実戦
小鳥のさえずりが飛び交う素敵な朝。
「おーきーてー!」
ドンッ!
「ぐぇ」
腹に来た衝撃。勢いがあり過ぎて耐えきれず、蛙が潰れた声が出た。なんなの、朝っぱらから……
お腹をさすり、目を擦り、衝撃の正体を確かめる。えーと……
「マッシュルーム……ちゃん?」
「あはは!何それ!ケンラねぇ変なの、面白ーい!」
俺とばってんにクロスする様にお腹の上に乗ってこっちに顔を向けている。ニコニコと笑っているカラン。倒れてきたのか、こいつ。
「えーと、カラン。てか、なんで俺だけ起こすのさ。まだ寝ときなよ。」
ほんと子供って早起きだよな。俺も子供だが。
「もう、ケンラねぇだけだよ?」
「ふーん、そう…」
たく、だからなんなんだよ。俺はまだ眠いからほっといてくれ………
そんな思いで布団くるまる。二度寝しよ………
………あれ?
「ってマジかぁぁぁぁぁ!!!」
「あはは!声おっきー!」
皆、起きるの早くない!?カバっと布団を退ける。俺はカランをどけて急いでベットから飛び降り、机に飛びつく。机の手紙、開きっぱなしなんだよ!
便箋は5枚。1枚だけ真っ白だった。たたまれ方は3つ折りで、元のようにたたんで重ねて置いていた上に、封筒を置いて寝た。
「えーと、触られてはないな。うん?何か違和感が……」
置き方は記憶と変わらないが便箋を見た時に違和感を感じた。
(あれ?読み終わってすぐ寝たから……そのまま最後にきた真っ白の便箋を上にしたはず……順番まで元どうりにしたっけ?)
うーん、読んだ紙を机に置いていったから……順番は逆さになるはず。なのにこれは元どうりの順番並べられていた。
一様聞いてみよう。
「ねぇねぇ。カラン。」
「どーしたの?」
「誰かこれ見てなかった?」
俺の思い過ごしか?だといいんだが……
「うーん、誰も見てないよー!だって字、いっぱいは読めないもん。」
あぁそうだ。ここは小さい子ばかり。俺は中身が特殊なだけで普通、7歳児ぐらいまで満足に字は読めないか。しかもこれは日本語だし。多分見てもわからんだろ。そこまで神経質にならなくてもいいな。
「なぁ、カラン。皆は?」
「神父様のお家でご飯!」
なるほど。それ程までに寝てたのか、俺。結構早起きは得意なはずなのにな。
ゴーン……ゴーン……
低くて優しい鐘の音があたりに響く。心を落ち着かせる力を持った強くて優しい響き、素敵だ。こんな環境俺にはなかった。子供の頃はアパートが並ぶ団地のど真ん中に家族と住んでいた。一人暮らし始めてからも閑静な住宅街のボロアパートだった。
「これ、時間を知らせる鐘だよね?何時の?」
初めて聞いた鐘の音。どのぐらいの感覚で鳴るのか知らされてない。
多分2時間おきとかそんぐらいなら8時とか10時ぐらいかな?でもみんなご飯食べてるらしいし……
「えーとね、6時だよ!」
「えっ!?」
早過ぎない?皆6時前には起きてるってこと?いつもこうなの。道理で俺が寝坊するわけだ。だっていつもは6時半だし……
「ねぇねぇ、ずーっと待ってるんだよ!ご・は・ん・!た・べ・よ!」
あぁそうだご飯だ。早く行かなきゃみんな食べ終わっちゃうかもな。
「じゃ、行こっか?」
「うん!」
手を出したら一瞬頭に?《ハテナ》を思い浮かべてたけど、直ぐに元気な返事をして繋いでくれた。そこから家に向かって歩き出す。
いつもこうゆう事してなかった感じかな、レイラさん。あんまり違うことしすぎたら怪しまれるか……まぁ全然知らないから防ぎようもないけどな……
「おはようございますー!」
「やっと起きたよ、ケンラねぇ。」
昨日のキッチン兼食堂だ。全員いる。まだ食べては無いようだ。
「ハハ、おはよう。最近お疲れみたいだね。体調は大丈夫かい?ケンラ。」
