出会いの別れ
またまたどこだここ__
二度目の見知らぬ場所。と言うより、「場所」という言葉が似つかわしくない、何も無い白い空間。今ここで俺はふわふわ浮いている。状況が読み込めん。
「やっとお目覚めかしら?フフ」
後ろから声が聞こえたな。
声がした方に何とか顔を向けようとするが、勢い余って一回転しそうになった。何とか堪える。難しいな。宇宙空間ってこんな感じなのか?
「フフ、慣れれば楽なものよ。ちょっと楽しいでしょ?」
うーん、言われてみれば。てか、今の声にでてたか?
「ここは貴方の意識の中のようなものなの。だから考えていることは全て聞こえるわ。貴方の意識がこの空間と同調している感じかしら?この空間自体が貴方の声を伝えてくるの。」
「えっ……」
こ、怖っ!心が読めるとか一番あっちゃダメなやつじゃん!それに俺の恐怖の対象!下手なこと考えられねー!
「全部聞こえているわ。それに心を読んでいる訳では無いのよ?ちゃんと話聞いてたの?」
「いや、変わらなくね?」
「変わるわよ。そもそも私は“心を読む“力じゃないもの。」
どう言うことだ?と言うより……
「なんで俺が二人?」
「………」
えっ。何か触れちゃいけなかったのか……
「はぁ。やっと触れてきたわね。自分の体を見てみなさい。」
「?」
あれ?手がおっきい。それに足が長い。少し日に焼けた肌。最後のあの日、来ていたジャージ。体を触ると分かる。これ、男の体だ。さっきまでの少女の姿とは明らかに違う。
と言うことは、自分の体に戻った!?良かった!これで元の世界に戻れるのか!
「ちょっと、自己完結しないで。それに気づくの遅すぎ。こっちの体は元々私の体だからこの姿でいるだけ。それに実際の貴方は私の姿のままソファーで寝ているわ。ここには意識だけしか来れないから仮の器は自然と“本来の自分“になるの。」
と言うことは?
「元の世界に戻れる訳でもない。ただお話するだけの場所ってことよ。そしてお互いを認識しやすいように“体の形“があるだけ。」
そ、そんな……
「早とちりしたあなたか悪いわ。」
意外と辛辣だ。それに最悪な事実を改めて実感することに……
「反省は後にして。時間が無いの。これから私が説明するこの世界についてよく覚えときなさい。」
「ちょっと待てよ!まず君は誰なんだ。」
そう、さっき彼女はあの体は“自分の体“と言った。つまり、俺が彼女になる前(?)は彼女が自分の意思で生きていたという事だ。でも今は俺の意識が入っている。なのに彼女は目の前にいる。どうなってんだ。
「私の名前はレイラ。貴方の今の体、要するに少女の姿の持ち主だったものよ。」
だった?
「そう。貴方が目を覚ました状況、知っているでしょう?人攫いの奴に襲われた時私は頭を強く打った。その時死んだの。そしてその体は貴方に託されたの。」
「どうして俺に……」
なんでよりによって俺なんだ。
「選ばれたのは全くの偶然だった。ただ貴方が私と同じ時間に死んだ人間であり、同じ異世界の住人だったからよ。」
「“同じ異世界の住人“ってまさか君も……」
「あら?察しがいいじゃない。そうよ。私は7年前にこっちの世界に来た人間。ここの住人にとっては異世界人になるでしょ?。私達。」
こいつも俺と同じだったのか……
「あと、私の方が歳上だから。ちゃんと礼儀をわきまえなさい。じゃないと教えないわよ、色々。」
は?明らかに少女だろ。いくつなんだよ……それになんでこっちに来たんだ……
「はぁ。私が転生したのは20歳の時。風邪を引いてた日。雪で足を滑らせて転けた迄はよかったの。」
何か語り出した!ため息までつかれたし。てか、いいのかよ!転けたこと!
「問題はその後よ。家に帰って寝ていたの。怪我もしてたし、疲れたし。そしたら……」
な、何があったんだ……
「死んでた。」
え!?いやいやいやいや!おかしいだろ!
「何があったんだよ!」
「叫ばないで、うるさい。」
「いや、普通気になるだろ!可笑しくない!?なんでそこで死ぬの?何があったんだよ!」
「ただ風邪こじらせただけ。そして寝ている時にしたくしゃみが原因で頭を強く打って死んだの。打ちどころが悪かったみたいね。仕方ないわ。」えぇー!それでいいのか!?
「黙りなさい。貴方のせいで話がそれてしまったわ。無理やり戻すわよ。」
逆ギレ!?いや、騙り出したのはお前な。
「まず私は気づけば赤ん坊になっていたの。」
無視された。てか、赤ん坊って……
「1,2年程の屈辱の日々お過ごす羽目になったわ。」
うわぁ……心中お察しします。
「そして3歳の誕生日。ある手紙が届いたの。」
飛んだな。……?手紙?
「そう、手紙。司令が書かれた手紙。」
「司令って……何が書かれていたんだ?」
「ある人物の殺害。」
「なっ!?」
殺害って殺すことだよな!?なんでそんな手紙が3歳児に……いくら中身が20歳超とはいえおかしい。
「他にもこの世界についてある程度の情報が載っていたわ。それらを元に旅をして、その人物を殺さないといけないらしいわ。」
らしいってそんな他人事みたいに……
「“ある人物“とはいつ、出会えるかは分からない。だから殺さないといけないけど、無理ならいいと書いてあったもの。」
なんだその適当な司令……でも断っちゃえば関係ないってことで他人事に出来るよな?何かその態度に納得。
「ちょっとイラッときたけどまぁいいわ。私はその手紙を読んだ。そして拒否した。その証拠にその手紙を実際に燃やしたわ。これで拒否したことになると思ったし。」
な、なんと過激な3歳児だ……
「まあ拒否したから用済みになったのね。」
えっ?
