラーヴェのものだからこそ、出てくるはずだと。


「わたしのは落ちたりしませんよ、なめないでくださいクリス兄様!」


 太陽を背にした兄があっさりジルの剣をかわした。ジルは舌打ちする。


「受け止めてくださいよ!」

「まともに撃ち合ったらやられるのはこっちだろ、その武器」


 そう言いながら、クリスが落下していく。だがここは城壁近く、尖塔や高い建物が多い。兄にとっての足場はいくらでもある。


「ジルちゃん!」

「先に行け、カミラ、ジーク! ラーヴェ様を見つけるんだ!」


 ロルフの指示にはきっと意味がある。カミラが頷き、ジークが竜をベイル城へと向けて飛ばした。クリスはそれを追わない。


「あー、妹の足止めとかだりぃこと言いやがって」


 この対峙はロレンスの指示か。ということは、女神をハディスにぶつける気か。尖塔の横壁を足場にして、クリスがこちらへ再び向かってくる。


「厄介なのはその武器だけとはいえさあ」

「ぬかせ!」


 構え直したとき、頬横を弾丸がかすめていった。


(マチルダ姉様か!)


 狙撃を狙ったのではない、ジルの姿勢と動きを止めるための罠だ。気づいたら前髪に隠れた目が見える位置で、兄が笑う。


「はい失格」

「ジル!」


 ものすごい風圧と一緒に槍先が繰り出された。絶対によけられないはずのそれを、おそろしい反射神経と身体の柔軟さで兄が上半身をそらしてよける。


「無事か!?」

「エリンツィア殿下!」

「ゴリラ!」


 兄の口から今まで一度も耳にしたことのない、はしゃいだ声が出た。


「ゴリラじゃねーか、元気にしてたか? それがお前の騎竜か! ローザだっけ」

「……」

「あ、あの、エリンツィア殿下……」

「紫目赤竜か。その大きさは雌だな。相手にとって不足なしだ。――なぁ、こないだよりは強いんだろう?」


 尖塔の一番上に片足で立って、腰に手を当てたクリスがこちらを見あげて笑う。

 エリンツィアも笑った。


「もちろんだとも。ジル、先に行け。――申し訳ないが、君の兄は私が始末する」


 ですよね、という同意を呑みこみ、ジルは戻ってきたマイネの鞍に乗る。


「ま、まかせました……! あの、クリス兄様。もう遅いですけど、一般的にゴリラって褒め言葉じゃないですからね!」

「えっ」

「あとは自分でなんとかしてください!」


 兄の安らかな死を願いながら、ジルはマイネを駆って先を飛ぶ。背後で「そうなのか!?」「二度とその口きけないようにしてやる!」というわりあい平和な会話が聞こえた。ただし、爆発音つきである。

 エリンツィアがきたということは、海側、軍港からの突入も成功したということだ。

 時折飛んでくる対空魔術をよけながら目を凝らせば、南側からも突入が始まっていた。地上部隊は城壁があるので手こずるだろうが、ノイトラール竜騎士団が制空権をとってしまえば結果は見えている。結局、厄介だったのは、女神の結界だったということか。


(いや。……ベイルブルグに入った兵って、こんなに少なかったか……?)


 大軍で攻め込んできて、ベイルブルグを占拠したはずだ。まさか、逃げたのだろうか。

 ジルはふるりと首を横に振った。今、考えるべきはラーヴェの救出だ。

 ヒューゴのおかげで、ラーヴェの居場所はつかめている。ベイル城の大広間だ。

 先の戦いで崩れたらしく、天井に穴があいているようなのだが、他の建物の崩れと折り重なっているようで、竜ではおりられないと聞いた。

 ベイル城の周りから少し距離をとったところで、カミラとジークを乗せていた竜が飛んでいた。ということは、どこかから侵入できるのだ。マイネをベイル城に向けて飛ばすと、城の周囲にしかけられた大量の対空魔術がこちらに向かってきた。間をすり抜けながら、侵入できる場所をさがす。


「マイネ、いってくる!」


 マイネが鞍から落ちやすいよう、斜めに身をよじってくれた。斜め下に見えたのはちょうど大広間に斜めに倒れた建物の内部だ。

 マイネに落とされるようにして、ジルは飛び降りる。下からの風を浴びて着地点を見据えていたそのとき、突然視界がぐるりとまわり、風圧が少なくなった。

 いきなり空中に現れたハディスがジルの背中と膝裏に腕を差し入れ、抱きかかえたせいだ。


「――陛下!?」

「きちゃった」


 転移して現れたのだ。おそらく、マイネの目から情報を得て、待てずに。


「へ、陛下はおとなしく待ってなきゃだめじゃないですか! 軍の指揮だって」

「リステアード兄上がいるから平気だよ。あとで怒られるだろうけど……でも、いいよね」


 下からの風を浴びながら、ハディスが甘えるようにジルの頬に頬をよせる。


「君と一緒だもん」


 竜帝より先に、とロルフは言っていた。おそらくハディスをひとりでラーヴェ救出に向かわせて暴走させないためだ。女神の結界さえ破れれば、なんにも足枷がなければ、ハディスは転移でそれができてしまうから。

 でも、一瞬でも早くと願うハディスの気持ちを責められない。

 唇を噛み締めて、ジルはハディスの首に抱きついた。もうすぐ地上だ。


「ここの指揮官はわたしです! 絶対にわたしの命令をきいてください!」

「わかった」

「絶対に絶対にですよ……!」


 ハディスが、薄汚れた石畳の上にふわりと降り立った。新しい血の跡が残っている。奥から剣戟と怒号、悲鳴が聞こえた。大広間に続く廊下のほうだ。戦闘している。ちゃんとハディスは走るジルのうしろからついてきた。

 壁が崩れた廊下の曲がり角、ちょうど大広間の控えの出入り口の横壁に背中をつけて弓をかまえたカミラがいる。


「ジルちゃ――陛下!?」

「敵がいるのか、ジークは!?」

「コケェーーーーーーーーーーーーー!」


 ソテーが蹴り飛ばした敵兵が、壁に激突する。どうして、とジルはまばたいた。


「お前、なんでここに――」

「ハディス先生!?」


 ちょうどジークの背中を守る形で剣を構えているノインの姿があった。ジルは叫ぶ。


「またロルフか! あいつ――」

「ラーヴェ」


 ハディスがジルよりも前に出た。出入り口付近にいたジークが振り返り、叫ぶ。


「隊長、止めろ!」

「こないでください、ハディス先生!」

「見ちゃだめよ!」


 ハディスが突然、立ち尽くした。ジルは追いつき、その横に並ぶ。

 そして見る。かみさまが、どうなっているのかを。


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― 新着の感想 ―
あれ?ローザは紫目の赤竜じゃなかったかな?クリス兄のセリフが間違ってる。
だ、大丈夫なはず…敗北条件は満たしてないし…(作者様のXのポスト参照) それはそれとしてクリスとエリンツィアには笑った クリスあれ褒め言葉として言っていたのかよという
あああクリス兄とエリンツィア姉のドタバタで和ませておいてからのこの展開こわい
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