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やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中  作者: 永瀬さらさ
第八部

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21

 いきなり冷たい風に吹かれて、ロレンスは身をすくめ目をつぶった。外だ。足元は土。もう一度開いた視界には、立つ木と、白い斜面。まだ雪が残っている。

 そして斜め上、遠方だが、塔らしきものが見えた。


「ク、レイトス……っどこですか、ここは。北の砦に転移予定だったでしょう……!」

『ご、ごごごめんなさいフェイリスぅ、ちょっとはずれちゃった……だ、だって竜の王がいるなんて、びっくりしてぇ!』

「竜の王ともなると、女神の魔力も焼けるんですね。失念してました」


 女神の声が聞こえることはこの際無視して、ロレンスは周囲を見渡す。周囲にある木には、クレイトス特有の種類があった。ここは間違いなくクレイトス側だ。上着から出した磁石はぐるぐるまわって役に立たない。つまり、ラキア山脈の山頂近く。女神の言うとおり、予定からちょっとはずれただけならば、ここから見えているのはサーヴェル領の北にある、国境防衛の監視塔か。

 とすれば、目的だった北の砦も徒歩圏内にあるはずだ。


『か、可愛かった~~あんな小さい姿は初めて見た! あっひょっとして、お兄様も昔はあんなだった、り…………………………?』

「想像がつかないならやめておきなさい。あとものすごくにらまれてましたよ竜の王に」

『な、なんで!?』

「議論はあとで。早く北の砦に移動しましょう」

『あっクレイトス、まだ転移できるよ! フェイリスもそんなに疲れてないよね?』

「は、はい」

「駄目です、近いですから歩きます」


 念のため倒されている木の年輪を見て、方角を確認する。太陽の位置も合わせればそうズレはないだろう。しげみをかきわけると、踏みならされた道らしきものも見つかった。


「作戦を早めることにします。あなたはベイルブルグに転移してもらいますから、今は体力温存してください」

「ど、どうしたのですか、いきなり。何かあったのですか」

「竜の王は俺たちを足止めするあっちの切り札だったはずです。それを切ってきたのはあっちの準備が整ったってことですよ。運良く移転できた時間を無駄にしたくありません。他にも想定外のことが起こってる気がして……」

「あ、あなたが想定外……?」

「俺だって万能じゃありませんよ。竜の王がいると思ってませんでしたし」


 どこかから爆音が聞こえた。斜面の上のほうを見あげて、ロレンスは舌打ちする。まだ国境を越えていないとは思うが、行動が早い。ひょっとして朝のうちに手を打たれたか。

 音のした方向を見ているフェイリスの前に背を向けてしゃがむ。


「乗ってください」

「えっ」

「時間がないんです、早く!」

「はっ……ははははは、はいっ」


 細い腕を引っ張るようにして背負い、急な斜面を駆け下りていく。聖槍が先行して飛び、木や茂み、行き先の障害を切り捨ててくれた。そのおかげで、北の砦までまっすぐ進める。

 北の砦の門に辿り着くまで、そう時間はかからなかった。


「女王陛下、ロレンスさん!」


 門を開けると同時に出てきたのは、サーヴェル家の次男坊リックと三男坊アンディだ。彼らは今、サーヴェル家の所有であるこの砦の責任者に近い立場にある。


「国境に竜帝とジル姉――竜妃が現れたって聞いた?」

「聞いてます。逃亡したアルカの追跡部隊はどうしました?」

「さっき回収しました。竜妃にやられたそうです。手当て受けてます」


 眼鏡を曇らせたまま、アンディがすらすらと説明する。


「やられた先遣隊も一部こっちが回収してるんで、竜帝がきてるのは間違いないです。怪我はしてますが全員死んでないのも、ジル姉らしい甘さっていうか」

「死んでないのはここに負担をかけるためだよ」


 アンディが口を閉ざした。フェイリスをおろしながら、ロレンスは指示を飛ばす。


「ここまで攻めてくるつもりでしょう。今いる負傷者と非戦闘員は転移装置で王都に転移させてください。そのあとすぐに援軍を出します。転移先はベイルブルグ。当然、フェイリス様も一緒にベイルブルグへ送ってください。俺はここで指揮をとります」

「あ、あなたは一緒にこないのですか?」


 言ったあとで、フェイリスが小さくくしゃみをした。


「少しでも竜帝の戦力を削っておきますよ。できれば竜妃を潰したい」


 気の利いていない自分の余裕のなさに苦笑しながら、ロレンスは上着を脱いでフェイリスに着せた。フェイリスが固まったが、そこは我慢してもらう。


「でもあなたを絶対に、竜帝に勝たせますから」


 両肩に手を置いて、それだけは約束する。フェイリスは目を見開いたまま、ぎこちなく頷き返し――ロレンスとフェイリスを交互に見ている聖槍をがしっとつかむ。


「何か言ったら折ります……!」

『いっ言ってない、何も言ってないよぅフェイリスぅ!』

「リック君、俺にわかってるだけの情報と戦力と配置を教えてください。アンディ君はフェイリス様をお願いします。――いってください」


 小さな背中を押すと、フェイリスは一度だけ振り向いたが、聖槍を握り直し、毅然と歩き出した。あんな小さな女の子に世界の行き先が託されているなんて、残酷だ。

 でも、その残酷さに加担しているのは自分だ。その責任は取らねばならない。


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― 新着の感想 ―
うぉぉあああああああ!!!なんだこれはぁあああああ!!!!幸せになってくれぇぇぇぇ!!!
おにーちゃんの影がどんどん薄くなっていく…
更新ありがとうございます。 おぁ〜〜〜〜 トキメキたい!トキメキたいけど、状況的にもこれまでの流れ的にもトキメいたら今後酷い傷を負う気がする!!(お兄様の時に経験済) 愛の女神ちょっとぉ!!ラブの…
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