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やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中  作者: 永瀬さらさ
第九部

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 天空都市と呼ばれるラーエルムはとにかく高所にある。ゆったりとした坂をおりるようにして馬車は高原を進み、見知らぬ森に入った。

 同行者はヴィッセルのみで、馬車は一台きりだ。護衛は竜妃殿下ひとりで十分、というヴィッセルの言葉はちゃんと嫌みだったので、安心してしまった。

 馬車の中で、帝城のコックが「竜妃殿下に!」と用意してくれた昼食をもりもり食べ、満腹になったところで馬車が止まる。竜ならば小一時間もかからず着く距離だが、洋館の周囲は高い木々に囲まれていて、何頭も竜を着地させる広場がなさそうだった。ただ、竜の巣が近いらしく、空を飛ぶ影を馬車の中から見かけた。

 古めかしいがきちんと手入れされている凸型の洋館は、ひっそりとしていた。ヴィッセルが先頭で階段をあがり、鍵を出して、扉を開く。


「ここは皇族用の保養地だ。お前の持ち物のひとつだよ、ハディ――」


 ヴィッセルが一歩、館に入った瞬間、ざばあっと音がして大量の水が降ってきた。


「……」


 魔力の反応はなかった。というか、敵意を感じなかった。目の前でずぶ濡れになった兄の背を眺めながら、ハディスもまばたいている。ジルはそうっと玄関をくぐり、上を見あげた。天井から吊されたタライがひっくり返って宙づりになっている。扉に仕掛けがあったようだ。


「誰が引っかかった~? なんだヴィッセル兄上かよ。つまんないの」


 呑気な声で広間に続く二階の階段からおりてきたのは、皇弟ルティーヤである。ひょいっとそのうしろから、次々と同世代の子どもが顔を覗かせる。


「ジル先生と竜帝と皇太子なら、引っかかるのはそうなるよな……」

「センセ、おひさ~! わー竜帝ってば相変わらずイケメン~~」

「ってかまずいんじゃない? 宰相様はさすがに」

「――ルティーヤ」


 ぽたりと滴を床にたらして、ヴィッセルが顔をあげた。いい笑顔だ。ジルがそっと目をそらすと、同じように目をそらしたハディスと視線がかち合った。


「どういうことか説明しなさい」

「罠だよ。防衛するために僕らいるわけだろ? でも僕らの腕じゃ、魔術の仕掛けは逆効果になりそうでさ。なら子どもだましのほうが意表がつけるだろ」

「なるほど、魔術に長けた敵には逆に情報を与えてしまうからな」

「つまりこれがあなたの教育か、竜妃殿下」


 つい感心して評価したジルに、ヴィッセルが鋭い目を向ける。ジルは肩をすくめた。


「この子たちを使うなら覚悟の上なんじゃないですか」


 そう言って階段上に鳥のように並んでいる子どもたちを見あげる。面子は予想していたとおりだった。

 採用は、金竜学級と似た理屈だろう。護衛はつけたいが、正規の軍人を使いたくはない。特にこちらの場合は案件が案件だから、表向きルティーヤのご学友として堂々と招けるところが便利だ。裏技とか反則技が得意であれば、なおさら。