「“受け入れなかった場合、それ相応の対応をするかもしれない“と書かれていたの。」
それってほとんど拒否権ないだろ。
「じゃあまさか……」
「たぶんそうよ。あの日、人攫いに出会った日。いろんな偶然が重なっていたもの。」
「……どんな偶然なんだ?」
「……まず1つ。あの日に限って近くのお店が閉まっていた。ほぼ毎日開いているのにね。そして隣町まで行くはめになったの。それから2つ目。道が通れなかった。理由は馬車の横転。なんでもケチな商人の所有物で、誰もちかづけてもらえなかった。散らばった積荷の盗み防止のためだったようだけど、お陰様で遠周りになって帰りが遅くなったわ。そして3つ目。恐ろしい程平和なこの街に、初めて人攫いがやってきた。しかも名の知れた方の奴らが。そして街の大通りで私に目をつけたの。何十人も行き交っていたのにね。」
……なんとも言えない。ただ運が悪かっただけと言えばその通りなんだろうが……
「確証はなんだ。ただの偶然かもしれないし……思い込みじゃないのか?」
「私もそう思ったわ。いえ、思いたかった。」
「……何かあったんだな。」
しばらくの沈黙。
「証拠があるんだな?」
「えぇ、証拠が“今のこの現状“よ。」
おい待てよ。
「なんでそうなるんだ。」
「意識を失ったあと、気づけばこの空間にいた。そして頭に声が流れてきたの。貴方を“代役にしろ“とね。」
「だから、私の今の使命はあなたに私の役割を受け継がせ、承諾させること。ここで貴方が許可しない限りすぐにあなたわ死ぬわ。」
「なんでだよ!!俺はまた、死にたくないからな!」
とばっちりだ!偶然で転生させられて使えなかったらポイかよ!なんなんだ!
「貴方が嘆いたとこでどうしようもないわ。でもごめんなさい。どうか受け入れて欲しいの。私だって未練がいっぱいあるわ。こんなこと言いたくもない。」
急に落ち込むなよ。調子狂うな……
「でも仕方ないわね。私もまさか死んでしまって、他のやつが私の体に入るとは思わなかったし。代役を立てることになるとも思わなかったしね。うん。諦めも肝心。」
前言撤回だ。やっぱりこいつ怖ぇ。
「さぁ、どうする?貴方が決めなさい。いえ、早くYESと言いなさい。」
おい、選択肢すらないのかよ!
「無理矢理だな!でもまぁいいよ。司令に従うよ。はい。従います。」
どうせダラダラして適当にすればいいよな。いつ会えるかわかんねぇし、誰かもわかんないしな。うん!まずは自分の身の安全確保をして置いた方がいい。何よりこいつも4年は無事だったってことだろ?それっぽい動き見せれば平気なんじゃ……
「言っておくけど、心の声丸聞こえよ。それに今貴方は了承したからもう逃げられない。ある程度、定期的にしっかり行動しないと私の二の舞になるわよ。そうね。行動するのは半年に一回ぐらいは必要かしら?」
なんだって!?
「いつ会えるかも分かんないんだろ!?ならすぐ行動しなくていいだろ!しかも結構な頻度じゃねぇか!」
「私に怒鳴らないで。あなたの考えが甘すぎるから行けないの。よく考えてみなさい。いつ会えないかわからないからこそ、常に行動しなくては行けないの。“いつ“というのは明日かもしれないじゃない。1度チャンスを逃すと次がないかもしれないわよ。」
確かにそう言われたらそうだが……
「いい?もう貴方は動かないといけない。承諾したんだもの。これから仲間を見つけて、旅をして。それが一番効率的よ。そして“ある人“を殺して。」
「でも俺は……」
「分かってる。貴方は人を殺したことなんてないだろうし、とても嫌だと思うわ。でも、お願い。この願いを聞いて!これしか方法がないの!皆が助かるにはこれしかないの!」
どうしてそんなに必死なんだ。それに皆って……
「もう時間が無い。話したかったことがいっぱいあったけど手紙に書いて送るわ。絶対に読んで。そして処分して。絶対にあなた以外に見せないで!」
なんで……そこまで……
「最後に一つだけ。これだけは言わせて!」
「貴方でよかった。ありがとう。」
そんな……永遠の別れみたいに言うなよ……
「“あの人“は“優しい目“を持っている。これが見つける方法よ!」
なんだ……それ……
「“虹の瞳“を集めれば見えてくるわ!」
“虹の瞳“?それは……
「どうか生き抜いて。強く、正しく。」
最後の言葉は酷く優しくて、泣きそうで……
だから思った。答えなきゃ。ちゃんと自分が。
「あぁ、任せろ。」
あぁ、無責任かな?
俺は目をつぶった。眩しい光が部屋全体を包み込んだから。最後の彼女__レイラの顔は見えなかったけど俺には分かる。泣いているんだと。
しかし、困ったな。女性を泣かせてしまった。俺だって腐っても男だ。なのに、泣かせるなんて最低だ。
人を傷つけるのが1番怖いのにな__
あーあ、とんでもないことに巻き込まれた。
葉山 賢治 18歳
人殺しを___決意(?)