身長はそこまで無い小柄の男性。肌は少し日に焼けている。低くて優しいあの鐘のような声。目尻にシワがあり、そのシワが優しさを強調している。白髪がところどころ混ざっている黒髪で、歳は4~50代ぐらいのこの人が、神父のロードさん。鼻の下の髭が男前だ。
「ふふ、寝癖がついてるわ。あとで整えてあげましょう。」
スラリとした体型。肌は白い。髪はミラさんの様な金髪を短く方に着くくらいに切りそろえてる。可愛らしいコロコロした笑みで若く感じるが、神父様の2つしたらしい。この大人の女性が奥さんのハーブさん。ミラさんのおっとりはここから来たんだな。二人とも優しい笑みは同じだな。こんなにニコニコした人達に囲まれており、俺達は幸せだなと思う。
「ありがとうございます。体調はもう大丈夫です。髪は後で整えてください。」
この人たちを見ていると自然に笑顔になれるな。
「大丈夫なら良かったよ。無理はしないようにね。」
「ふふ、食べ終わったてから隣のリビングに行きましょう。」
「はい!」
俺もいい加減席に着く。する時ミラさんが立ち上がって挨拶をする。
「皆さん、おはようございます。今日も自然の恵みに感謝して、平和で素晴らしい一日にならんことを。」
その言葉でみんな掌を組んで黙想する。慌てて習う。
しばらくの沈黙。
「では、頂きましょう。いただきます。」
「「「「「いただきます。」」」」」
みんな一斉に食べ始めた。
今日の朝食はスクランブルエッグ。レタスとトマトのサラダに、パンとホットミルク。なんて健康的なんだ。卵はフワッフワッに焼かれており、中はトロッとして口で溶ける。ほんのり甘い味付けだ。パンは今朝、焼けたばかりの楕円形のパン。切り込みが入っているので具材を挟んで食べる。レタスやトマトを挟み、手作りマヨネーズをかける。こんなにみずみずしくてシャキシャキした野菜は初めてだし、手作りのマヨネーズの美味しさには驚く。これらの素材で作って食べる手作りのサンドイッチ。美味しすぎて幸せ。
暖かいミルクを飲み、手を合わせる。
「ごちそうさまでした。」
いやーこんなの毎日続いたら最高だな。コンビニ生活とおさらばだ。自炊下手な奴には嬉しい。
「満足したようね。」
皿を片付けているミラさんが声を掛けてくる。
ここには新聞を読んでいる神父様と皿を洗っている奥さん、俺とミラさんだけだ。ソウは見張りでチビ達に着いてった。
「はい!もうめっちゃ美味しいです。幸せです。」
「ふふ、ありがとう。とっても嬉しいわ。」
俺も笑顔になる。2人でたわいもない話しみをしながら皿を片付けていく。
「そうそう。力のことなんだけど……」
またまた唐突に。
「あぁ、その事なら少し思い出しましたよ。」
そういうことに来ておく。ちょっと心が痛むが仕方なし。
「まぁ、本当に?じゃあ使えそう?」
「いや、まだ分かりません。」
まだ使ってないしな。そもそも使えるのか?
「じゃあ、ソウと実践してみたら?」
「えっ?どうしてソウですか?」
あいつ力強いんじゃないの?何かは知らないけど。
「ソウはコントロールが1番上手でしょ?だからまだ上手く力が使えない子供たちじゃ無理だし、私達はそんな歳でもないから。」
ニコニコした笑顔で言われる。歳じゃないって貴女、中身の俺と同い歳じゃん……
「あーじゃあ頼んどきます。」
あまり気が乗らないな。はぶらかしとこ。
「ふふ、能力は感情が大きく関わってくるし、きっとすぐ発動できるわ。驚いて。」
「えっ!?驚いてってなんですか!?」
「さぁ早速頼みに行かなきゃ!後の片付けは私に任せて。」
手を引かれて外まで連れ出される。俺、承諾してないよね!?しかも俺、さっき自分で行くって言ったよね!?
