6
本当に裏庭では掘り起こし作業が行われていた。信じられない、とナターリエが唸る。
「二重に鍵のかかる地下室だってあるのに、それも使わずに……!」
「それじゃいかにも隠してますって感じになるだろ」
「だからって埋める? フリーダ、あんたもどうして止めなかったの」
先に裏庭で作業を見ていたラーヴェ皇族で最年少の末妹フリーダが、困ったように返す。
「だってかさばるし……不自然なら、墓標を立てておけばいいかなって……」
ふんわりした口調で、なかなか辛辣なことを言っている。
「僕はいい案だと思うけどね、埋めておくの。どの辺?」
よほどジェラルドが埋められているのが面白かったのか、ハディスが機嫌よく穴を覗きこむ。
「たぶんこの辺だったと思うんすよねー」
「たぶんかあ。うん……魔力の感じ的にもうちょっと下かも。手伝おうか」
「あっやめて。宰相サマに殺される展開」
「ハディスお兄様、おかえりなさい。あのね……」
フリーダがハディスに何やら耳打ちしている。ハディスは柔らかく笑い返して、質問に答えていた。魔術の話をしているようだ。
「――意外と大丈夫だったりすんの、ハディス兄上」
そっとジルに近づいて話しかけてきたのはルティーヤだ。ナターリエもじっとジルを見ている。みんな、ラーヴェの件をヴィッセルから聞いたのだろう。ジルは苦笑した。
「みんなが協力してくれるおかげで、落ち着いてるよ。正直、わたしのほうがうろたえてるかもな」
「……大丈夫なのかよ。ハディス兄上に一番アテにされてんだろ、先生は」
「それは当然だが、ラーヴェ様を助け出すまではな……クレイトス側の動きも読めないし」
まさに今、目の前に出てこようとしている一件がそうだ。
「――せっかくベイルブルグを占拠したのに、さがしにこないのね」
距離を取って作業を眺めながら、ナターリエがつぶやいた。
「アルカに取りこまれた裏切り者として、切り捨てられましたから。南国王は本当にジェラルド王子の状況を知らないみたいですが……」
リステアードは捕虜になった際、ルーファス本人からジェラルドの安否と行方をしつこく尋問されたと言っていた。
「……私、女王もジェラルド王子を切り捨ててないと思うわ」
「開戦の口実に使っておいてですか?」
怪訝そうにジルが見あげると、ナターリエが自嘲気味に答える。
「ものすごく、妹を大事にしてたでしょう、このひと。だから妹も兄が大好きだろうって、それだけよ」
「根拠ないじゃん」
素っ気ないルティーヤの物言いに、ナターリエの視線に力が戻る。
「でも、すごい魔術をかけられてるんでしょ。帝都の魔術士もフリーダも全然だめって、よっぽどよ。クレイトスに切り捨てられたって判断するのは早計だわ」
「願望入ってるだろ。切り捨てたらあの王子が可哀想だからってさ」
「そんなことひとことも言ってないでしょ!」
「やかましいな、何を叫んでいる」
先ほどは違う服装で、裏口からヴィッセルが出てきた。まだ髪は湿り気味だが、血色は悪くない。ナターリエとルティーヤが示し合わせたように「別に」と答える。
「おいやばいぞ、お前の兄貴……」
ヴィッセルのうしろからついてきた子どもたちが、ルティーヤにおそれおののいた顔で近づいた。
「なんだよ、物理は駄目なはずだぞ。まさか罠を全部、壊されたのか?」
「逆だよ。罠に全部引っかかってんの!」
「むしろ自ら突っ込んでいっただろあれは、顔色ひとつ変えずに悲鳴もあげずに」
「途中からこの程度かとか舌打ちされるしさ、なんなのお前の兄さん怖い」
「兄上、大丈夫だった?」
こちらに気づいたハディスに、ヴィッセルが優しく微笑み返す。
「お前が心配することは何もないよ。私はお前の兄だからね、物足りないくらいだ」
「昔ので慣れてるって言っても、怪我をしちゃ嫌だよ」
「わかっているよ。――おいお前たち」
はいっとルティーヤ以外の全員がそろって返事をする。ヴィッセルが薄く笑った。
「悪意がたりない。もっとひとの心を折り方を学べ」
「子どもに何を要求してるのよ! もう、なんでうちの男たちはそろいもそろって……」
「おにいさま、おねえさま。出てきたよ」
フリーダの小さなうながしに、全員がはっと我に返った。




