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碧の死神 "Beyond heat haze"  作者: dispense
確かな記憶
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発見

鐘が鳴る。鳴り響く。

 午前10時35分。晴天。空は雪を降らすつもりが無いようだ。

 新谷綾美との決裂から3日後。翠は新たなヘルメットと戦闘装着セットを受け取っていた。 A-TACS LE CAMO迷彩の新型バリアドレスに、それに色を統制した装具。新品のヘルメットは後頭部は黒く塗られ、全面は白い塗装のままだ。鋭いV字のバイザーが光る。

 左袖口から覗くステンレスの義手は、まさしく死神の手と言えよう。

 新しく導入された新型プロテクターはより頑強となり装着者の肉体を保護してくれる。ハーベスターは進化を遂げた。


 翠はサイズの調整を終えた後、個人ロッカーへそれら一式を纏めて詰め込む。次は小銃の調整だ。マグポーチを装着したバトルベルトのみを腰に巻き付ける。

 武器庫へ足を運び、申請許可が無事に通っていることを確認して自分のIDと照らし合わせながら小銃を探す。5分も掛からなかった。ロックを解除してMK.5を担いで射撃場へ向かう。

 一新したカスタムのMK.5は非常にシンプルなものだった。レイルカバーと支給品の照準器を載せただけのカスタム。それをゆっくりと構えて、単発射撃で引き金を絞る。

 発射。重たい銃声が誰もいない射撃場に轟く。補助機械を使えばゼロイン調整にさほど時間は掛からない。翠は再び引き金を絞る。

 午後12時08分。翠は全ての調整を終える。

 左目に装着した眼帯型網膜投影機は無事に機能しており、翠に確かな視界を与えている。調整時には目が焼き付きそうになったが、そもそも視力を喪ってしまっているのだ。気にしたところで意味がない。


 翠という兵士の修理が完了した。この瞬間、戦場に投入可能な状態に復帰。翠は電子端末でアンセム少佐に連絡。



「御忙しいところ失礼します。こちら第1対策部隊長、高那翠少尉であります。調整完了いたしました。出撃待機に復帰いたします。」



 射撃場から離れたところで、翠は淡々と言葉を連ねた。



「許可する。しかし貴官の健康状態は未だ不安定である。発現した"特殊能力"について随時情報を報告せよ。以上。返礼はしなくていい、それでは」



 アンセムが先に話を切り上げた。

 特殊能力。そうだ、翠は作戦中にトン・モーザと同様の性質をもつ特殊能力を使用したのだ。辛うじてヘルメットカメラが生きており、その映像を見た研究班が大慌てで書類を漁り始めたのだ。

 翠自身は前回の出撃について詳しく記憶していない。左を失明した原因はなんとなく脳に残ってはいるが、その直前に何が起きていたのかよく覚えていなかった。

 装備調整に入る前、より一層目の隈が濃くなっている研究班の連中が声を掛けてきたが、結局翠自身が正確に記憶していないのだからあやふやな返答のみで、彼等との会話よりも装備調整を優先した。

 読都新聞事件は既に皆の記憶から忘れ去られようとしている。あれほど大きな被害を出した事件だというのに瞬間的な話題性のみが取り上げられ、最終的には被害を抑えることの出来なかったブルーリーパーの責任になる。いつもの流れだ。

 ビル周囲を徘徊していたタイプe(斧を持ち、音を出さぬ翼を有する巨人型ファントム)は一度は逃がしたものの、後日航空自衛隊戦隊機の協力のもと殺害され、焼却処分となった。

 

 やがて少佐と話終えた翠は先に腰のバトルベルトを外すために隊舎に足を運んでいた。

 長い廊下を歩いて原隊の部屋番号を探しているとき、突如アラートが鳴り響く。


 緊急アラートだ。

 落ち着いたのも束の間、翠はMK.5を担いだままブリーフィングルームへと駆け出した。



 午前11時03分。薄暗いブリーフィングルームに第1対策部隊モーザ隊、改め翠隊と他の対策部隊が集合した。欠席確認を行った後、アンセム少佐がホワイトボードの前で急ぎ気味に敬礼。



「情報が真新しい。実際の現場とは異なっている可能性に注意をして聞いてくれ」



 アンセムが説明を開始。どうやら、首都圏JR駅周辺にて大型未確認ファントムが出現したとのこと。現場に駆け付けた装甲機動隊からの情報では、ファントムというより動物の内臓のようなグロテスクな物体が街を飲み込むように地下から現れたとのこと。