この人の行動力に驚かされていた。
何やかんやで子供たちがいる広場まで来てしまった。なんだ、なんだとこっちを見てる。しかも、もう7時過ぎたらしい。教会の時計で確認できた。ちらほら住人が外に出てきだしている。
今の状況はこうだ。
ミラさんがソウにさっきの話をした。しばらく考えた後、ソウは承諾。俺と5mほど距離をとって向かいにたっている。そして睨まれている状態。ちなみにミラさんは家に帰って行った。
な・ん・だ・こ・れ
あーもう無理。気絶したいわ。
「おい、覚悟はいいか?」
「全然良くないです。」
なんだよ覚悟って!ふざけんな、こっちはもうお腹いっぱい。
「大丈夫だそうだ。審判頼んだ。」
審判役に声を掛ける。
ねぇ聞いてた?あいつと俺の間には審判役を買って出た近所のお兄さん。ソウの言葉で始めようとしているけど俺はOKして無いよ?あー何か剣道の試合に似てるな。知らないけど。いや、全然考えること違うね。これは現実逃避だわ。
「じゃあはじめていいかな。よーい……………はじめ!!!」
勢いよく手をおろされる。やばい、始まった。あのお兄さんノリノリすぎ。
「ってあれ?あいつはどこに……」
「ここだよ。」
声がした上を見る。そこには大きな水の塊。……水の塊?
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
何とか反応して転げて逃げる。
俺がいた場所水浸し。何か凹んでいるようにも見えるが気のせい気のせい!………多分
「ちょっと!危ないだろ!?」
「手加減は無しだろ?」
いや、有りだろ!今度は水の弾丸が飛んでくる。何とか走り切って全て避ける。が1発当たる。吹っ飛ばされた。とっさに腕で防いだが超いてぇ。血はでてないか。てか、よく見たらあいつ手をポケットに突っ込んだままだし。やばすぎだろ。クソ、なんなんだあいつ。
「油断すんなよ。」
「え?」
何とか立ち上がった瞬間、体に水が巻きついた。取れない。足まで巻きついてきたので思わず転ける。腕も拘束されて芋虫状態だ。俺、クソダサ。
ソウがゆっくり近づいて来た。目の前に仁王立ちされる。
めっちゃ見下してくるな。どうしたらそんな目付き出来るんだよ。10歳児が!
「……俺は知ってるからな、お前の正体。」
急に話し出したな。なんの事だよ……
うつ伏せのまま何とか顔だけむける。首が痛い。それでも頑張って抵抗は続ける。何とか逃げ出せないか……
「お前自身が何者かは知らねぇ。だが確実なのはレイラを殺したことだ。手紙を見て分かった。」
こいつ、何言って……しかも手紙って……まさか!
俺の顔がサッと青ざめる。
「知らねぇ文字だったからぱっと目を通しただけたが、思い出したんだよ。と言うより頭に映像が流れてきた。本当のお前との正しい思い出がな。」
や、やらかした!やっぱり見られてたのか!それより“見せないで“って言ってた理由はまさか……
「本当のあいつは“私“だったし、そんな男みたいな口調じゃねえ。それに能力について思い出した割にはいつものスケッチブックを持ってきていねぇ。全部お前が記憶を改ざんしたんだろ。」
今まで所々疑問に思われていたとこはあったが記憶は改ざんされていたんだな。その改ざんが手紙に目を通すと全部解けるんだ。
そういう意味での忠告だったのか……
しかし、知ってたのに能力のことはうかつだった……
「第一の違和感はお前が“ソウ“って読んだことだな。」
「えっ!?名前“ソウ“じゃあないの!?」
「馬鹿が。あいつだけは俺を“ソウエン“って本名で呼んでたんだよ。似せるならとことん似せやがれ、偽物。」
うっ、確かに……いやいやいや!納得しちゃダメだろ俺!別に偽物ではないだろうが!それに手紙にはソウってあったし……
手紙の時ぐらいしっかりいつもどうり書いてよね!レイラさん!
