見知らぬクラスメイト
これまでの鬱憤を晴らすかのように、今度はわたしへの嫌がらせがスタートした。
おまけにここは魔法学園。地味にすごい嫌がらせ。
例えば教師に当てられて答えようとした瞬間に風魔法で教科書を飛ばされたり、机の中が土だらけになってたり、歩く先に氷の塊が飛び出してきて転んだり。
見兼ねたリュカがなんとかしてやろうかと言ってくれたけど、大丈夫と答えた。
ここを乗り切れば、わたしはアリアたちに近付く気もなく、他の生徒のみんなに危害を加える気もないと分かってもらえるはずだ。
そんな状態で数日。
わたしは疲労困憊であった。
「ソラさん、無理なさらずに」
なんてニヒルさんに心配されながら送り出された本日。何気なく内履きを取り出そうと靴箱に手を突っ込んだ瞬間、ビリッとした痛みが掌全体に走って思わず手を引っ込めた。
「っおい!」
リュカが顔を出す。
わたしの掌はばっくりと切れ、ダラダラと血が滴り落ちていた。
「クソ、誰だ!」
「リュカ。大丈夫だから」
「けどこれはやりすぎだろ!大体ローゼンならまだしもソラが受ける必要な、」
「リューカ」
リュカの口をもう片方の手で塞ぐ。
既にわたしの手と、わたしの足元に落ちてる血の跡に周りがざわめき出してる。ここでリュカが暴れたりしたら、ここまで我慢してきた意味がなくなっちゃうんだよ、リュカ。
「ローゼンさん!」
不意に呼ばれて振り返ると、立ってたのは見知らぬ男子だった。
同じ三年生であることを示す青色ネクタイをしてる、とても綺麗な顔の男子。
ミルクティーのような色をしたサラサラの髪に、白い肌、長い睫毛に覆われた透き通るような緑色の瞳、筋の通った鼻に形のいい唇。
これだけのイケメンならメインキャラにいそうなものだけど、覚えがない。
誰だ?このイケメンは。
「ローゼンさん、手当しに行こう」
「え、あ、うん」
彼はわたしの血が落ちた床に手をかざした。一瞬で床は元通りの真っ白な床になる。
「すごい……」
「水に吸い取らせただけだよ。さ、行こう」
カバンの中でリュカがそれはそれは不服そうにわたしを見上げていたけれど、口パクでごめんねと言えば、仕方ねーなといった様子で許してくれたようだった。
わたしは見知らぬ彼に連れられ医務室へと来る。
「あらあら痛そうね。ちょっと待ってて」
ここは魔法学園。治療も魔法だ。
保健医の優しそうな女性が、わたしの切れた手のひらに自分の手をかざしてなにやら呪文らしきものを口にする。
次にはもうわたしの手にあった傷は消えていた。
彼もこの先生も当たり前のようにやってるけどすごい。
わたしはローゼンの体を上手く使うことができなくて、今のところ一切魔法を使えないのだ。やばし。
「これで大丈夫よ」
「ありがとうございます。あの、あなたも……」
「俺はスカラ・ランファン。大したことないみたいでよかったよ」
「ありがとう、スカラさん」
初めて会う彼にお礼を口にすれば、スカラさんは優しく微笑んだ。
「俺、ローゼンさんと同じクラスなんだ。それで最近のローゼンさん見てて気になってて。……大丈夫?辛くない?」
なんだ、なんだこの人は。あのローゼンにこんな優しい言葉を口にする人がいるの!?本気!?
「あ、ありがとう。でも大丈夫。それにスカラさんがそんなこと言ってくれるなんて、それだけで嬉しい」
「そっか、強いんだね。ローゼンさんは。俺のことはスカラって呼んでよ。俺もローゼンって呼んでいい?」
「っうん!ぜひ!」
「はは、よかった。これからまた話そうね、ローゼン」
「ありがとう、スカラ」
なんということだ。なんということだ。
ローゼンにこんな優しく親しげに話しかけてくれる人がいるなんて!
本編では出てきてない人だけど、今この瞬間、わたしの中で本編推しキャラにスカラがランクインだよ!断トツの一位だよ!
「リュカ……こんなローゼンに優しくしてくれるなんて……最高だね」
「はんっ、なんか魂胆あるんじゃねーの!」
「え?」
「どう考えたって今までのローゼンを知ってる奴なら、あんな態度取らねーよ。今のローゼンがソラだって気付ける奴は多分俺とニヒルくらいだし、アイツが気付いてるとも思えない。ぜってーなんか企んでる!」
「えぇ……いい人そうなのに」
「お前の頭は花畑かコラ!」
リュカに怒鳴られ頭を垂れるわたし。
けれどリュカは全く気にしてない様子でわたしのカバンへと戻り、呑気に寝始めた。
ちくしょう。