龍のリュカ
龍の化身だと言ったリュカをマジマジと見てしまう。
そうか、この世界での使い魔は全てなにかの動物だった。
レガリートなら豹、主人公は白鳥。
ローゼンは龍だったのか。
リュカはどうしてローゼンの使い魔になったんだろう。これだけ嫌ってるのに。
使い魔の契約はお互いの合意がないとできなかったはずだ。
「リュカは、どうしてローゼンの使い魔に?」
「呼ばれたんだよ、強制的に。普通は使い魔の契約は双方合意の上に行われる。でもアイツは無駄に魔力が強くてな。強制的に俺を呼び出して、俺の命を石に込めて契約してきた。俺は、その石を自分の中に取り込まない限りアイツとの契約を破棄できない」
「そんな横暴な……」
「そういう奴なんだよ、アイツは。龍は他の動物よりも頑丈だ。少しの怪我なら生き延びる。だからだろうな」
「……石を返せばリュカは自由になれるんだね。ならわたしがその石を探して返す。でもその前にちょっとだけ手伝ってくれる?わたしはもう悪女のローゼンじゃないことを人に分かってもらって穏やかに暮らしたい」
正直魔力もいらないし使い魔を縛り付けようとも思わない。
とんでもない悪役に転生してしまったならばせめて普通になってひっそり暮らしたい。わたしはそれだけで十分だ。
できることならプリンスたちの愛を受けてみたくはあったけれど……まぁ、うん。仕方ない。
リュカはわたしの頼みに少し呆けたあと、軽快に笑った。
「はははっ、ソラ、俺お前のこと気に入ったぞ!そんな悪女面で優しーこと言ってるのウケるな!」
「ま、真面目に言ってるんだけどね!?」
「分かってるよ!はは、いいよ。協力してやる。その体はもうずっとソラのままなのか?ならローゼンがまともになったって知られたあと、俺はソラに契約を解消してもらう。そんで、ソラはそのあと普通に暮らす。そのための手伝いを俺はする」
あぁよかった。
とりあえず協力者を、それもとても心強い協力者を一人ゲットした。
あとは明日ニヒルさんにも話そう。
リュカは細かいことを気にしていないみたいだからあっさり話を受け入れてくれたけど、ニヒルさんは多分違う。
わたしは、ローゼンが死ぬところを見た。多分ローゼンはもういない。……否、もしかしたらわたしのようにどこか別の体に入ってる?だとしたらどこに?
……でも、とりあえずこの体にはもう戻ってこない。根拠はないけど、確信がある。だからこれからローゼンとして生きていくのはわたしだと、ニヒルさんに認めてもらわなければならない。
さてそれをどう話すかだ。
ニヒルさんは、リュカとは違ってローゼンを嫌ってるようには見えなかった。怯えてるようには見えたけど。
だとしたら、ローゼンが戻ってくるまでの間、わたしがローゼンとして生きなくちゃいけない。でも悪女のままだとまた命を狙われるかもしれないから、普通になったと示したい。
そんな風に話すしかないかな。多少の嘘も方弁ということで。ごめんね、ニヒルさん。
ニヒルさんを取り込むプランも考えたところで徐々に眠気が襲ってくる。
「眠いか?」
「あは、そうだね」
「今日は寝ればいい。じゃあな。俺はそこら辺にいるから」
「うん、ありがとうリュカ。本当に」
リュカはわたしに「おう」と軽く答え、窓から飛び降りた。
……窓から!?
飛び起きて駆け寄ると、リュカは窓の少し下にある木の枝に乗っていて、安堵する。
「あ?なんか言い忘れ?」
「急に窓から降りたからびっくりしたんだよ。あ、でも龍だから飛べるのか。え?でも今は人の姿だし……」
「使い魔は基本人間の姿だけど、力は本来持ってる力のままだからな。飛べる奴なら人間の姿でも飛べる。……見たい?龍になるとこ」
「……見たい」
そりゃあ見たい。
ゲームのスチルでは見たことあったけど、生で変わる瞬間は見たことないから、そりゃあ見たい。
「ほい」
一瞬だった。
ふっと沸き起こった煙が消えたときには、リュカは真っ赤な鱗の龍の姿だった。
……でかい。
バサバサと大きな羽を揺らして飛ぶリュカに目ん玉落ちそうなほど目を奪われ、そんなわたしをリュカが笑ったような気がした。
「はは、変な反応」
「は、初めて見たから……すごい。かっこいい」
「乗るか?」
「え?」
「背中」
「……」
どうしよう。とんでもなく乗りたい。
リュカの羽が動く度に、さっきまでリュカが乗ってた木はワサワサと揺れ動いている。
リュカはゆっくりと窓の近くまで来て、「ほら」と言う。わたしはそっとリュカの背中に跨った。