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やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中  作者: 永瀬さらさ
第七部

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「情けないのう、竜妃の騎士が竜に乗っただけでこのザマか」


 竜舎に竜を預けて戻ってきたロルフに見下ろされても、カミラもジークも地面に腰を落としたまま動けない。くまのぬいぐるみと竜の王が入った布袋を背負った鶏にも置いていかれる有り様だ。


「おじいちゃんこそ、竜に乗りたくない嫌だってあんなにわめいてたくせに……」

「乗りたくないだけで乗れんとは言っとらん」

「そういうの詐欺っつーんだよ。……あーまだぐるぐるする」


 ジークは広場を仕切る柵に背を預けたまま、水を飲む。カミラも木箱にもたれかかったまま、顔をあげられない。


「竜妃はあっちで帝国軍に竜の扱いについて指導を受けとるぞ。お前らもどうだ」

「そういうのはエリンツィア殿下に叩き込んでもらったから、もういいんだよ……」

「そうよ、この苦手意識はもはや知識で補えるもんじゃないのよ。ひとりで乗れるようになっただけほめてちょうだいよ、おじいちゃん。アタシたちにとって、竜なんて乗るもんじゃないのよ……乗るなら馬よ、馬。ジルちゃん適応早いわー、さすが竜妃」


 突然、ロルフがどっかりと腰をおろした。


「お前ら、ラーヴェ帝国出身じゃったな」

「そおよぉ。え、何。おじいちゃん、ラーヴェ臣民たるもの竜が苦手など許されない派?」

「ラーヴェ帝国で普段から馬を乗り物にするのはフェアラート領とレールザッツ領の山間じゃな。ホーボエあたりか? 高原が多いが竜が住む山が少ない、いわゆる竜の空白地帯。海はあれど大きな港が作れるわけでもなく鉄道を走らせることもできん、交通の便が悪いド田舎。遊牧民も多い」

「正解なんだが、なんかむかつくな」

「じゃが、だからこそ竜が貴重じゃろう。一頭か二頭、守護竜と呼ばれる黄竜や橙竜がおったじゃろうが」

「あーいたわーいたいた、年取った橙竜。小さい頃、近づいては親に怒られたわー」

「小さい頃から竜に馴染みがあった。なのになぜ苦手になった?」


 ロルフの口調が変わり、ジークもカミラも顔をあげる。お互い目配せし合った。こういうとき、とりあえず口を動かすのはカミラだ。


「アタシたち、故郷とうまくいかずに出てきたのよ。竜っていったら集落のお偉いさんの持ち物だしね。そのせいで苦手意識があるの」

「それでも竜の扱いは叩き込まれたはずじゃぞ。世話は子どもの仕事じゃろ」


 ロルフは淡々と続ける。


「竜が少ない集落だからこそ、竜が誰を選んでもいいよう集落全体で教育しとるはずじゃ。ああいう集落に竜が増えないか、フェアラート公もレールザッツ公も目を光らせとる。竜を得てしまえば集落そのものが精鋭の竜騎士団になりかねんからな。どうじゃ?」

「……確かに、小さい頃から竜の世話はさせられたけど」

「そうじゃな、実際お前らの手綱さばきは竜騎士並に見事じゃった。竜も気持ちよさそうに飛んどったのがその証拠じゃ。なのにお前らは苦手じゃという。おかしくないか?」

「実際、苦手なんだからおかしくないだろ」

「ええい、にぶい奴らじゃな。聞き方を変えてやる。何がきっかけで苦手になった?」


 ジークとカミラは顔を見合わせる。ロルフが舌打ちした。


「集落を出るまでは世話しとったんじゃろうが」

「まあ……そうね、当番制だったから。でも乗ったことないわよ」

「故郷を出たのはいつじゃ。きっかけがあったとしたら、故郷を出たあとじゃろう」

「六年前くらい? 一、二年は傭兵やってて、そこから北方師団に入って……」

「ベイルブルグか。北方師団を作ったのは今の竜帝じゃな。竜も配備されておったはずじゃ」


 何十年も竜妃宮にこもっていたわりに、ロルフは最近の世情にまで詳しい。


「俺らは傭兵あがりだぞ、騎竜なんかもらえねーよ。そうでなくたって北方師団はベイル侯爵の言いなりで、ぐだぐだだった。竜なんて見たことなかったぜ」

「……。故郷を離れとる間に、竜との接点がなくなって苦手になった。……筋は通るが」

「何よぉ、そんなに気にすること? 竜妃の騎士としてまずいっていうのはわかるけど」

「お前ら、先帝が呼んだ竜に勝てないと判断しても、戦えないとは言わなかったな。竜は苦手で乗れんが、戦える。――まるでクレイトスで傭兵でもやっとったようじゃ」


 あやしまれているのだ。予想外の方向からの疑惑に、カミラがは慌てる。


「クレイトス王国とは縁もゆかりもないわよ」

「ホーボエあたりの出身ならそうじゃろうな。あそこは封鎖的じゃ」


 すでにロルフの中で結論は出ているのか、あっさり納得してくれた。


「じゃが、ただでさえ竜妃がクレイトスの、しかもサーヴェル家出身ときとる。竜妃の騎士の数が少ない今、振る舞いには用心することだ」

「……親切だな。ちゃんとやる気あんじゃねえか、竜妃の騎士」

「面倒事は嫌いなだけじゃ。ほれ、若いもんがいつまでぐずぐずしとる、いい加減立て!」


 地面を蹴るようにして、ロルフがジークとカミラを追い立てる。土をかけられてジークが顔をしかめた。


「なんだよ、今日はもう飯食って寝るだけだろうが。体調管理が仕事だ」

「宿の主人から聞いたんだが、この辺にジェラルド王子の目撃情報があるらしい」

「は?」

「一応、聞き込みしてこい。罠だろうがな。わしゃ宿で先に休んどるから」


 返事を待たず、ロルフは腰を撫でながら宿のほうへ歩いていく。

 カミラとジークは顔を見合わせた。


「……ジェラルド王子の目撃情報!? 早く言ってほしいわよ、そういう大事な話は!」

「いつから竜が苦手かとか相変わらずどうでもいい話ばっかりして、あのじいさんは……」


 不意にお互い黙りこんでしまう。だが、苦手なものは苦手だし、クレイトスで傭兵などやったこともない。


「――行くか、聞き込み」

「我らが軍師おじいちゃんのご命令だもんねえ」


 考えてもしかたないことは置いて、立つ。日が山稜を赤く染めて沈んでいく。ほどよく、食堂がにぎわい出す頃合いだろう。

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― 新着の感想 ―
記憶に残ってない亡命分岐の記憶か
[一言] もしかして前回の記憶かな…。
[気になる点] ジークとカミラは少しやり直し前の記憶がありますからね。その事も竜に乗るのが苦手なのと関係しているのでしょうか?
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