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大量の兵や魔獣を確実に安全に転移できるのは、北の砦だった。大量の兵と魔獣たちが、次々と砦の城壁の上やだだっ広い訓練場に現れる。砦壁の向こうにも転移されているようだ。鍛えられた兵たちは、一呼吸こそ置くが、すぐさま点呼と確認を始める。
砦壁を四方で支える塔のてっぺんにおりたロレンスは、黒槍を落としあしもとからくずおれたフェイリスの身体を支え、一緒に膝を突く。
「すみま、せ……」
「近距離ですがこれだけ大量に転移させたんです。当然ですよ」
「ベイルブルグに、行きたかったんです、が……」
「転移してもこれだけの兵、海に落ちるだけです。船なりなんなり、用意してからですよ」
フェイリスはまばたいたあと、少しだけ笑った。
「そう……ですね」
「休んでください。時間はありますから。ルーファス様とも連絡をとります。魔力の温存を考えると、ベイルブルグへの移動は船のほうがいいでしょう」
「……怒って、ませんか。言うことをきかなかったから……」
うかがうように尋ねられ、ロレンスはまじまじと女王を見返す。だが何か言いたげに黒槍が周りを飛び回っているあたり、本当に怒られるかもしれないと思っているようだ。
「あなた、女王でしょう。俺の機嫌をうかがってどうするんです」
「そ、それは……そうなんですけれど……」
「結果的には助かりましたよ。違和感の正体、わかりましたし。作戦どおりあなたが動いていたとしても、本当にベイルブルグを落とせたか、今となってはあやしいですから。しかしアンサス戦争の英雄が竜妃の騎士とはね」
笑ってしまう。フェイリスが小さく息を吐いた。
「……やる気になったのなら、いいです」
「最初からやる気ですよ。いや、俺が一方的にだましてるみたいな引け目はあったかな。でもそれもロルフ・デ・レールザッツのおかげで粉微塵になりました」
「あなたが、かつての仲間たちにやられたがっているように見えたので」
驚いたロレンスの手を放し、黒槍を支えにしてフェイリスは立ち上がる。膝を突いたまま、ロレンスはその横顔を見あげる。
「次の策を、お願いします。できないとは言わせませんよ」
「――おおせのとおりに」
ロレンスも立ち上がり、うやうやしく頭を垂れる。フェイリスが歩き出す。
少しふらついた足取りに、手を貸そうかと思ったけれど、やめておいた。
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連続更新しておりましたが一旦ここで区切り、お休みをいただこうと思います。
再開目安は大体2週間ほどで予定しております。少々お待ちいただければ幸いです。
8部も残り1/3くらいかな?突っ走りますのでよろしくお願いします!




