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やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中  作者: 永瀬さらさ
第三部

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 撃ち合った剣の先で、男は笑った。


「自己紹介が遅れたね。僕はクレイトスの王様だ。ルーファスっていう。気安くルーファスお兄さんと呼んでくれ。優秀な息子に隠居させられてしまって暇で観光にきていたんだよ。まだ三十代なのに隠居生活。ひどいと思わないか?」


 おしゃべりな男だ。下から天剣を打ち上げ、ハディスは答える。


「さっきも言った。興味がない」

「なるほど、なるほど。そういうふうに君は答え、しゃべるのか。これでも若い頃は色々考えたものでね。竜帝とはどんな顔だろう。どんなふうにしゃべるのだろう。どんなふうに笑い、泣き、戦うのか!」


 天剣によく似た形の剣が振り下ろされた。天剣と撃ち合ってもひびひとつ入らない。それどころかつい最近、目にした記憶があった。

 叔父が持ってた偽物の天剣だ。女神の聖槍から作られたそれ。

 他の誰かが持つならまだしもこの男は、クレイトスの国王。すなわち女神の夫となった、竜帝の代役だ。天剣と同じだけの威力を出すことも不可能ではない。まして、ハディスは今、魔力を半分封じられている。


「僕の知ったことじゃない」

「一人称は僕! 答え合わせは楽しいな、わざわざ会いにきた甲斐があった」

「そうか。なら早く帰ってくれないか」


 冷たく言うと、にいと唇の両端を持ちあげて、ルーファスが笑った。


「そうはいかない! 竜妃ちゃんにまだ会っていないからね」


 眉をひそめたハディスの前で、ルーファスが唇を舐めた。


「竜妃がいてこそじゃないか。僕たちの戦いは」

「……どういう意味だ」

「ああ、ああ、知らないのか。そうだな、理の竜神は合理的だ。都合の悪いことはすぐに忘れる、理性を保ち続けるために!」


 横に払われた剣に、体勢を崩す。その瞬間、魔力を直接鳩尾に叩き込まれた。


「僕は憐れに思うよ。すべてを覚えたまま狂っていく、我らが愛の女神を」


 そのままルーファスの魔力が四散した。咄嗟に両腕を広げて、結界を張る。


「なるほど、街を守るか。ではご期待どおりに」


 にいと笑ったルーファスが大きく剣を振り下ろす。そのままそれは魔力の攻撃に変わった。

 受け止めきれずに、ハディスは地面に背中から激突する。血を吐いたが、すぐさま起き上がった。起き上がらなければ死ぬ。

 案の定、上空からルーファスが追撃にやってきていた。


「さあ本性を見せろ、竜帝――!」


 ハディスをその黒い目に映していたルーファスが、振り向きざまに剣を振り払った。だがその動きを縫い止めるように、次々攻撃が降ってくる。


「……ラーヴェ」

『ああ』


 竜妃の神器の光だ。ハディスの前に流星のように少女が舞い降りた。


「そこまでです、国王陛下――いえ、南国王」


 自分に向かってきた魔力の矢をすべて払い落とし、地面に足をつけたルーファスが振り返る。


「僕を知っているのか。ああ、そういえばサーヴェル家の姫だと小耳に挟んだ。――では、君が竜妃ちゃんかな」

「そうだ」


 手にした黄金の弓を黄金の剣に変えて、その切っ先を突きつける、小さな背中。

 戦女神のように美しいその姿に、ハディスは手を伸ばした。




 なんて有様だ。ハディスを見たジルの感想はそれだった。

 立ってはいるが、あちこち裂傷だらけ。三日三晩寝込むのは間違いない。これでは首に縄をかけて吊すこともできないではないか。


「だめだ、ジル。君では勝てない。さがってて」


 しかも何を言うかと思ったら、そんなことを言い出す。

 かちんときたジルは、伸ばされた手をつかみ、背負い投げてやった。

 地面にひっくり返ってぱちぱちしているハディスの胸倉を、ぐいと持ちあげる。


「今、なんて言いました陛下?」

「え、……ええと、いくら神器があっても、勝て、な……っく、苦し、ジル、息が」

「再会して第一声がそれか馬鹿夫ーーーーーーー!」


 ぎりぎり両手で首を絞めてやる。ぽかんとしているルーファスがうしろにいるのだが、あとまわしだ。おかまいなしにハディスに凄む。


