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 適当に本棚から本を引っ張ったが、中身は子ども向けの聖典だった。竜帝が休む部屋に女神の教えを諭す本を置くとは、なかなか気が利いている。寝台脇の本棚にそれを返しながら、ジークは尋ねる。


「で、なんのための仮病だ?」


 起きているという予想は当たった。布団の中から、声が返ってくる。


「仮病じゃないよ。気分は最高に悪い。起きてたくない。何もしたくない」

「なら引きこもりか。なんか嫌なことでもされたのか」

「別に。みんな親切だよ。でも全然、僕の理想どおりじゃない……わかってたけど」


 これはストレスによる体調不良だな、とジークは判断した。


「嫁さんの実家へのご挨拶とかそんなもんだろ」

「お土産だって、いっぱい準備したのに。ご挨拶だっていっぱい考えたのに。早くラーヴェに帰りたい。相手にするならうるさい兄上たちのほうがまだましだよ……」

「もう少し我慢しろよ。隊長の実家なんだから」

「わかってるよ。……帰りたいとか、安心する気持ちはわかるようになったから」


 ラーヴェ帝国にいる上のきょうだいが聞いたら泣き出しそうだ。

 ごろんと寝返りを打ってこちらを向いたハディスが、上目遣いでこちらを見る。


「それより、ちゃんと合流できた?」

「ああ、指示通りだ。そろそろこっちに着くだろ。しかしなんでまた、こんな不意打ちみたいな形にするんだ?」

「不確定要素は多いほうがいい。どうしたってここは向こうに有利な戦場だから。奇襲をかけないと負ける」


 方針はジークにも納得できる。具体的には何をしようとしているかが、さっぱりわからないだけだ。


「夕食会に間に合えばいいけどね」

「で、肝心の皇帝様が夕食会は欠席で本当にいいのか?」


 尋ねながら、ふと窓の外に人影をふたつ見つけて、目を剥いた。よりによってそのタイミングで、ハディスがのそりと起き上がる。


「そうだな。状況によるけど着替えるのも面倒だし……どうしたの」


 乱暴にカーテンを閉めたジークはぎくりと振り返る。


「いや。日の光がまぶしいかと」

「……。外に何があるのかな?」


 にっこり笑顔を向けられて、ごまかせないことを悟った。腹をくくったジークは、閉めたばかりのカーテンを開き直し、念だけ押す。


「早合点してキレるなよ。大人なんだから」


 立ちあがったハディスが、窓際にきた。

 こういうとき、ぴくりとも表情を動かさないのがこの皇帝の怖いところだと思う。何を考えているのかわからない。


「……大人だと、早合点してキレない?」

「そうだ。どういう状況かわからんだろ。息を吸って吐いて、まず落ち着け」

「でないと嫌われる?」

「わかってんなら――っておい! ああもう!」


 言ったそばから、踵を返したハディスが早足で部屋から出て行く。慌ててジークはそれを追いかけた。こういうときに限って、なだめ役の相棒がいない。そしてジークはなんとなく、今回ジルをあまり当てにしてはいけない、と思っている。

 なぜならここは故郷なのだ。敵陣だと思えと要求するほうが酷だろう。

 あいたカーテンの向こう、窓の下では、敬愛する隊長と敵だと認識している王子が、楽しそうに散策していた。


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― 新着の感想 ―
[一言] すっごく面白くて大大大大好きなので更新楽しみすぎています(。・・。) 正直気持ち抑えきれずに感想させて頂きました! 体調など気をつけて… 応援しています^^
[一言] 200話おめでとうございます
[一言] 200頁目おめでとうございます。
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