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碧の死神 "Beyond heat haze"  作者: dispense
確かな記憶
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光芒

宣戦布告



 無事に着地した翠だったが、すぐ頭上を脱出した輸送機が過ぎていった。黒煙を噴き出しながら斜めの方向へ落ちていき、次第にビル群に隠れて見えなくなってしまった。

 翠は誰一人として救う事が出来ず、また自分だけが優先して生き残ってしまった事に行き場のない憎悪と憤怒を覚えてしまっている。助かる命が自分しかいなかった。残っているのはその事実だけだ。



 いつまでも悔やんではいられない。すぐに立ち上がって紛失してしまった装備が無いか確認をする。

 体に直接装備している戦闘装着一式は脱落していない。しかし、突撃銃を落下の際に落としてしまったようだ。残っている武装は拳銃とナイフ、手榴弾3発のみ。状況を確認し終えたらすぐさまホルスターから拳銃を引き抜いて道路の中央から端の方へ移動した。


 翠は早足で進みながらプルートー基地への通信を試みる。



「こちら高那 翠からプルートーへ。こちら高那 翠からプルートーへ。空中機動戦闘部隊及び第一対策部隊が輸送機墜落により全滅。繰り返す。空中機動戦闘部隊及び第一対策部隊が輸送機墜落により全滅。敵情報は未だ不明確である。大至急、指揮を願う」



 冷静に状況を説明した翠。息を継ぐよりも先にプルートー基地通信隊から返答が来た。



「こちらプルートー、現在の状況は衛星映像によって把握している。直ちに回収部隊を向かわせた。10km先の回収地点で合流せよ。ルートをヘルメットHUDヘッドアップディスプレイへ送信する。以上」



 思っていたより向こうは冷静な対応だった。翠は"了解“と一つ返事を返してHUDに送信された指示ルートの示す先へ走り出す。

 硬いコンクリートをひたすら蹴り続ける翠。10kmだ。どれだけ走ってもビルジャングルで景色が変わらない。後ろを振り向いて"恐竜"がどうなっているのか確認しても、遠すぎて動いてるのか止まってるのか分からない。

 少なくとも、こちらを認識していないだろうという願いを祈りながら全力で回収地点へ向かった。


 走り続ける翠。気がつけばあと2kmのところまで近付いていた。ビル群の隙間から輸送ヘリが降下して来ているのが見えた。

 不安が解れそうになるが、緩む気持ちを抑え込み、いつどこからファントムが奇襲してくるのか?を備えながら疾走する翠。ホルスターから引き抜いた瞬間から、拳銃はずっと右手に握り締めたままだ。


 コンクリートを駆け抜け、ついにヘリが目の前に見えてきた。ハッチを全開にして翠の搭乗を待っている。



「走れ、早く!早く乗れ!」



 搭乗している隊員が叫ぶ。翠は飛び込むようにヘリに乗り込んで、息を整えるよりも先に通信を開く。



「こちら高那 翠からプルートーへ。回収ヘリに搭乗した。繰り返す。回収ヘリに搭乗した。これより帰還する」



 爆発しそうな心臓が徐々に落ち着いてきた。30kg以上の装備を身に纏ってでのマラソンはたとえ鍛え上げられた軍人であっても難しい。翠はヘルメットを脱ぎ捨てるように外して座席にもたれかかった。



「ご苦労、少尉。だが休んでいる暇は無いぞ。30分以内に第二波のクオックスウルフ隊が飛んでくる。第一機甲連隊の有脚戦闘車中隊も出撃を開始しているとの事だ。大掛かりな作戦になるぞ」



 ヘリパイロットは淡々と話しかける。翠はすぐには返事をせず、呼吸を整えてから冷静に言葉を返した。



「我々歩兵が出る幕はあるだろうか」



 と翠。



「…ブルーリーパーは3両だけMBT(主力戦車)を保有していたな。米陸軍のお下がりだが、結局埃被ってしまってる。いつ使うことになるのやら」



 緊張が解けた後の他愛のない会話。それが終わると、翠は機内のモニターで外の景色を眺めていた。


 …今からどうなってしまうのか?何が起ころうとしている?その結果は、どうなってしまうんだ?


 翠はひたすら頭の中で不安が反復してしまう。今乗っているこの輸送ヘリだっていつ撃墜されるか分からない。あの"ビーム"がいつ飛んでくるか。

 義手が震えていた。この震えは恐怖から生まれているものか?役一年間も戦場に身を投じて、様々な地獄を潜り抜けてきた自分が、今更恐怖に怯えているのか?


 17歳の"兵士"は現実から塞ぎ込むように瞼を閉じてしまう。もしも全てが夢ならどれだけ幸せな事か……。そんな思考すら、未来への恐怖でぐちゃぐちゃになってしまう。


 心地の最悪な機内の座席で石像のように固まっていた翠に、乗組員の1人が携帯端末を見せてきた。



「見ろ。日本政府の緊急会見だ」



 その画面にはリアル中継の会見が映し出されている。

 現首相が緊迫した様子で尚且つ冷静に現在の状況を説明しており、無理矢理にでも野次を入れようとするマスメディアを牽制していた。

 そしてついにこの言葉が放たれた。



「緊急事態宣言、並びに防衛出動を発令します」



 騒つく会場。それを横目に首相は言葉を続ける。



「首都圏にて確認されている謎の巨大超常物体に対して出撃しているブルーリーパーへ、我が陸海空全ての自衛隊戦力で全面協力することを、ここに宣言いたします。国民の皆様におきましては、陸上自衛隊と在日米軍の避難誘導に従ってください」



 総理が言葉を言い切る。本来であれば、防衛出動は事態対処法9条に基づく国会を通さなければ発動することが出来ない。

 この瞬間、自衛隊は武力行使が全面解除され、物資収用が行われる。日本国が完全な戦時体制へ変貌するのだ。

 かつて国家間戦争寸前まで緊張が高まっていた時代、傭兵時代と称されていた頃に防衛出動が発動された事がある。結果としては米軍に協力する形だけで終わった出動命令だったが、今回は違う。


 日本国領土が、人類が、地球が、攻撃を受けている。侵略を受けている。

 ファントムが明確に人類へ宣戦布告をした。よってこれに対する報復攻撃を執行する。

 日本政府はそう"判断した"のだ。


 野党やマスメディアから"国会の承認を受けていない"と猛烈に批判される日本総理だったが、目を閉じて浅い礼を国会中継のビデオカメラの方へ送ると、そのまま早足で場を去った。

 唖然とする会場。


 それら全ての流れを見ていた翠は、冷静に確かな意志をもって囁いた。



「これは、戦争だ」

「地獄を経験しているなら、そのまま突き進め」 


サー・ウィンストン・チャーチル

イギリス国第61・63代首相

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