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クラスメイトと婚約

 





「ローゼン。俺と婚約してほしい」



 それは翌日の昼休みだった。

 スカラに一緒にお昼を食べようと誘われ、ルンルンで中庭に付いていき、さてお昼食べようかとニヒルの作ってくれたお弁当を広げようとしたところで、スカラが言った。



「……ん?」

「婚約してほしいんだ、ローゼン」

「……ん!?」



 幻聴!?とうとう幻聴!?

 カバンの中でリュカもひっくり返ってる。


 それも当然だ。

 だってわたしはあの半端ないロクでなし人間であるローゼンで、これまでのローゼンを知ってるならどう間違ってもそんなセリフ言わない。


 まさか、わたしがローゼンじゃないと気付いてる?いや、でもリュカはそう簡単に気付かないって言ってた。

 ……なら本当に、ローゼンに婚約の申し込みをしてるの?

 婚約ってあれ?『ダイヤモンドプリンス』のプリンスたちが主人公としてるあの婚約?イチャイチャラブラブするあの婚約?



「あの……どうしてわたし?昨日しか話してないけどスカラはすごくいい人だし、自分で言うのもなんだけど、わたしすごく嫌な女だからみんなに嫌われてるし。なのになんでスカラほどの人が?」

「……俺は、今の王であるレシファ・ユリスカの息子なんだ」

「……王の、子ども?」



 そうだ。『ダイヤモンドプリンス』のプリンスたちは皆この国の王であるレシファ・ユリスカの子どもたち。ユリスカには多くの妻がいて、それぞれの妻に子どもがいるのだ。


 ユリスカは正妻を持たなかったため、子どもたちは皆、王とは苗字が違う。そんな子どもたちの中から、王は次期国王を決めるのだ。確か。

 本編は恋愛重視だから、話の流れで時期国王がうんたらかんたらとは出てきたけど、誰かが時期国王になるところは話にはなかった。

 誰のルートをプレイしててもそうだった。

 つまり、これから時期国王決めが始まる。でもわたしはそれが誰になるかは知らない。


 で、ユリスカの子どもの一人にスカラ?

 でもスカラは本編にいなかったはず。こんなイケメンのスカラなら、本編に出てたら覚えてる。



「まぁ、子どもといっても二番目なんだけどね。次期国王候補に入ってるのは、長男のリウス」

「……そうだ!」

「え?」



 スカラはリウスの弟かそうだ!

 リウスは本編に出てくるキャラで、全てを適当にこなす、真意の見えにくいキャラ。女の子にも本気になることはなく、主人公にも最初はそのノリで絡み出す。

 けれど次第に主人公の真っ直ぐさに惹かれて、主人公にだけアピールしてくる、と。


 リウス編の中に、弟について触れてるシーンがあった。リウスはなんでもできる弟に劣等感を覚えていて、それを紛らわせるために何事にも本気にならないようになったって話だった。


 なるほど、リウスの弟か。それならこれだけの顔立ちなのも、本編には出てきてなかったのも頷ける。



「あ、ごめんなさい話遮って」

「大丈夫だよ。それで俺は次男なんだけど、次期国王になってるリウスをもっと上にあげるために、俺は家を出ることになったんだ。俺が家を出ればランファン家からの候補者はリウス一人になる。俺が残ってると、リウスになにかあったとき俺も候補に入るかもしれない。それを避けるために家を出るんだ」

「……どうしてスカラが家を出なくちゃいけないの?お兄さんになにかあって候補に選ばれそうになったって、そのときスカラに候補になる意思がなければ断ればいいんじゃないの?」

「次期国王候補になることを断るなんて、王への失礼にあたることだからできないんだよ」

「あ……そっか」

「それに俺は、実を言えばランファン家の子どもじゃない。血の繋がりはないんだ。孤児だったところを拾われた」



 ……情報量多すぎるぜ。

 これだけの境遇のスカラをなぜリウスの弟、だけに留まらせたのか運営よ。

 え?でもリウスの口からはスカラが血の繋がらない弟だとは一切出てこなかった。なんでだろう。



「だから俺は家を出るんだ。今はみんなそれを望んでる。その相手がローゼンであることも」

「わたし?」

「悪評高いローゼンのところに自ら移った息子。なんて慈悲深い。そんな肩書きが得られたら、ランファン家自体の評価が上がる。そして俺はランファン家を出てるから、ローゼンが親族になる可能性もない。純粋にリウスへの注目も高まる」



 そんなの、スカラを捨ててるようなものじゃないか。



「ごめんね、利用するようなこと言って」

「え?あ、ううん、それは全然。でもなんか、スカラがそんなことする意味が分からないっていうかなんていうか……」

「……ほんと、ローゼンじゃないみたいだ。今までのローゼンならきっと『わたしの家を住処にしようだなんて許さない!』って言うだろうに」

「あ、あはは、ほんと昔はごめんなさい。今はもうそんなこと思わないから」



 張り付いた笑みで答えたと同時、お弁当を入れてた袋からリュカが飛び出してきた。



「お前、なに考えてる」



 パタパタと小さな羽を揺らし、わたしの前に止まったリュカは、真っ赤な瞳にスカラを映して尋ねた。



「ちょ、リュカ……」

「本気でランファン家を抜けてローゼンのところに来る気なのか?それとも、財産だけ取って逃げる気か?」

「リュカ!」



 唐突に何失礼なこと言ってるんだ!

 リュカの尻尾を捕まえようとすると、するりと逃げられる。



「……めんどくせーなぁ」



 ポツリ、聞こえた声。

 スカラの声だ。

 でもなんか、話し方変わったような……あれぇ?



「使い魔と仲悪いんじゃねーのかよ。つーかそもそも最近のお前どうしたの?レガリートに刺されたショックでぶりっ子やってんの?気持ちわりーんだけど」

「……え、えーと、スカラ?」

「そのちび龍の言う通り、って言ったらちょっと違うか。婚約は次期国王が決まるまでの限定だ。それに兄貴が選ばれようと選ばれまいと、そのときに婚約は破棄する。アンタの家の財産を持ち逃げする気はない。次期国王が決まれば、俺はもう自由になれる。今回俺は捨てられる。でも今全部投げ出したらランファン家の評価は地の底になるからな。ま、ここまで育ててもらった恩返しだ。次期国王が決まるまではアンタと婚約する」

「……あはは、わたしの意思は何処へ……」

「アンタの意思なんてカンケーねーよ。それにアンタ、俺のこと可哀想って思うだろ?」



 ドン、と壁に追い詰められ、翡翠色の瞳がわたしを捉える。

 サラサラとしたミルクティー色の髪が風に揺られて、なんかいい匂いもする。



「俺、ランファン家出されたら行くとこないんだよね。しばらく泊めてくんない?」



 綺麗な二重の目をやんわり細め笑った顔は紛うことなき天使で、わたしは勝手に口が動いていた。



「はひ……」




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