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碧の死神 "Beyond heat haze"  作者: dispense
微かな記憶
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崖から

 戦士たちに安堵する瞬間なんて存在しない。彼等の心は、常に削られているのだ。

 翠とカーベックは二日連続で出動していた。昨日の賃貸事務所でのファントム出現から21時間後、発生地点から2km離れたビジネスホテル周辺にて同型のタイプAが出現。数は13体と大群である。朝と夜の境目の時刻に出現したファントムに対応が遅れ、現在判明してる時点で7名の死亡者が確認されている。

 緊急出動した2人はHMMWVに乗り込み、現地へ向かっている途中だった。



「現場はどうなってる」



 車内の後部座席に座るカーベックが、隣で端末を触る翠に話し掛ける。



「現地の装甲機動隊が応戦中。既に1名が負傷している」



「渋滞になっていなくて良かった。この速度なら間に合う」



 カーベックがそう安堵して窓を覗こうとしたとき、ドライバーが叫ぶ。



「不味いぞ。デモ隊が道を塞いでいる。」



 目の前のスクランブル交差点にはブルーリーパーに反対する大勢のデモ団体が行進していた。彼等は設立当時から反旗を立てていた者達で、デモ行為が次第に過激化していっている。近年ではついにブルーリーパーに所属する隊員が負傷するという事件が起きているのだが、その殆どはニュースでは全く取り上げられず闇に埋もれている。

 ドライバーは迂回しようとしたが、図体の大きいHMMWVが抜けれそうな道がない。ブレーキで速度を落としながらデモ隊へ近付いていく。それを見たデモ隊は一気にこちらを睨み、駆け寄ってくる。彼等の手には巨大な看板と横断幕。中には凶器のようなものを握った老人達がいた。

 完全停止せざるおえなくなったHMMWVを囲み、ドアを窓をひたすら叩きつける。



「くそったれ共が。轢き殺そうぜ」



 苛ついたカーベックは怒鳴る。ドライバーは諦めたような顔になり、いつ窓が割られるか分からない状況になっていた。



「アクセルを離したら駄目だ。少しずつでも前進しないと突破できない」



 翠はそういうが、ドライバーは今動いたらより酷いことになるぞ!と返す。デモ隊は車体に密着し、運転席の窓を覆い隠すように横断幕を広げていた。



「おい翠、出るぞ」



 業を煮やしたカーベックは天井のハッチを開く。



「待て! 今外に出るのは危険だ!」



 ドライバーは制止しようとするが、構わず車外へ飛び出るカーベック。翠もそれに続いて外へ出た。車体上面へ出た2人だが、下にいるデモ隊が2人に向かって凶器を投げ付けてきた。スリングショットから放たれた石が翠のヘルメットを掠める。

 倒れそうになった彼の肩を掴み、カーベックは命令する。



「翠、お前はあっちの壁に飛べ。俺はこっちに行く」



「飛び越せるのか?」



「やるしかない。行くぞ」



 そう伝えたカーベックは大きく跳躍して建物の壁に飛び移った。翠も遅れないように反対側の建物へ飛ぶ。壁に身体を打ち付け、握力で貼り付きながら壁を蹴る。再び身体は宙を舞って包囲網を飛び越えた。

 無事に着地した2人は、後ろから全力で追いかけてくるデモ隊から逃れるように走り出した。


 背後で聞こえてくる怒号が遠いでいき、やがて街の雑音で掻き消されて聞こえなくなる。反対に地面を蹴る音は次第に加速して、大きなってく。装備品が擦れ、打ち付けあう音が耳障りだ。



「あそこだ。機動隊が見えた」



 20分は全力で足を走らせているはずのカーベックは、呼吸を乱している様子もなく冷静に翠へ伝える。通信で前線を維持している機動隊員へ連絡し、早急に撤退させて包囲網を作成させた。その間に2人は道塞ぐ何台もの装甲車を飛び越え、穴蔵へ落ちていく。

 翠は落下と共にナイフをタイプAの顔面に突き立て、カーベックは銃を構えて正確に発砲していく。立ち上がった翠はすぐに彼の横へ回り込み、膝をついて援護体勢を取る。奴等が槍を吐き出す前に迅速に制圧しなければならない。重圧な7.62mm弾の発砲音が赤色に光る信号機の下で轟いた。

 カーベックのリロードの合図と共に横へ身体をズラすように歩き出す2人。バリケードに隠れ、ファストマグから引き抜いた最大装填のマガジンをMK.5へ押し込み、再び射線へ。足元には数えきれない薬莢が転がり、金属がコンクリートに跳ね返る音が続く。



「終わったか?」



 合計66発の発砲の後、目の前にいた全てのファントムは地に伏していた。カーベックは銃口を下ろして問いかける。



「数が合わない」



「どこだ?」



 刹那、空から風を切る音が2人の聴覚保護装置で守られた鼓膜を刺激する。カーベックは翠の身体に腕を引っ掻けて押し倒すようにその場を離れる。靴を掠めそうな距離に有機的な槍が落ちてきた。

 1体のタイプAがビルの屋上に登り、狙撃していたのだ。カーベックは槍が落ちてきた角度から瞬時に居場所を特定し、右手と肩のみで保持したMK.5の銃口をそれに向けた。サイトを覗く暇もなく、目測と勘のみで照準を合わせて引き金を絞った。


 口内に弾丸を受けたタイプAは、膝から崩れるように屋上から滑り落ち、肉が砕けるような音を鳴らしてコンクリートに叩き付けられた。



「上か」



 そう翠は言葉を漏らす。ゆっくりと立ち上がって、カーベックを見る。



「一本くらいなら、バリアドレスで防げたな」



 視線を感じた彼は、銃のストックを地面に置きながら言葉を返した。

「ヘルメット」

・ハーベスターが被るフルフェイスのヘルメット。常人を遥かに越える運動量と機動力。そのスピードによる顔面への事故と、戦闘補助を目的に開発された特殊装備。

 外部カメラによる映像を内バイザーに投影し、その他様々な情報を装着者に映し出す。

 現在第3世代まで開発され、配備が進んでいる。第3世代機では装着者の視線によって光が動くバイザー型特殊集光カメラに、内蔵型熱源探知装置を装備。防塵防毒システムも受け継いでいる。

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