「蒼竜学級、全員か? 見えない顔もあるようだが」

「そっちは作業中。全員きてるよ、ロジャー先生は相変わらず行方不明」

「金竜の奴ら、ついてきてないんだ? 竜帝の護衛とか張り切ってたくせにウケる~」

「なあに、今の音。今度はペンキでもぶちまけて――ヴィッセル兄様!」


 さらに奥から出てきたナターリエが、青ざめて走り寄ってくる。すでにタオルを持っているのは、この騒ぎが日常茶飯事だからだろうか。


「ずぶ濡れじゃない、風邪ひくわ。とりあえず拭いて――ルティーヤ!?」

「不幸な事故だよ」

「そんなわけないでしょう! お風呂をわかして、今すぐ」


 おまかせあれ~と蒼竜学級の子が答える。下働き代わりもやっているらしい。

 ヴィッセルにタオルをかぶせ、ナターリエが顔をしかめる。


「ごめんなさい、ヴィッセル兄様。あの子たち、私の言うことなんて聞かなくて……気をつけて。この館、もうどうなってるか私にもわからないわ」

「へえ、やりますねあの子たち! どんな感じかな」


 これはもと教官として採点しなければと周囲を見回すジルを、ナターリエがにらんだ。


「困ってるのよこっちは! 安全な道順は知っているけれどどこまで本当か……」

「ならナターリエ、ハディスと役立たず教官を案内しなさい。時間がもったいない」


 タオルの下からヴィッセルに言われ、ナターリエがまばたく。


「私も身支度が終わったら向かう。行きなさい」

「でも……ヴィッセル兄様、無事でいられる……?」

「私が子どもの悪戯ごときに屈するとでも?」


 鼻で笑い、ヴィッセルがタオルで濡れた頭を拭きながら、ナターリエがきた道と反対の道へ向かう。ヴィッセルの背中が消えた廊下の奥から、何やら派手な物音が響いた。おお、と階段上で様子を見ていた子どもたちが手すりから身を乗り出す。


「あっち何しかけたっけ? 誰担当?」

「アタシ見てくるー、ラーヴェ皇太子殿下の生き様」


 喜々とした顔でヴィッセルを追う子どもたちを、信頼はしているのだろう。ナターリエは渋い顔でこちらに振り向いた。


「……あの子たちにまかせましょうか。ルティーヤ、案内して」

「え~」

「えーじゃない、正確な場所を知ってるのはあなたでしょ。ここに着くなり、自分が管理するって勝手に持っていって」


 ナターリエはにらまれ、しぶしぶといった顔でルティーヤは何人かつれておりてくる。同じ高さに立って、おっとジルはまばたいた。


「伸びたか? 背」

「み、みんな伸びてるよ。ノインなんか最近、成長痛だとか自慢しやがって……」

「いいなあ、わたしも伸びてるはずなんだが」

「ジルジル、僕もちょっと伸びてるからね」


 うしろからひっついて自己申告してきたハディスに、ナターリエが呆れる。


「ハディス兄様はもう伸びなくていいでしょ、無駄に大きいと邪魔よ」

「邪魔!?」

「いいからルティーヤ、案内して」

「あ~もう掘り出せたとは思うけど」

「掘り出せた?」


 ジルとハディスだけでなく、ナターリエまできょとんとしている。ルティーヤは端的に答えた。


「埋めたんだよね」

「……埋めたって、何を」

「人目につかせるなーとか面倒じゃん。あの棺も魔術も頑丈そうだし、いっそどっかに埋めればいいんじゃねって、みんなで裏庭に埋めた」


 子どもらしい暴挙を隠しもせず、ルティーヤがぼやく。


「くるの早くて明日だと思ってたからさ~ノインのやつ張り切りすぎだろ」

「――そういう問題じゃないでしょう! あなっあなた、ク、クレイトスの王子を裏庭に埋めるなんて!」


 ナターリエの叫びに、ジェラルドの現況をやっと呑みこんだジルとハディスは、そろって噴き出す。不謹慎よ、とナターリエが怒るのはもっともだったが、笑いは止まらなかった。


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― 新着の感想 ―
金蒼学級対抗再戦で旗埋められて負けた学びが活きてる……!
蒼竜学級がいつも通りで安心した! (裏庭に埋められた王子様?……知らん!!) それにしても屋敷の中どうなってるんだ?忍者屋敷みたくなってるのかな?防御はカンペキだ! (ベタな罠に掛かってずぶ濡れの皇…
空気穴開けてるのかな? 昔庭を掘っていたらカエルの緑色の背中が見えたので慌てて埋めたんですが今にして思うと空気穴なくて窒息死したろうな、と・゜・(ノД`)・゜・。
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