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転生先は悪役令嬢

 





  はっきりと覚えてる。

  不気味なくらい、はっきりと。


  わたしは死んだ。

  残業によって疲れ果てたボロボロの体での帰宅中。信号無視で突っ込んできやがった車にはねられあっけなく。

  同時に、別の世界でもわたしが死んだ。

  そちらでは、とんでもないイケメンに斬られて。


  そうして目覚めたとき、わたしは心地いいフワフワのベッドに寝ていて、天井も、壁も、全て見知らぬ空間だった。

  ……どういうことだろう。

  わたしは二回、自分が死んだことを覚えてる。交通事故と、イケメンによる斬り付け。どっちもロクでもない……あぁでも、イケメンに殺されてるだけ後者の方がマシか。


  ゆっくりと体を起こすと、覚えのない感覚。はらり、視界の端に金色の髪が落ちてきた。飛び退くほど驚いて、そっとその髪を一束手に取り視界の中心まで持ってくる。

  ……うん、これはわたしの髪だね。イケメンに斬られた方のわたしの髪。


  ベッドを降りて、壁にある全身鏡をロックオン。そこに走り寄り、自分の姿を確認。深く息を吐き出した。



「ローゼン……」



  ローゼン・マグノリア。

  交通事故ではねられたわたしの方の世界で、わたしが脇目も降らずプレイしていた乙女ゲーム、『ダイヤモンドプリンス』というゲームに出てくるロクでもない悪役令嬢だ。


  そうだ、思い出した。

  わたしは二人の人間が死んだところを覚えている。けれど、本来のわたしの死は交通事故のみ。

  イケメンに斬り付けられて死んだのは、このローゼン・マグノリアだ。そしてローゼンを斬ったのは、『ダイヤモンドプリンス』の人気ナンバーワンキャラであるソティス・レガリート。


  ローゼンの悪役さったら半端なくて、主人公がプリンスたちと仲を深めることを酷く嫌い、ことあるごとに邪魔してくる。けれども悪女で有名なローゼンはプリンスたちから相手にされず、主人公への嫌がらせをスタート。

  主人公がプリンスたちとの仲を深めれば深めるだけローゼンの悪さは加速し、最後はプリンスに殺されるのだ。



  ……あんまりじゃないですかね、神様。

  わたしは身を粉にしてサービス残業して会社に貢献して、なのに感謝なんぞまるでされず気付けば三十歳。癒してくれる彼氏もおらず、枯れる一歩手前のわたしを救ってくれてたのが『ダイヤモンドプリンス』だった。

  どのプリンスもイケメンだし優しいし、主人公には無条件に全ての愛を注いでくれていた。わたしはその主人公になりきることでイケメンからの愛を強制的に自分のものへと変換し、なんとか仕事を続けてきた。


  なのに!

  なぜこっち!?なぜローゼン!?

  主人公がいい!わたしは主人公になってイケメンたちにリアルで優しくされたい!なんでよ!

  半ば半狂乱でわたしは暴れ出した。

  フカフカのベッドにダイブしたり、跳ね返されて床に落ちて痛さに声を上げたりしながらもとりあえず暴れまくった。

 

  ローゼンがレガリートに殺されるシーンは、レガリート攻略ストーリーのバッドエンドに出てきて、王道の王子様キャラと見せかけてのまさかのヤンデレだったというオチだった。

  ハッピーエンドの場合は、ちゃんと王道キャラのまま。

  わたしはどうもヤンデレキャラは好きじゃない。先発でバッドエンドを見てしまったので、その後必死にハッピーエンドへと持ち込んだ。


  そのシーンを見たことがあるから、自分が死んだ気になったんだろう。多分、事故によってわたしが死んだのと、ゲームの中のローゼンが死んだのが同時だった。そしてわたしはローゼンの中に飛ばされた。

  ここは完全にわたしのプレイしてた『ダイヤモンドプリンス』の世界。実在する世界。


  ひとしきり暴れたことで若干の冷静……否、諦めを手にしたわたしはドカッとベッドに座り、胡座をかく。

  この世界では、一人につき一つの宝石が体内にあるという設定だ。レガリートにはダイヤモンド。主人公にはアクアマリン。ローゼンには確かシトリンクォーツ、という宝石だったと思う。そしてそれぞれの体内にある宝石に宿る力がそのまま魔力となって、この世界での魔法となる。


『ダイヤモンドプリンス』は恋愛ファンタジーゲーム。割となんでもありの設定だった。まず死んだ人は主人公の魔法で簡単に生き返る。怪我も主人公の力で治る。故にプリンスたちは主人公に惹かれ、主人公もまたプリンスたちに惹かれ恋に落ちると。

  完璧チート主人公。

  そんなチート主人公は、レガリートがローゼンを殺したときも魔法を使おうとするほどのお人好し。けれどローゼンの場合は、レガリートが魔法を禁じる。「こんな奴、もう一生いなくていい」と言って。


  さて、となれば。今のローゼンはレガリートに殺されたあとだ。だけどここは恐らくローゼンの部屋。ならば、ローゼンは誰に助けられてここに来た?レガリートはローゼンが助かったことを知ってる?

  なんにせよわたしはもう死ぬのは勘弁。悪役令嬢に入っただけでも勘弁なのに、更にその体でもう一度死を味わうのはもーう本当に勘弁!

  わたしはなんとしてでもローゼンとして生きなければ。レガリートに生きてると知られてるとしたら、彼はまたローゼンを殺しに来る。そのときに改心したんだと示さなくては!






「……ローゼン、様……?」




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