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「ソラ!」

「ソラさん!」



 帰宅後、少年の姿に変わったリュカと、執事服のニヒルさんに同時に叱咤される。

 ベッドの上で正座して項垂れるわたしを二人は容赦なく責め立てた。



「なに考えてんだよ!あんな好き勝手言う奴家に招き入れるなんて!」

「で、でもスカラは悪くないし……」

「悪いだろ!お前のこと利用してんだぞ!」

「で、でも優しくしてくれたしぃ……」

「どんだけ優しさに飢えてんだよお前は!」

「う、飢えてるよそりゃあ!だって生まれてこの方三十年、イケメンはおろか普通にだって滅多に優しくされたことなかったんだから!そんで目覚めたらローゼンでこの嫌われっぷり!」

「お、おう。それは災難だったな」

「でしょ!?」



 わたしは愛に飢えている!

 はっきり言い切るわたしにリュカは若干引いたような顔して口を閉ざした。



「ですがソラさん。確かにマグノリア家は財産があります。ローゼン様のお父様は今もお仕事は順調ですし、彼一人住まわせるくらいなんてことはないでしょう。けれど彼が本当に、次期国王が決まったときこの家を出て行くかどうか、その保証はありません」

「……スカラは、大丈夫だと思うんだけどなぁ」

「なにを根拠に」

「根拠はないです、すみません……」

「……はぁ」



 深く息を吐き出したニヒルさんは、ゆっくりと苦笑混じりの笑みを浮かべ言った。



「時期国王決めは既に行われているといいます。恐らくこの一年以内に決まるでしょう。それまでわたくしとリュカでソラさんをお守りします。もし少しでも危害を加える恐れがある場合は容赦致しません」

「うん!ありがとう!」

「っ、いいいいいえ!滅相もございません!」



 風のように出て行ったニヒルさん。

 既に飽きてベッドにゴロゴロしてたリュカに問う。



「ニヒルさんのあの切り替えはなんなんだろう」

「さぁなー」



 うん、考える気ないね。



「ソラさん。夕食のご用意ができました」

「あ、はーい」



 スカラがこの家に来るのは三日後。

 それまでにスカラの部屋を用意しておかなくては。










「おはよう、ローゼンさん」

「……」



 分かりやすく眉を寄せると、スカラは口元をわたしの耳元に寄せ、脅すように言う。



「怪しい反応するんじゃねーぞ」

「……」

「お前さ、レガリートに嫌われたくねーんだろ?俺と婚約して大人しくしてれば、許してもらえるかもなぁ」



 トン、と骨ばった手が肩に置かれ、思わずどきりとする。

 だってね?ほら。色恋沙汰なんて全く経験してこなかったわたしだからさ。ね?



「また教室でね、ローゼン」



 ニコリ、外面スマイルで去って行くスカラに引き攣った笑みを返して見送る。

 わたしの周りでは早速今のやり取りを見てた生徒のみんながザワザワと騒がしくなっていた。



 教室に入るとスカラはスターのように囲まれてて、何事だと目を見張る。



「あ、おい来たぞ!」

「ホントかよスカラ……」



 わたしに気付いたスカラの取り巻き男子たちが騒ぎ出す。

 スカラはちょいちょい、とわたしを招いた。

 言われるがまま近付くと、ガッと肩を組まれる。



「ホントだよ。昨日婚約したんだ」

「ちょっ、」



 もう言うの!?こんなあっさり!?



「マジかよ!」

「すげーなお前!勇者だな!」



 スカラがあまりにあっさりしてるもんだから、みんなわたしへの反応はなく、スカラにばかり言葉を返してる。

 ……おや、おやおやおや。これはいい効果なのでは。このまま行けばわたし本当に平凡キャラになれるのでは。



「そんなことないよ。確かに昔のローゼンはちょっと行き過ぎたところがあったけど、今じゃすっから改心してるし」

「いやぁ、それにしたってすげーよスカラ。もしかしてマグノリアを改心させたのってスカラか?お前、顔も良くて性格も良くて、最強じゃん!」



 ねー、わたしも思ってたー。

 何度離れようと試みてもビクともしない肩に乗せられた手に諦めたわたしは、へらへらと笑みを貼り付けその場をやり過ごす。


 その日は一日スカラへの質問責めで、わたしは疑いの眼差しを向けられるだけだった。

 大変なのはスカラだ。

 ずっと笑顔で愛想良く全部の質問に答えてる。


 恐るべし鉄壁の外面。




「ローゼン。お昼に行こう」

「う、うん」




 解放されてすぐお昼へ誘ってくれるスカラに、わたしも頷き教室を出る。

 来たのは、人気のない訓練場裏。



「お疲れさま」

「は?」

「え?疲れてない?」

「慣れてるし」

「へぇ、すごいね」



 実年齢で言えば圧倒的にスカラの方が子どもなわけたわけど、どうも今のわたしの感覚はローゼンと同じ十七才になってるらしく、スカラの方が大人に見える。



「お前、魔法は使えんのか?」

「あーそれが全然で。やり方が分からなくて」

「ふぅん。……立ってみ」

「え?あ、うん」



 言われた通り腰を上げる。

 リュカも、気になるのかひょっこりと顔だけ出してきた。



「目を閉じて、想像する。自分が魔法でなにをしたいか」

「想像……」



 それはニヒルさんにもリュカにも言われたことだった。想像なら楽勝だ、と思って、ローゼンの魔力である水でできることを考えた結果、雨を降らせて虹を見たいと思った。


 でもそのときは雨なんて一滴も降らなかった。

 それからも何度か挑戦してるんだけど、成果はナッシング。


 目を閉じて、想像。

 雨が降って、虹がかかるところ。




 ザァァァァァァ




 少しの間の後、一瞬で土砂降りの雨が降ってきた。……強すぎない?なんなら痛いんだけど。



「ば、バカかお前!」

「え!?え!?」

「使えないんじゃねーのかよ!つーかやりすぎだ止めろ!」

「どどどどうやって!」



 わたしもスカラもびしょ濡れだ。

 リュカだけが飛び出して楽しそうにクルクル回ってる。



「っ、封!」



 スカラが叫ぶ。

 すると、徐々に雨は弱まった。



「お、おおー、すごいねスカラ」

「どうすんだよびしょ濡れじゃねぇか」

「だ、だってスカラが想像しろって!」

「こんな大雨降らせろなんて言ってねー!それにお前魔法使えるじゃねーか!」

「今初めてだよ!」

「初めてでこれって……はぁ。ローゼンはほんと、無駄に魔力強いんだな」




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