「あの時の犯人は2人と聞いてたが3人だったようだな。化けの皮剥いでお前も軍警に突き出してやる。」
あの時って……人攫いの連中と仲間って思われてる!?やべぇ!俺絶体絶命!俺犯罪者になっちゃう……
「な、なぁ。一旦冷静にならないか?」
「俺は常に冷静だ。」
ですよねー。たく、とんだ10歳児だ。頭切れすぎだろ。こんなに10歳いてたまるか!何とかしなければ。こんな時、力が発揮できれば……でもスケッチブック無い!
「終わりだな。しばらく寝とけ。」
「うわぁぁぁ!?」
勢いよく顔面めがけて飛んでくる水。もう無理だ。死ぬ。
俺はぎゅっと目をつぶり、衝撃に耐えた。のだが……
「……何も起こらない……?」
片目を開けて見る。そこには驚いた顔のソウ。でも何か見え方が全体的に紫っぽいと言うか……
「あれ?水の拘束がない!?」
立ち上がり、自分を見る。さっきまで自分を縛っていた水が消えている。しかも何か体が軽い。
「おい、なんなんだこの能力……」
ソウが呟いた。俺はそっちに顔を向けたらパチリと目が合う。明らかに警戒されているな。今にも攻撃して来そうだ。てか、能力って……えっ?
薄紫の透明な壁。天井にも足元にもある。パッと見正方形。サイコロの中に入ったみたい。なんてね。って冗談言ってる場合か!
「なんじゃこりゃ!?」
「はぁ?何言ってんだよ、お前……」
「嫌だってこれ知らない!頼む!出してくれ!」
俺は馬鹿みたいに壁を叩く。ダメージを与えられているとは思えないが。
「なんで俺に助け求めるんだよ!」
「いや、ご最もだけど一生のお願い。頼む!」
俺は半ばパニクっていて今まで戦っていたことを忘れてしまっていた。ぽかんとソウが口を開けている。そして吹き出した。
「お前……マジやめろ……っアハハハハハハ!!」
「な、何もそんなに笑わなくていいだろ!?」
今更自分のおかしな状況と歳を理解し、顔を茹でダコのように真っ赤にする。“自分で出した能力から出せって“よくよく考えたら馬鹿げてる。くっ、恥ずかしすぎる……
今になって気づく。ギャラリーがいたわ。遠く離れているので話は聞かれてないと思う。でもみんなこっちを見て、肩を震わせている。審判のお兄さんも笑いを耐えている。もう辞めて。
「なぁ、トウマさん。もう、やめでいいよ、この試合。」
「ゴホゴホ。えーと、もういいの?」
「あぁ。こいつ出さなきゃいけないし、目的は果たせたからな。」
「そうだね。自分が捕まっちゃったけど能力は使えたわけだ。」
うっ……そんなにニヤニヤこっちを見ながら話さないでよ……笑うなら思いっきり笑え!!!しかもトウマって人はむせてたよね!?
「おい、解けそうか、力。」
やめろー!なんだその目は。そんなに憐れむなよ。まぁいい。出れたら仕返ししてやる。
「出方わかってたら苦労しません。」
「それもそうだな。」
うわぁムカつく!手伝おうかの一言も無し!ひど過ぎないか……もうなんなんだこの壁……こいつのせいで俺は笑いものに……消えろよ!