 詳しい情報が不明で、これまでのファントムとの類似性も分からない。完全に未確認の物体が街を襲っているらしい。あまりにも不透明であやふやな情報しか伝達されていない。

 よって、我々ハーベスター部隊が現地へ出撃して偵察、そして民間人の救出を実行するとのこと。陸上自衛隊と在日海兵隊は既に出撃を開始している。



「その、内臓みたいなファントムってどのくらいの大きさなんです?街を飲み込んでるんでしょう?」



 第4対策部隊バルドマン隊の副隊長、 イシャク・トプチュ少尉がアンセム少佐に質問。



「不明、現在測定が不可能だ」



「そんな奴に鉛弾撃ち込んだところで殺せるんですか」



「故に我々が対策を練るのだ」



 アンセム少佐も焦っているようで、いつもの冷徹な雰囲気は消えていた。

 他の隊員があまりの唐突な事態と情報に頭を抱える中、翠はただ黙々とアンセムが説明した情報を脳内で整理していた。



「ブリーフィングを終了する。7分以内に出撃準備を完了し、ヘリポートに集合。解散」



 その言葉と共に部屋を駆け足で飛び出て、各自出撃準備を開始した。

 翠は一足先に武装を掌握してるため、個人ロッカーで再び戦闘装着を行ってヘリポートに一番乗りした。同時に集合していた歩兵隊も経験のない情報に困惑している様子だった。



 各員、迅速に点呼を完了して対策小隊は次々とヘリに乗り込んだ。


 数十分、静かな機内に揺られ次第に目標ポイントに近付いてきた。先行していた空中機動戦闘部隊のグレイ-Wから通信が入る。



「こちらp-リーダー。目標を視認。情報を送信」



「こちら第1対策部隊、了解した」



 機内の簡易ディスプレイにデータリンクで送信された映像が投影される。



「……肉塊が街を飲み込んでいる?」



 一人の隊員が言葉を漏らす。他の皆は口を縫われたかのように沈黙し、ただ画面を見詰めていた。翠ですら状況の把握が遅れている。そうなるほどにディスプレイに映る映像は余りも非現実的で理解し難いモノだった。


 映像には推定が不可能なほど巨大な肉塊が建物を文字通り"飲み込んでいる"状況が映されていた。色は薄い赤、よく見ると紫色の管のようなものが血管のように肉塊の周辺に蠢いているのが確認できた。

 ただ無限大に肉塊が巨大化していってるのではなく、ある一定の変動を繰り返しながら少しずつ移動しているようだ。


 誰もが今まで生きてきて一度も見たことのない物体がそこにはあった。



「これは……どうすればいいんだ。攻撃するのか?」



「落ち着けp-2、こちらp-リーダー。このまま偵察を続ける」



 空中機動戦闘部隊から通信。それに第1対策部隊の通信手は返答する。



「陸上自衛隊と海兵隊はどこだ?撤退したのか?このまま飲み込まれるのを眺めていろと?」



「こちらp-リーダー。最初期の出現時点で民間人の避難は完了している。現在、未確認物体を中心として半径23km圏内の避難を進めているところだ」



「攻撃を実行するべきではないか」



「こうなると我々の判断のみでは対処が出来ない。政府による判断と発動が必要になる」



「首相官邸、または皇居に侵入した場合は?」



「現在の進行ルートを想定すると、首相官邸の方角に向かっているようだ。現在、航空自衛隊対地攻撃隊が貫通爆弾にて爆撃を決行すると首相が公式声明を出した。我々空中機動戦闘部隊は爆撃時に60mmロケットによる攻撃支援を行う」



「了解。命令が下るまで我々も御隊の偵察活動に追従する」



 通信手は回線を閉じた。一部始終を聞いていた翠は、ふと言葉を漏らす。



「自衛隊の奴等が来るまで、見学か」



 その言葉に頷く者はいても、返答する者はいなかった。密閉された機内からでも聞こえてくるグレイ-Wの強力なエンジン音が響く。

「対物強化装甲服」&「50口径特殊重機関銃」

・対ファントム作戦が開始されてから開発が続けられている強化服。全身を覆う装甲とエグゾスケルトンを上回るパワーアシスト機能を有する。

 専用装備の50口径特殊機関銃を用いて超能力エネルギーを持たない一般歩兵による火力制圧を目的とされている。

 ハーベスターの着用は想定されていない。

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