そして、かつては今に継続中
竜に乗るのは正直、あまり好きではない。しかし感情で時間を損なうわけにはいかない。仕事が山積みなのだ――そんな中、自分に対処しろとわざわざ名指ししてくるとは。
次に弟にあったときは、それはもう、皮肉と嫌みの嵐をお見舞いしてやろう。レールザッツ公を後ろ盾にお持ちの皇兄はやることが違うとかなんとか。
だがさすがに、弟が直々に受け渡しを指示してきた荷物の中身を聞いて、絶句した。
「――どうして」
「わ、わかりません。リステアード殿下は、ヴィッセル殿下に一任すると……」
「ハディスには」
「リステアード殿下が直接お伝えするというお話でしたが、その……捕虜にされたというのは、本当でありますか」
伝わっていない可能性がある。それだけを考えるようにして、ヴィッセルは荷物を運んできたというミハリ少尉候補生の肩を叩いた。
「その情報はまだ精査中だ。――運び先が帝都ではまずい。場所を用意するから、悪いが少し待機していてもらえないか」
「えっ、は、はい!」
「ヴィッセル殿下!」
帝城のほうから飛んできた竜は、緊急連絡用に使われる竜だった。ヴィッセルたちを見つけて帝国軍人が飛び降りる。
ミハリに手のひらを向けて下がらせ、ヴィッセルは近づいてきた軍人に小声で尋ねる。
「なんだ」
「ベイルブルグが落ちました」
そうか、とヴィッセルはつぶやく。帝都にまで届くほどの魔法陣が昨日、輝いたときから嫌な予感はしていた。
「クレイトスからの声明は?」
「竜神ラーヴェはいなくなったと一度だけ降伏が呼びかけられたようですが、それだけで正式には何も。現在ベイルブルグ全体が結界に包まれ、出入りできなくなっています」
「ハディスは?」
「ノイトラール竜騎士団が行き会ったようで、ノイトラール領にひとまず身を寄せるそうです」
「わかった。あとで指示をまとめて出す」
はっと軍人が敬礼して、竜に乗って帰っていく。動揺がみられないのはいいことだ。竜神ラーヴェなど見えたためしはないのだから――だが、ハディスはどうだろう。
ラーヴェはいるんだよ。一生懸命、訴えていた弟は。
(しゃんとしろよ、竜妃)
差し当たっての問題はこれだ。
腹をくくって、馬車の中に乗りこむ。ひんやりと感じるのは、魔力の影響だろうか。
棺の中で、青白い顔のまま眠る隣国の王子。果たして吉と出るか凶と出るか――決めるのは、いつだって今を生きている人間なのだ。
第8部完走です~~~おつきあいくださった皆様、有り難うございました!
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