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悪役令嬢の前兆

 



 ローゼンの魔力は無駄に強いらしい。

 前にリュカも言ってた。

 だからこそ無理やり契約することになったって。


 ローゼンの持ってる魔力を、当たり前だけどわたしも使うことできるのか。今まで出来なかったら中の人間が変われば魔法も使えなくなるとかとちょっと考えちゃったよ。


 突然降り出した雨はスカラによって収まったけれど、昼休みが終わったとき、全員が揃いも揃ってびしょ濡れなもんだからさすがに申し訳なかった。

 ごめんよみんな。



 放課後。

 スカラは一緒にわたしの家に帰り、ニヒルさんとリュカに挨拶すると言い出した。



「わたしはどうしたらいいのかな。スカラの家族への挨拶とか」

「いらねーよ。全員ローゼンのことなんて嫌ってるしな」

「悲しい……」

「諦めろ。自業自得だ」



 グサッ。

 お、仰る通りだけど……!

 でもそれは、わたしじゃない……!


 心でべそをかきながらスカラと一緒に家までの道を歩く。



「改めて聞くけどさ。お前、今までしてきたことは覚えてないの?」

「う、うん。記憶がこんがらがっててね。だから魔法の使い方も分からなかったんだけど」

「……いい気なもんだな」

「え?」

「だって今までしてきたこと忘れられてるんだろ?まぁ、忘れた状態であそこまで色々やられてんのは可哀想だけど、まぁ仕方ねーよな。お前ほんと酷かったし」

「……」



 ……そりゃ、そうだけど。

 ローゼンのしてきたことはホント悪女で、悪役令嬢で、嫌われて仕方ないけど。

 でもそれは、わたしじゃない。

 わたしは望んでないのに、勝手にローゼンに転生しただけだ。



「……ローゼン?」

「……ううん」

「……悪い」

「なんで?」

「怒ってるだろ」

「怒ってないよ」



 そうは言いつつもやっぱりモヤモヤして、顔を背ける。

 スカラはそれ以上なにも言ってこなかった。


 家に着いて出迎えてくれたニヒルさんは、スカラを見て少し疑うよう視線を向けた。

 けれどすぐに笑顔を見せ、「初めまして」と頭を下げた。



「すみません突然」

「とんでもない。この度はローゼン様とのご婚約、誠に嬉しく思っています。どうぞ中へ」



 スカラを中に招き入れ、ニヒルさんがハーブティーと、手作りクッキーを並べてくれる。

 ニヒルさんのクッキーが美味しいんだ。ほんと。堪らない。



「もうローゼンさんから聞いてるかもしれませんが、今回の婚約は、次期国王が決定するまでの限定にして頂けたらと思っています」

「はい、承知しております。なのでご主人様には伝えておりません」

「ありがとうございます。ローゼンさんと婚約破棄したあとのことはこちらでちゃんと処理します。決してマグノリア家の評価が落ちるようなことはしません」



 なんだそれ初耳だぞ。

 スカラを見ると、無視される。おい。



「具体的にはどういう?」

「僕が身勝手に破棄したことにします。浮気をしたことにしてもいいと思ってます。今までのローゼンさんのままだと無理だと思ってましたが、今のローゼンさんなら、僕の勝手だと話しても皆信じてくれると思います」

「……もしもあなたのお兄様が国王になった場合、あなたがそんなことをしたら国王のお兄様の評価まで下がるのでは?」

「構いません。ローゼンさんと婚約した時点で僕の恩返しは済んでいますから。あとはどれだけ迷惑をかけたって構わない。そして俺はこの国を出ます」

「なるほど、あなたの考えは理解しました。……ローゼン様はいかがですか?」



 ニヒルさんに話を振られ、クッキーを頬張ってた口を慌てて手で隠してもごもごと話す。

 否、話そうとしたけれど、机に飛び乗ってきたリュカに「行儀悪い」と尻尾で叩かれたので飲み込んでから話すことにする。



「わたしは大丈夫です。それにわたしは、レガリートたちにさえ目を付けられなければいいので。レガリートたちはしゅじ、……アリアに危害があるかどうかにしか興味ないから、わたしがもうアリアに酷いことをしないって証明できたらそれでいいです」

「……承知致しました。ローゼン様もこう仰ってることですし、わたくしからはなにもありません。これからどうぞよろしくお願い致します」



 またも恭しく頭を下げるニヒルさんに、スカラも腰を上げてしっかりと頭を下げる。

 ほんと、鉄壁の外面だ。




 憎たらしい。




 そう思ってハッとする。

 なにを意地の悪いことを思ってるんだわたしは。これじゃあローゼンみたいじゃないか。


 軽口で言う「憎たらしい」とは違う、心の奥底から湧き上がってくるような憎悪の感情に自分で引く。

 ふとリュカの真っ赤な瞳と目が合った。




「っ」




 見透かされてる気がして怖い。

 すぐに目を背けると、リュカはなにも言わずに小さな口でサクサクとクッキーを砕き始めた。




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