あまりに腹が立ち、思いっきり壁を殴る。ドンッと音がしたその瞬間。パリンと音を立て、砕け散った。破片は空気に解ける。
「うわぁぁぁ!?」
もちろん、支えをなくした俺は地面に転ける。顔うった、痛い。
「おいおい、大丈夫かよ。くくっ……」
また顔が熱くなる。しれっと俺を避けた上に見下ろし、笑ってきた。どんだけムカつかせるんだよ、こいつ。俺の方が歳上なんだ。腹がったって睨んでやる。
「なんだよ、悪かったって。一旦、部屋行くぞ。」
俺の手を掴み強引に引っ張る。こっちは地面に突っ伏したまんまだったので、急にたって歩き出すとフラフラした。
「おーい!ミラさんになんて言えばいいか?」
後ろからあのお兄さんの声が飛んでくる。
「しばらく休むって言っといてくれ!」
振り向いて叫び、教会のドアを開けて入って行った。俺もあとに続く。しかし、どういう風の吹き回しだ……こいつ……
ソウは俺を部屋に連れ込んで、謝ってきた。そして俺について話して欲しいと言ってきた。もちろん迷ったが結局、俺は全てを話すことになった。と言っても殺しの依頼については話していない。
「という事はお前がレイラの代わりに旅をする事になったんだな。」
「まぁ、そういうことになるな。」
「さっきの能力は何かわかんないのか?」
「わかってたらあんな恥はかかないさ。」
「そりゃそうか。くくっ」
くぅー!悔しい。まだ笑われる。
「まぁ仕方ないな。普通は7歳で能力の形がハッキリする。レイラが特別だっただけだからな。」
え?何それ、聞いてない。
「なんだそれ、詳しく教えろよ。しかもレイラさんが特別って?」
「あぁ?えーと、5歳で能力を初めて発動できて、7歳で形が決まる。そんで14の成人の儀で能力に名前を貰って初めて完成すんだよ。で、レイラは名前を貰う前にかってに自分で付けて完成させたんだよ。大人にも負けなかったぜ。」
知らなかった、そうなのか。て言う事は……
「お前の力、まだまだ強くなんの?」
「フッ、まぁな。」
ドヤ顔された!でも俺だって同じなんだよな……何とか使いこなさなければ……でも、今すぐ動かなければ……
わしゃわしゃと頭を搔く。俺がああだこうだ悩んでいると“ソウエン“が真剣な顔で話してきた。
「なぁ、俺もその旅に加われないか?」
「どうしたんだよ、急に。」
「いや、思ったんだよ。チビ達を残すことに心残りがあるが、お前について行った方がいいんじゃないかって。俺だってこの国を出たことがある訳では無いがレイラの影響で色々知識はある。お前のサポートが出来るし、何より"虹の瞳"の1人に相応しいと思うんだ。だから連れてけ。」
命令形か。うーん、でも確かにその通りだな。さっきの水の能力は凄かった。大きな戦力になる。よし!こいつと協力した方が何かと都合が良いしな。心強いし頼りになる。俺より頭いいし。
「いいよ、俺は。でも条件があるんだ。」
「なんだ。」
「今すぐじゃなくて7年後。俺が14になったらでいいか?その方が力も蓄えられるし、お前との絆も築ける。いいだろ?」
「フッ。今すぐとはいってないさ。俺もそれで十分だ。じゃあ、お互い頑張ろうな。」
うーんなんか今馬鹿にされた気がしたが気にしないことにしよう。握手を交わす。
そう言えば気になってたことがあったんだ。
「なぁ、ソウエン。戦ってた時は殺す勢いだったのに、どうして急に俺を攻撃しなかったんだ?」
それに協力するとまで言い出したしな。
「お前が馬鹿だったからだ。だって、レイラを殺す程の人間で、名の知れた悪党。記憶の改ざんが出来る能力者。なのにお前はあまりにも馬鹿すぎだ。演じているにしては敵意も殺気も全く感じさせ無かった。そして自分の力で大恥かいた。疑う気も失せるしな。」
所々言葉の暴力が痛いが納得だ。良かった!俺が馬鹿で。
「でも、よく俺が異世界人だって理解したな。」
「レイラは俺に自分について話してくれていたからな。だから同じような人間が現れても理解はできた所もある。」
「へぇー、知ってたんだな。」
「まぁな。でもほかの連中には言うなよ。心配させる。」
へぇー優しいな。結構笑うし、見直した!
