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碧の死神 "Beyond heat haze"  作者: dispense
確かな記憶
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群青

 手袋は、既に人類へ投げられた。

 肉塊がひたすら街中を蠢くのを輸送ステルスヘリの中でただ見ているだけだった。空自の攻撃隊が来るまでは何もする事が出来ない、ただディスプレイの映像を見つめているだけだ。

 最後の通信から5分後、ジェットエンジンの轟音が機内に響いてきた。航空自衛隊の対地攻撃隊が到着したのだ。



「こちらp・リーダー(パイク・リーダー)より各機へ。これより2分後に爆撃が開始される。データリンクにて送信した指定数の対物無誘導弾を発射せよ」



 まるで光に集まる蛾のようにクオックスウルフが散開し、攻撃準備を整える。尚も肉塊は侵攻を進め、こちらの動向を無視している。


 2分後、ついに攻撃隊が到着した。音速巡航下での誘導貫通爆弾が翼から発射された。

 数は20。5機編隊による空爆。次々と肉塊に突き刺さり、内側から爆発していく。



「ロケット発射」



 それに続いて空中機動戦闘部隊、p隊が支援攻撃。無数の60mmロケットが一直線に肉塊へ。

 二つの爆風が絡み合う。機内は爆発音が轟き、隊員達も固唾を呑んで状況を傍観していた。



「貫通爆弾が途中までしか突き刺さらないのか」



 p・リーダーが独り言のように呟く。



「こちらp・リーダーから各機へ、これより接近を開始して目標の損傷状態を確認する。p-7、p-8は空中で待機」



 p・リーダーを中心に6機のクオックスウルフが地上へ。7mの鋼鉄の巨人が舞い降りる。

 36tの重量に耐えきれずコンクリートは罅割れるが、それに構う事なく120mm滑腔砲を構えながら接近を開始。迅速な緊急離脱のために推進機は点火したままだ。浮足の状態で歩く様は空中機動力を有する人型兵器特有の動きである。

 ゆっくりと、着実に近づいて行く鋼鉄の巨人達。砲口は一直線に向け、ついに距離50まで近付いた。一列縦隊で全ての火砲が目標に集中している。



「サーモディスプレイに変更」



 立ち上がる煙を透かす。先頭のp・リーダーは徐々に浮かび上がるシルエットに焦りを覚え、操縦桿を握り込む。しかし数秒後、彼は呆気を取られてしまう



「……恐竜?」



 その言葉を発した瞬間、煙から光が漏れだした。正確にはレーザー光線が発射されたような光だ。その光はp・リーダーに当てられた。


 機体の正面装甲が溶ける。



「リーダーがやられた。散開しろ!指揮権はp-2が引き継ぐ。逃げろ、速く!」



 皆が認識するより速く、p・リーダー機の上半身は蒸発して"焼失"していた。まるで精密機械によってレーザーカットされたかのような断面。制御バランサーを失った機体はそのまま崩れるように横転した。


 こもった煙が晴れてきた。レーザー光線を発射した主が露になってくる。



「こちらp-2からp-7、8へ。状況が把握出来るか?」


 p-2から通信。



「こちらp-8。煙の中から光線が発射され、それに直撃した隊長機がロストしました……見えた。アレがさっきの光線を発射したようです」



 空中で待機していた2機は俯瞰視点で冷静に状況を確認していた。



「まるで恐竜だ」



 p-2が返答する。彼等の前に姿を現したのは、かつて地球に存在していた首長竜に酷似したシルエットの巨大な生物。しかし頭部に該当する部位が見当たらず、どちらが正面なのかが分からない。

 


「あの巨大生物は、あれか?肉塊から脱皮して出てきたという事か?」



 p-2がそう呟き、操縦桿を引く。



「全機、再び空中戦闘機動に移行して撤退しろ。いつさっきのレーザー光線を撃たれるか分からん。持ち堪えろ」



 p隊は猛々しく再び空を舞った。完全に煙が風に流され、露になった全体像を再確認する。

 やはり恐竜だ。そうとしか表現出来ない。しかしあまりにも超常的で、常軌を反している。まるで怪獣映画のワンシーンのようだ。


 ゆっくりと身震いをすると、"脱皮した恐竜"は歩みを始める。コンクリートが砕ける。想像を絶する質量が地を揺らす。



「こちらp-2から対策部隊へ。直ちに撤退せよ。我々が先導する、さぁ帰路へ!」



 p隊が翠達が乗る輸送ステルスヘリを囲むように機動し、2機だけ大きく離れて護衛についた。ヘイトを輸送機に集中させないように囮役を引き受けているのだ。先頭は指揮権を受け継いだp-2が陣取り、その後を追うように輸送隊が続く。


 ブルーリーパーが保有する部隊の中でもクオックスウルフを操縦する部隊は古株だ。過去にもファントム撃破の緊急出撃をこなしている。故に冷静に状況を判断しているが、輸送機の中は混乱していた。