「他に言うことがあるだろうが!? 勝手に出て行って、パン屋ってなんだ!」

「あ、ごめ、でも、ここは僕にまかせて、ジルは」

「まだ言うか! ――わたしがどんなに心配したか、知らないで!」


 叫んだジルにハディスが黙った。ぐいと目元の汗を――汗だ、汗に違いない、自分はそんなに甘くない――を腕でぬぐって、ジルはルーファスに向き直る。


「わたしの陛下をこんなにしたのは、あなたですね」

「おおむねそうかな」

「引く気は?」

「ないね。金の指輪を持っていない君の神器に、負けるわけがない」


 言われてジルは自分の左手に目を落とす。確かに、金の指輪はない。ジルの魔力が戻っていないからだ。金の指輪が竜妃の証である以上、魔力の増減に竜妃の神器の威力が関わるのは当然の帰結だ。


「それに、せっかく君に会いにきたんだ。せいぜい楽しませてもらわないと!」

「ジル! ――って!」


 懲りずにジルの前に出ようとしたハディスを、蹴っ飛ばしておいた。邪魔だ。


「わお。なかなかの恐妻じゃあないか、竜妃ちゃん」

「よそ見をしている暇はないぞ!」


 黄金の剣を握って振りかぶる。難なくルーファスはそれを受け止め、そのまま流れるようにジルを跳ね飛ばした。体勢を立て直そうとしたジルは背後をとられ、背中に柄の底を叩き込まれる。起き上がったハディスが叫ぶ。


「ジル! よせ、僕が相手でいいだろう!」

「ふむ。こんなものか? 期待したのだが」


 ジルは回転して地面に着地するが、すぐさま上からルーファスの追撃がきた。重圧で地面が円形に沈む。両手で下から支える黄金の剣が、押されていく。


(強い!)


 ハディスが押され気味だったときからわかっていたが、想像以上に力量の差があった。

 魔力量も、おそらく武器もだ。


「これではがっかりだぞ、竜妃ちゃん。新しいのに替えたほうがいいのでは?」


 ためしているつもりなのか、笑いながらルーファスが上から押してくる。片膝を突いたまま、ジルは唸った。


「あ、たらしいの、だと……っ」

「そう。君を殺せば、また彼は新しい竜妃をさがすだろう」


 そんなこと。

 奥歯を噛みしめたジルは顔をあげる。左手の薬指に指輪は戻らない。魔力が足りない。黄金の光が薄くなっていく。ルーファスが憐れむように目を細める。


「それが理ってものさ。君には荷が重いだろう。竜帝は、竜神は、愛など解さない――女神の愛ですら、届かないのだから」


 なぜか脳裏に先ほどの出来事がぐるぐる回った。あんな男、好きにならなければよかった。

 あれは絶対ろくでもない神話のかけらだ。

 だが、それがどうした。


(わたしが、好きなのは陛下だ)


 知っている。この恋は勘違いなんかじゃない。

 気合いだ。両膝に力を込めて、立ちあがる。黄金の魔力が輝いた。


「いい、たいことは、それ、だけかあぁぁぁぁ!!」


 押し返されたルーファスが両眼を見開く。

 黄金の剣を横に振り払った。同時に手の中で剣が槍に変わる。斜めに吹き飛ばしたルーファス目がけて、ジルは大きく黄金の槍を振りかぶった。

 まっすぐ投擲した黄金の槍をルーファスは刺さる寸前で受け止める。だがそのまま鞭に形を変えた竜妃の神器が、ルーファスの体を搦め捕った。

 その鞭の先と、ジルの左手の薬指に輝く指輪がつながる。


「だったら女神に、わたしのほうが陛下が好きだって伝えておけ!!」


 上空で鞭をつかんだジルは、そのままルーファスごと地面に叩きつける。

 地響きと一緒にルーファスが沈み、その衝撃で、上から建物が崩れ落ちていった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] というか、魔封じが強すぎだろ・・・女神が殆ど力を使ってない様子なのに竜帝とジルの力を半分封じてるって・・・女神って竜神の2倍ぐらい強いんじゃない?
[良い点] 鞭、鞭だとーーーー?!!! ハディスを縛り上げる用にしか思えないな…笑笑 それにしても竜帝夫婦カッコ良すぎる…。すきぃ。。。 [気になる点] ルーファスさんも兄だったってことですよね?妹…
[一言] もう絶対ここまで漫画で見てみたい!!!! ジルーーーまじめっちゃカッコいい!!!! 変幻自在の武器変化にとっても興奮しました!!!!
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