「なぁ、なんでお前はそんなに頭いいの?」
急な疑問。俺、勉強あんまり好きじゃないしな。
「レイラだよ。あいつが調べものがあるって言ってたから手伝ってた。」
「そんなに仲良かったんだな。喧嘩、よくしたんだろ?」
「それは違う。俺達は喧嘩なんてほとんどしたことないぞ。」
「えっ!?じゃあなんで……」
ミラさんの勝手な思い違いか?いや、でもそれは……
「入れ替わりが原因だろ。」
「あーなるほど。結構ズボラなんだな、記憶の改ざんって。」
「いや、それは違うな。俺の予想ではお前をこの世界に連れてくるまでがひとつの能力だと思う。多分、"記憶の改ざん"って言うよりは"印象の入れ替わり"だと思うぞ。」
「えーと……」
「能力の影響で"周りの人間の記憶"は"入れ替わる前の人間との記憶“と"入れ替わる対象の人間との作られた記憶“自体が入れ替わっている訳ではないと思うんだ。本来、この力は対象の人間の入れ替わり以外には影響を及ぼす訳では無いんだ。だけど、"中身の人間が入れ替わる"時に"その者が周りに与える印象"なども変わるんだよ。何故なら“周りが抱く印象“も“その人間の1部“と認識されるからだな。だからだよ。印象なんて人それぞれだから綻びが生じるんだと思う。どう思う?」
「………わからん!!!」
「いや、なんでだよ!」
いや、分かるかよ!何が言いたいんだ!
「俺でもわかるように簡潔にまとめなさい!」
俺、ソウエンより年上だけど頭良くはないからね!
「あー!だ・か・ら!記憶が改ざんされているんじゃなくて、周りがその人間に対して抱く“印象“が変わるんだよ。印象もその人間の1部と認められているからだ。でも印象は“これ“と決まっている訳では無いだろ?だから、あやふやなんだ。分かったか?」
「ふーん、それがお前の考えか。」
「だからそう言ってるだろ。」
うーん、そこまで考えられるものなのか……しかし、そこまで断言する確証はなんだ?
「どうしてそう思うんだ。わざと記憶がずぼら改ざんしたかもしれないぞ。入れ替わった人間に自由にさせつつ、設定道理に行動させるためとかな。」
異世界から来ました!なんて信じてもらえないし、ややこしい事になりそうだからな。少しづつ周りが抱く違和感を頼りに前の人間に近づけ用とする。さすがにそれぐらいは考える!
「それだったら最初っから完全に記憶を入れ替えるだろ。お前にも入れ替わる前の人間の生活の記憶を何らかの形で託すだろ。それが普通だ。でも、それをしなかった。いや、出来なかったんだ。なぜだと思う?」
俺にわかるわけないだろ………馬鹿にしてんのか!
俺の苛立ちが伝わったのか、得意げな顔で話し出す。
「何故なら能力は“ひとつだから“だ。水を操るならそれしか出来ない。移動させるなら移動しかできない。だから今回の能力を“異世界から転生、または中身の入れ替えをする異能“だとしたらそれしかできないんだ。“記憶の改ざんをする異能“とは別の異能だからな。ほかの人間に協力してもらえない限り2つの能力にはかかることは無いんだよ。まぁ、俺が知っている限りの知識によるものだし、能力が想像と違うかもしれないし……あくまでも仮説な。」
なるほどな。でもすごい考察力。力がひとつしか無いということからここまで考えられるとは……という事は魔法みたいにいろんな能力が使えるわけで笑はないのか。なんか不便………
いやー、こんな世界で大丈夫だろうか。全くもって受け入れたくない。能力は限られた力しか使えない、魔法とは全く違う世界だ。今までの生活じゃ到底考えられない未知の力とはいえこうも想像していたものとは違うとは……異世界からきた俺が人の体とはいえ上手く力をつかえるだろうか。だって俺……
紫の壁(箱)を出す力だろ?
葉山 賢治 18歳
自分の力に絶望中___