 翠は今起きている状況を一つずつ分析して、次に起こるかもしれない最悪な事態を妄想してしまう。


 レーザー光線とはなんだ。クオックスウルフの正面装甲が一瞬で蒸発するのか。もし輸送機に当たればどうなる。掠るだけでも致命傷だ。


 頭の中が憂鬱になってくる。嫌なことばかり浮かんできてしまう翠。

 同乗している歩兵隊も何が起こっているのかイマイチ把握出来ていない者がほとんどで、忙しなく周囲を見渡したり、苛々して貧乏ゆすりをする者ばかりで騒ついている。


 翠も気がつけば手に握った突撃銃を固く握り締めていた。気を取り戻したかのように手元に視線を送り、グリップが握力によって変形していない事を確認する。



「こちらp-7から緊急通達。あの恐竜、おそらくこっちに顔を向けているぞ!気をつけろ!!」



 散開して随伴している機体が緊急ダイレクト通信を送ってきた。



「了解。こちらp-2から輸送機パイロット各員へ、直ちに回避機動を開始せよ。我が隊はこのまま後方へ機動するため、接触事故を起こさないように注意」



 p隊はアフターバーナーを点火する寸前までエンジン出力を上げる。一気に620km/hへ加速。


 狼の群れが、吠える。



「不味い!頭っぽいのが光ってる!」



 p-6が怯えたように叫ぶ。



「砲撃して気を逸らせ!絶対に輸送機には向けさせるな!」



 p-2はそう激昂すると120mm滑腔砲を"恐竜"に向け、無誘導照準で操縦桿のトリガーを引き絞る。

 だが遅い。滑腔砲よりも先に恐竜のレーザー光線が発射された。しかしその照準は輸送機ではなく、砲口を向けたp-2だ。


 一瞬にして蒸発する機体。p-2がロスト。



「こちらp-3から各機へ、指揮権移行は後だ。目標へ砲撃せよ」



 一番輸送機から遠くに機動しているp-3が通信。

 この状況、輸送機パイロットはかつてない緊張と焦燥感に駆られながら巨大な機体を操縦している。風防の真上で恐ろしい光量で光ってあるレーザー光線とやらがいつこちらに向かってくるか分からない。戦車砲を耐えれるクオックスウルフの正面装甲が一瞬で溶けたのだ。掠っただけで墜落するのが目に見える。


 皆が幸運を願って必死にもがく中、事態はひたすら悪い方向へ転ぶ。

 p-2へ向けられたレーザー光線はそのまま薙ぎ払うようにデタラメな軌道を描いた。

 倒壊していくビル群、まるで害虫を潰すかのように"駆除"されてしまった空中機動戦闘部隊。かつて戦場を支配していた最強の兵器が、なす術も無く消え去った。

 そして放たれたレーザー光線は輸送機の翼を掠め取り、息が切れたかのように唐突に放出が終了。



「右主翼及び右ローターエンジンがやられた!」



 パイロットが叫ぶ。



「搭乗員へ!耐衝撃体勢を____ああ!」



 自由が効かなくなった輸送機は空力バランスが崩壊してキリモミ状態になってしまう。

 輸送機が墜落する。高度100mから一気に高度が落ちていく。

 キリモミの衝撃で降下ハッチがこじ開けられてしまい、歩兵隊の数名が空へ投げ出されてしまった。更に気流が乱れて翠も宙を舞ってしまう。

 なんとか機内のパーツに捕まって持ち堪えるも、あまりにも激しい揺れにハーベスターの腕力ですら限界が来ていた。



「少尉、翠少尉!この機体はもう駄目だ!タイミングを見計らって飛び降りるんだ!我々の事は見捨てろ!」



 パイロットが叫んだ。



「しかし」と翠。「この状況では」



「貴官が死んでしまったら誰がファントムを殺せるんだ!今何とかして体勢を立て直している、合図したら降下しろ!」



 迂闊にしている翠を怒鳴り返したパイロット。

 彼の言葉通り、めちゃくちゃに振り回されていた身体は徐々に重力に引かれ安定していった。ほんの一瞬の機体制御。パイロットは間髪入れずに翠へ"飛び降りろ!"と叫ぶ。


 翠、壊れているハッチを蹴って無理矢理体勢を変更しながら射出されるように輸送機から脱出。

 再び身体が宙を舞う。しかし、瞬時に立て直して降下体勢へ。入り組んだビル群を避けながら、狭いコンクリート道路へ着地する。


 死神が、舞い降りた。

「敵陣強襲個人用空挺ポッド」

・米国が開発を進め、米軍特殊部隊が非公式に採用していた特殊装備。

 真っ黒なカプセルのような形状をしており、中心に搭乗する。

 高度1000m〜1万mからの降下を想定しており、制御用のバーニア、動翼がカプセルからせり出す仕組みになっており、専用輸送機"グリフォン"から射出される。

 バーニアによって急減速した後、カプセルが着地すると同時に上面に取り付けられた50口径チェーンガンによって周囲を一掃する。

 運用目的、設計が明らかな国家間戦争用であり対ファントム作戦において使用する事は無いだろうと想定されていたが、ブルーリーパーはこの装備を秘密裏に受諾しており、その存在を非公式にしている。

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