迎撃
武装した複数人の男たちは、連絡のあった場所へ急行していた。慣れない装備を揺らしながら、彼らは階段を駆け上がっていく。駆け上がった先には長い廊下が彼らを静かに迎え入れていた。階段からすぐ近くにあるドアの前に彼らは集合する。
「確かこの部屋だよな?」と一人の男が言った。多分な、と別の男が少し不機嫌そうに返事をする。その男が無線機を取り出した。
「こちらチームC、指定された場所に到着しました。西の二階、第四資材置場でいいんですよね? リーダー、どうぞ」
「あー、そうそうそこであってるよ。もう移動してるかもしれないけど、そう遠くには行ってないはずだ、通信終了」
チームのうちの一人が、静かにドアを開けた。ドアの向こうには暗闇が待ち構えていた。
「うーわ、真っ暗だ。思ったより広いな」と言って男がライトを照らす。
「資材っていうか、廃材みたいな部品も置かれているんだな、この部屋」
部屋に並べられたボロボロのアンドロイドや部品を見て、一人の隊員がそう言った。
「よし、手分けして捜索しよう」
室内の電気がつけられると、隊員は散り散りになって探索を始めた。すると隊員は瞬く間に、物陰に潜む物体を目撃した。チーム全員の集中がそちらに移る。
「そこにいるのは誰だ! 大人しく出てこい! ぶっ放すぞ!」
「う、撃たないでください。言うとおりにしますから…」
物陰から作業服姿の男がゆっくりと、両手を上げて姿を現した。複数の銃口が一人の男を囲んでいる。
「なんだ人間か? ところでこの辺りでアンドロイドを見なかったか?」
隊員は小銃を突き付けながらそう言った。
「いえ。見ていません」と作業服姿の男は顔を横に振った。
「そうか、とりあえず我々とご同行願おうか。言うことさえ聞いていれば、我々も悪いことはしない」
そう言って隊員の一人が男に近づいたとき、後ろからうめき声がするのを聞いた。振り返ると、先ほどまで横たわっていたはずのアンドロイドが隊員を拘束していた。作業服姿の男はそんなアンドロイドを見るなり、物陰に身を隠した。
「少しの間指を借りるぞ」
そのアンドロイドがそうつぶやくと小銃が火を噴いた。放たれた弾丸は無慈悲にかつ正確に隊員の息の根を止めていった。撃たれた方も反撃こそしていたが、そのほとんどが拘束されている隊員によって目標に当たることはなかった。仲間に撃たれたその隊員は数秒で起きたこの出来事に、脳内の処理が追い付いていなかった。気づいたときには全身から力が抜け始め、傷口が熱くなっていた。やっと拘束から解放されたときには既に意識がもうろうとしていることを自覚していた。彼は途切れ途切れにうめき声を漏らした。
彼が息を引き取ったことをそのアンドロイドは確認すると、物陰で震えあがっている男に声をかけた。
「終わったぞー。ただまだ続くだろうからそのまま隠れてろー」
「こ、殺したんだよな? こいつらのこと」
「仕方ないだろうニコラス。こうしないとこっちがやられるんだから」
「…いや、お前がそんなに素早く人を始末できるんだなって思ってな。殺そうと思っても普通はあんなに手際よくいかないからな…ふつうは」
「機械だからなあたしは。実行するのは得意なのさ。それにしてもバレるのが早いぜあんた」
そう言って彼女は隊員たちから装備を回収し、隊員の一人を背後から抱え上げた。彼女はドアの向こうからこちらに近づいてくる足音に耳を傾けていた。
「ニコラス!またやつらが来る!さっきも言ったが、そこに隠れていろ!」
彼女は死体と共に、入り口で身を構えた。そして階段から来る足音に合わせて銃口を構えた。彼女と鉢合わせした隊員は驚く間もなく、銃弾をその身に浴びた。階段の上から血を流して落ちてきた隊員を見て彼らは歩みを一時的に止めた。踊り場で部隊が足を止める中、一人の隊員が無線機を取り出した。
「こ、こちらチームE! て、敵が室内で待ち伏せをしているようです。リーダー、どうすればいいのでしょうか…」と彼は慌てた声で話した。
「何? 待ち伏せだと? 支給した閃光手りゅう弾を使え。それなら失敗しても死にはしないだろう。ちょっと障害は残るかもしれないけどね」
「あ、アンドロイドに効くんですか?」
「ああ効くとも。不安なら手りゅう弾でもいいぞ? その場合、失敗したらお前はお釈迦だがな」
彼らが狼狽していると、頭上から手りゅう弾が投げ込まれてきた。激しい爆発と破片が隊員らを襲い、瞬く間にチームは壊滅した。イヴはこめかみから指を離し、吐き捨てるようにこうつぶやいた。
「あんたらの会話は筒抜けなんだよ、馬鹿どもが。あたしも含めてだがな」